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読む本のジャンルが偏ってしまうあなたに - 歴史・時代小説編 #1

こんにちは

突然ですが、
本は読むけど、なんだかジャンルが偏りがち。
新しいジャンルの本に挑戦してみたいけど、何から読んでいいのかわからない。

こんな悩みをお持ちの方はいませんか?

このコラムでは、特定ジャンルの本を一冊ずつ取り上げて紹介していきます。
読書の幅を広げるのに、少しでもお役に立てるよう情報を共有していきたいと思います。

今回取り上げるのは、歴史・時代小説です。
歴史を題材にしているため、現代人の我々からするとなかなかイメージが湧きにくかったり、話に入って行きづらい部分があります。

歴史・時代小説は、大きく二種類に分けられると思います。
一つは、実際の出来事、実在した人物を題材としたもの。代表的なものとしては、司馬遼太郎の「竜馬が行く」や吉川英治の「三国志」などが挙げられます。
もう一つは、時代背景を借りて架空の人物によって物語が進められるものです。こちらは、藤沢周平の「蝉しぐれ」や山本周五郎の「さぶ」などが挙げられます。

ちなみに前者を歴史小説、後者を時代小説と呼ぶことが多いそうなのですが、その境目は曖昧なようです。(史実とフィクションが混在することもあるため)

今回は、実在した人物を題材とした作品をご紹介したいと思います。

私がお勧めするのは、
隆 慶一郎 『一夢庵風流記』(新潮文庫)
です。

複数冊ものが多い、歴史・時代小説ですが、この作品は一冊完結です。
また、この作品は「北斗の拳」の作者である原哲夫の漫画「花の慶次-雲のかなたに-」の原作でもあります。

まず、作者の隆慶一郎(1923-1989)なのですが、なかなか異色の経歴を持った人物です。

以下、簡単に説明します。
・1923年東京赤坂生まれ
・東京大学文学部仏文科卒
・学徒出陣で出征
・在学中、辰野隆、小林秀雄に師事
・一時大学講師として勤務、1957年より脚本家としての活動を開始
・1984年「小説吉原御免状」の連載開始
・小説を執筆していた期間は60歳を越してからの約5年ほど

「一夢庵風流記」は戦国時代の前田慶次郎という武将が主人公です。
前田慶次郎は、天下の傾奇者として知られる人物です。
傾奇者の説明が、作品の冒頭にあるので、引用します。

『かぶき者』はまた『傾き者』、『傾奇者』とも書く。最後の書き方が最も端的に言葉の内容を示しているように思われる。ほかに『傾く』
という動詞や、『傾いた』という形容詞もある。
 つまりは異風の姿形を好み、異様な振る舞いで人を驚かすのを愛することを『傾く』と云ったのである。

隆 慶一郎『一夢庵風流記』新潮社,平成三年九月二十五日発行,九ページ

物語はいきなり前田慶次郎の話から始まるのではなく、このような『傾奇者』の説明や作者のエピソードトークから始まります。
そのため、自然な流れで作品の世界に入っていくことができます。

物語は加賀、京都、佐渡ついには朝鮮と広いスケールで前田慶次郎が奔放かつ縦横無尽に動き回る様が描かれます。
また、直江兼続や豊臣秀吉など様々な武将との交流も物語を豊かにしています。

前田慶次郎の振る舞いは、一見して他人の理解を超えた突拍子のないものに見えるのですが、実はその根底に武人としての一貫した信念があります。その信念がいつ何時もブレることなく、貫かれている様が非常に魅力的です。

また、『一夢庵風流記』に限らず隆慶一郎作品に共通することなのですが、「そんなの嘘でしょ」と思える内容であっても、しっかりと根拠が示されていて説得力があります。

この一冊で600ページ以上あるのですが、作品の世界に入り込んでしまえば、読むのはあっという間かと。
もともと脚本家の方なので、ストーリー展開が巧みです。

皆さんも一度読んでみてはいかがでしょうか?

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