16 祖父病んで父祖の田ただの夏草に
句集「むずかしい平凡」自解その16。
これもまあ読んでそのままの句なんですけれど。
祖父というのは、私自身の祖父のことではありません。知っている若い友人の祖父。じいちゃんが病気なっちゃって、田んぼがすっかり荒れちゃって、とそんなことをボソッとつぶやいていたのが、どこかに残っていたんです。代々受け継いできた田んぼを、父も継いでいないし、自分も継ぎたいとは思わない。だから夏草に任せるままになっている。
これは福島の現状でもありますね。
汚染がひどかったところは、今ではソーラーパネルが設置されていたりするんですけれど。
そうでないところは、それでも汚染を気にし、ただでさえ農業で生きることは難しいので、離農してゆく。土地の手入れが行き届かない。
今では、その土地が切り売りされ、宅地化されていますね。
しかし、宅地にもならない場所、というか宅地に慣れない場所は、イノシシや熊の跳梁跋扈する世界になっています。獣害防止の手を打っても追いつかない。
コロナで地方移住が進む、というけれど、本当なのかと思ってしまうほど、静かな農村の荒廃。けっこう深刻ではないか。そんな気持ちがこの句を作らせました。