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【感想】宮本輝『錦繍』を読みました(ネタバレなし)
こんにちは!
5日ぶりに読書記録の投稿をします。
今回は宮本輝の『錦繍』を読みました。
前回は超長編作品である1Q84を読んだのに対して、文庫本のページ数にして200ページほどの錦繍の分量はとても少なかったです
しかし、スラスラ読めたかといわれればそうではなかった。
多分、長い事村上春樹ばかりを読んでいたので、彼の作品に「文体慣れ」ししてしまったのかと思います。文体や文章に関する感想・考察は後にしようかなと思います。
ちなみに錦繍は今日の朝に読み終わり、この記事は同日の夕方に書いています。読後余韻の鮮度が高いうちのほうが、ありありとした感想を述べられるのではないかなと思うからです。
あらすじ(ネタバレなし)
「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛しながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る――。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。
かつての夫婦であった勝沼亜紀と有馬靖明がゴンドラの中で奇跡的な再会を果たします。その時勝沼亜紀は知恵遅れの子どもを連れていて、有馬靖明は随分と薄汚れた格好をしていました。
ゴンドラ内で二人はほとんど会話をしませんでしたが、勝沼亜紀から始まる手紙のやりとりによって、離婚後の10年間語られることのなかった、お互いの心の内や、離婚の原因にもなった重大事件の真相が明らかになっていきます。そして二人は、新しい自分を見つけたり、新たな決断をしたりしていきます。
全体を通しての感想
途中までは読みづらさを感じましたが、最終的にはとてもおもしろかったです。
はじめのうちは主人公の勝沼亜紀と有馬靖明に馴染むことができませんでした。これは単に私が「離婚後の二人の男女」という関係性をうまく捉えることができなかったからのように思います。
二人の手紙によるやりとりを追っていても、「はて、どうしてこんなやり取りをしているのだろうか」とか、「相手に対してどんな感情で筆をとっているのだろうか」というのはうまく掴めなかった。
しかし、その気持ちは後半にかけて解消されていくことになります。何往復めかのやり取りから、完全に隔たっていた、いわば人間間の溝のようなものが、徐々に徐々に埋まっていくのを感じました。
その心理的ダイナミズムによって、私はようやく二人の心の内を自分なりに理解することができました。だいたい3分の2を読み終わったくらいだった気がする。
そこからはこちらが感情を揺さぶられる番でした。温かい寂しさと冷たい寂しさを行ったり来たりしているような気持ちになりました。
読み終わる頃には、二人の勝沼亜紀と有馬靖明という二人の人間を愛さずにはいられないという感じでした。特に勝沼亜紀の気持ちや行動の変化、手紙に綴られる言葉には何か胸の内にある大事なものを掴まれたような気分になりました。
文体について
読みやすさでいうと、やや読みづらかった印象があります。人によるかもしれません。手紙形式であり、古めの文体が使われていることや、関西弁の語り口調であることが読みづらさを感じさせたと私は推測しています。
あと何より、一文が長いと思いました。読点が来ると思ったらまだ句読点、というようなことがしばしば。しかしそれが作品の表現度に幅をもたせており、奥行きを作り出しているようにも思います。
どんな人におすすめか
速い人なら3~4時間くらいで読めると思うので、サクッと一冊読みたい人におすすめです。宮本輝の最初の一冊にもピッタリだと思います。
また、古風な感じが好きである人や、複雑な恋愛事情の味わい深さを感じたい人にもおすすめです。
タイトルが『錦繍』である理由は最後までわからなかった
そもそも「錦繍」という言葉の意味を知らなかったので調べてみました。
錦繍とは、「錦と刺繍をした織物。 美しい衣服・織物。 美しい紅葉や花」を意味する言葉。 特に美しい紅葉や花の例えとしてもっぱら使われている。
錦: 美しい織物を指し、高貴さや華麗さを象徴する。
繍: 刺繍を意味し、細やかな手作業で作られた繊細な美しさを表す。
※※参考画像※※
![](https://assets.st-note.com/img/1734682676-O5UzPs28qCTIX6VYhngKrbBd.png?width=1200)
私の個人的な推測としては、「錦繍」は、自然の移り変わりとその美しさを象徴しているのではないかと思います。このタイトルは、過去の痛みや悲しみを抱えながらも、新たな人生の一歩を踏み出そうとする主人公たちの希望や再生を暗示しているのかもしれません。