15 蟻と蟻ごっつんこする光かな
句集「むずかしい平凡」自解その15。
句集の帯にもこの句を使いました。また、デザインにも登場してもらい、蟻君には大いに活躍してもらっています。
蟻と蟻がぶつかるように見えたんですね。べつに彼らはなにかを確かめているだけなんだろうけれど。でも、なんだかあの黒い頭と頭がぶつかって、ごつんと音を立てているかのようでした。出会いをしっかり確かめ合っているんだろうか。そして、夏の暑い日差しの中、その両者が、ぴかっと光りあっているかのようにも感じたんですね。
それをみながら、ある種の神話的な時間の中にいるような気がして、人間にもこういう光というのがあるのだろうか、あってほしいもんだなと思った次第。
そして、考えてみれば、これだ!と俳句を思いついた瞬間、あるいは句会などで素晴らしい句に出会えた瞬間などは、こういった光を発しあっているんじゃないだろうか、などと思ったりもします。
ただ、この句を作った時は、そんな深いことは全然考えていませんでしたね。見たままの姿を、どうすれば言葉に置き換えられるか、それだけでした。無心になれたときは、いい句が降りてくるような気がしますが、無心って難しいもんです。
さて、この句については、俳壇の重鎮、宮坂静生さんが日本農業新聞で取り上げてくださっています。まことにありがとうございます。ここでも使わせてください。
ほんとうに過分なほどのお言葉ですが、ほんとうに人間にもこういった蟻たちのような嘘のない、純粋な交歓がもっともっとほしいものですね。