13 はつなつの淋しさいちまいの湖
句集「むずかしい平凡」自解その13。
「はつなつ」とあえてひらがなで書きたくなったんですね。
漢字で書けば「初夏」。これだとふつう「しょか」と読む癖があるので、ここは「はつなつ」と読んでもらいたかった。ならば最初からひらがなで書いてしまえ、と。
初夏はたしかに気持ちのいいものです。若葉、薫風、青空、などなどなんだかうれしくなる季節。でも、その一方で、どうにも気持ちがふさぐというか、まわりが陽気になればなるほどどこか沈んできてしまうようなところもある。とくにひとりになったときはそうですね。
別にこの句ができたとき、気持ちが落ち込んだとか、鬱になっていたとか、そういうのではないのですが、湖のほとりを車で走っていたときに、静かな湖がそこに一枚の紙のように光っているのを見たとき、なんともいえない淋しさを感じたんですね。なんとなく、人間だって、一人というより一枚の存在に過ぎないんじゃないか。そんな気分になってしまったんですね。
みんなあかるく過ごしているように見えるけれど、しょせんは一枚の存在。
「明るさは滅びの姿であろうか」(太宰治)
なんていう気分ともどこか入ってくるような感覚。でも、こういうしーんとした明るくもさびしい光景、嫌いじゃありません。