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読む本のジャンルが偏ってしまうあなたに - スポーツ・アウトドア編

皆さん、こんにちは。
takataroです。

本は読むけど、なんだかジャンルが偏りがち。
新しいジャンルの本に挑戦してみたいけど、何から読んでいいのかわからない。

こんな悩みをお持ちの方はいませんか?

このコラムでは、特定ジャンルの本を一冊ずつ取り上げて紹介していきます。
読書の幅を広げるのに少しでもお役に立てるよう情報を共有していきたいと思います。

今回はスポーツ・アウトドア。
その中でも、登山に関する作品です。

紹介する本は、
植村直己『青春を山に賭けて』文春文庫
です。

植村直己さん、皆さんはご存知でしょうか?

1941年、兵庫県生まれ。
農家に生まれ、幼い頃から家の手伝いをしていた植村さん。中学の時バレー部に入ったのは、家の手伝いが嫌だったからだそう。

明治大学農学部農産製造学科に入ったのは、志望者が少なく、入学が比較的簡単だったためのようです。

ふとした思いつきから、大学の山岳部に入ることを思い立ちます。
山岳部を覗きに行くも、まだ決心しきらない植村さんに、先輩たちが色々とアプローチ。あれよあれよという間に、仲間に。

過酷な訓練合宿を経て、次第に山登りに目覚めていく植村さんは、だんだんと海外の山々に憧れを抱くようになります。

大学卒業が近づく中で、「ヨーロッパ・アルプスに行こう」と思い立った植村さんは、卒業までの間日本でアルバイトをして資金を貯めます。
そして、足りない資金を補うべく、何故かヨーロッパではなく、まずは生活水準の高いアメリカに出稼ぎに向かいます。この発想が面白い。

アメリカに到着し、何とか仕事に就くも、観光ビザで働くことが禁止されていると現地で知ります。結局、移民調査官に捕まり、危うく日本送還になりそうになるのですが、それを逃れてヨーロッパに渡ります。

フランスのシャモニにつき、仕事を探しつつこの土地に滞在します。シャモニに来てから2週間後、初めてモン・ブラン単独登攀に挑みます。

その単独登攀の途中クレバス(氷河の割れ目)に転落するというアクシデントに見舞われます。
その描写が秀逸なので以下引用します。

 どこかに頭を打ちつけたらしく、私はしばらく気を失ったようだった。気が付いたとき、私の体はクレバスの暗闇にあった。
「オレは遭難したんだ、これが遭難事故というヤツなんだ」
 と思った。ところがなんと幸運なのだ。アイゼンのツメが氷壁にひっかかり、背中のザックと胸がはさまって、私の体はクレバスの途中で見事にとまっていた。落ちたのは二メートルほどにすぎない。サーカスのような宙づりの姿勢から下を見ると、クレバスは底なしに続き、氷河の下を流れるらしい水の音が暗闇の中からトウトウと聞こえた。

植村直己『青春を山に賭けて』文藝春秋,2008年7月10日新装版第1版,47ページ

そこで登山は一旦断念。

シャモニに戻った植村さんは、スキー場のパトロールの仕事を始めます。
そこに、日本からヒマラヤ遠征の手紙が届き、怒涛の登山旅が始まります。

そして五大陸最高峰への挑戦。

五大陸最高峰とは
・モンブラン(イタリア・フランス)
・キリマンジェロ(タンザニア)
・アコンカグア(アルゼンチン)
・エベレスト(中国・ネパール)
・マッキンリー(北アメリカ)
です。

植村さんは全ての頂上に立ち、世界で初めて五大陸最高峰を制覇した人となります。

全編を通して驚くべきは、とにかく貧乏であるということ。常に世界を股にかけての移動なので私生活での娯楽を一切断ちます。
印象的だったのは、クリスマスの日アルバイトしていたスキー場の同僚たちが町でお祝いする中、誘いを断り、一人部屋でひっそりと過ごすシーン。そこに少し気になっていた同僚の女性が、訪れます。

 彼女は部屋の中のコンロと、食べ残したジャガイモやスープを見て、私をびっくりしたような目で見た。私は、しまったと思ったが、もう遅かった。こんなわびしい生活を彼女にだけは見せたくなかったのだ。彼女は全てを察し、目をうるませて、再び私のほおに唇をあてた。

同書152-153ページ

そこまでして彼を山に駆り立てたものとは…

五大陸最高峰制覇以降もさまざまな冒険に挑戦する植村さん。1984年北米マッキンリーで冬季単独登頂後、消息を断ちます。
本書は、1970年五大陸制覇までの冒険を中心に描かれたものになります。

結びとして、本書の解説を引用して終わりたいと思います。

「植村さんは登山家、探検家として広く世に知られる存在になられた。そんな植村さんの後に続く人たちのために伺いますが、一言で言って、探検家になるために必要な資質とはなんですか」
 と聞いた。
 植村はわずかの間考えた後、
「臆病者であることです」
 と答えてくれた。

同書295-296ページ

皆さんも、是非読んでみてはいかがでしょうか。

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