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宿の方との約束・母の夢
まだ娘が2歳頃の頃、母の還暦旅行に京都に行きました。
しかし、旅行3日前に、娘のかかった胃腸炎が私に移ったのだろうと思いますが、到着した2日目、朝食を食べた後、激しい吐き気と水下痢に襲われ、ホテルから救急車で病院に運ばれました。ただの「胃腸炎」という診断で、薬を渡され早々に病院から退去させられました。
京都駅でタクシーを待つ行列に並んでいました。
そこでまた激しい吐き気に襲われ、家族から離れ、駅の柱の部分でしゃがみこみ私は嘔吐していました。
夫は胃腸炎のせいか高熱がありましたが、何とか娘と一緒にタクシー乗り場で並んでいました。
私は母と一緒にいて、母は私が嘔吐しているのに付き添ってくれました。
せっかく楽しみにしていた旅行なのに。沢山計画を練って、お金もかけて、まだ小さい娘を連れて飛行機ではるばる来た京都でした。そんな母の還暦旅行を台無しにしてしまい、悲しいやら悔しいやら申し訳なさでいっぱいでした。
この事がなければ、この日は、母が1番楽しみにしていた美山町へ行き、桜を見る予定だったのです。
この時は4月の京都、桜を見に来ている観光客でごったがえしている京都でした。
みんな旅行を楽しんでいる中、自分は駅でしゃがみこみ嘔吐していました。もう泣きたい気持ちです。
ホテルから救急車で運ばれた時、「救急車呼ぶなんて大げさだなあ」と言っていた夫も、この時ばかりは後で振り返って「可哀そうだった」と言っていました。
あれから5年経ちました。
美山町の宿の方は事情を話すと、当日キャンセルにも関わらず「キャンセル料は結構です」と言ってくださったのです。
「また来てくだされば、それでいいですよ」と。
私は宿の方との約束をまだ果たせていません。
必ず約束を果たし、訪れたいと思っていますが、その時母は一緒に来れるか・・。飛行機で来て、更に鉄道にバスに・・と長い時間をかけて行かなくてはなりません。
それに母が望んでいた桜の季節はとても込み合いますし、外国人観光客も増えた京都ですから、料金も高くなっているでしょう。
あの時のように、3世代で思い切って行くことは叶わないかもしれません。
思いもよらない幸運がある日もあれば、不運もあります。
母の還暦旅行にこのような不運が重なってしまったのは、とても残念です。
でも美山町の宿の方の優しさを思い出します。
介抱してくれた母のことも。「大人になってもまだこんな迷惑をかけている娘で、ごめんね」と。
母は日本各地で歩けるうちに行きたいところがあるそうです。
外国にはちっとも興味がなく、今まで訪れたこともない母です。
私が年を取っているように、母も父も確実に年取っています。私が「人生悔いないように」と「何をやるか」を日々考えていますが、父と母にも後悔なくやりたいことをやってほしいと思うのです。
そして、ここに宣言しておこう!
「美山町、かならず行きますからね!」と。