どの子も最後までやり切ることができる宿題のシステム
どうしても宿題をしてこない、もしくは、よく忘れてくるという児童は、どの学年を受け持っても必ずいる。本年度受け持った3年生でも同様で、33人学級の中、してこない児童が1人、よく忘れる児童が3人いた。出された宿題をきちんとやり切ってこない児童を含めると、さらに3人ほどの児童が、毎日、その日に出す宿題を学校で行っているという状況だった。どの学年、クラスでも似たような状況で、その対策として、様々な試行錯誤が行われていた。
よく見られるのが、「宿題忘れゼロ運動」のような、クラス全体を巻き込んだ目標設定をして、目標を達成したら「クラス遊び」などのご褒美を手にする、という取組である。「家庭学習」という個別の取組を集団目標にすることで、達成した時の「アメ」と、してこなかった時の責任という「ムチ」を用意する手法である。当然この方法で、目標を達成した時には、児童集団は、「自分たちの協力が、クラス遊びというご褒美の時間につながった」という成功体験を得ることができる。しかし、宿題をしてこない児童がいたとき、してきている児童は、「あの子のせいで…」という思いをもつだろうし、してこない児童は、自分詩人に対して負の感情を持つことになる。そうした環境になると、担任も、その運動自体をうやむやにせざるを得なくなる。過去に、そうした経験を少なからずしてきた。
そもそも集団目標という連帯(圧力)があっても、宿題をしてこない、よく忘れるという児童は、ただのサボり癖なのか、「してこない」「よく忘れる」「やり切ってこない」という状況を3年生の2クラスで分析してみた。その結果は、「全くしてこない…2人」「ほとんどしてこない…1人」「よく忘れる…5人」「きちんとしてこない…8人」であった。
こうしてピックアップした児童の傾向を見ると、「学力が低い児童」「連絡帳などをみて用意がきちんとできていない、他の忘れ物も多い児童」という共通点が挙げられた。こうした児童のうち、「宿題忘れゼロ運動」など、集団の雰囲気づくりで、効果的なのは、「学力は低くなくて、忘れ物が多い児童」であると考えられた。実際の児童に当てはめると、「学力が低くて、忘れ物が少ない児童」には、「きちんとしてこない児童…8人」が当てはまり、「学力が低くて、忘れ物が多い」には、「全くしてこない…2人」「ほとんどしてこない…1人」が当てはまった。この児童たちは、家庭の支援も期待できないという点でも共通する。つまり、「してこない」のではなく、「できない」といえた。
ここでピックアップした児童にとって深刻なのは、「宿題を忘れる」という現象面だけではなく、忘れるたびに、「言い訳をする」ということである。彼らが主張する宿題ができなかっり、提出できない理由は、ほとんどの場合が嘘なのだ。本当に宿題ができない理由がある場合はまれである。宿題をする理由として、「家庭で机に向かって学習する習慣を身につける」というものがあるが、習慣化というならば、「嘘をつく」というのも習慣化するだろう。学力が低く、忘れ物が多く、家庭の支援が期待できない児童にとって、宿題は「忘れてくる習慣」「嘘をつく習慣」をつける害悪でしかない。
そう考え、宿題を次の観点から見直しデザインし直した。
①宿題の意義 ②忘れようがない ③忘れても言い訳を必要としない ④自分でできる ⑤学習の効果が見込める ⑥学力が低くてもできる
以下はその結果である。
①宿題の意義
先生たちは、学校で児童の力をつけるようにしている。 毎日学校で頑張っていれば、宿題をしなくても日々力は積みあがっていく。だから、「宿題はしなくていい」という前提を示した。そこから、「宿題を丁寧にする人、これは、「丁寧さ」「やり切る力」「自分で取り組む力」などの習慣が身につき、自分の力が積み上がるので、宿題をしたらいいと思います。」と伝えた、そして、「宿題を雑にしてつく習慣は、「雑さ」「いやいやする力」で積み下げなので、しない方がいいし、 誰かに言われてするのもと、「言われてする力」「怒られて動く」がつくことになるのでしないほうがいい。」とも伝えた。そして、「宿題はしなくてもいいです。自分の力を積み上げるために丁寧にやり切ろうという人には、宿題をだします。自分で決めましょう。」と、するしないを一人一人に決めさせた。その結果は、全員が「宿題をする」ことを選んだ。当然雰囲気もあるので、その後、すぐに全員が丁寧にしてくるということはなかったが、同じことを継続的に伝え続けることで、丁寧さは格段に好転した。
②忘れようがない ③忘れても言い訳を必要としない ④自分でできる
宿題は、表に国語、裏に算数の問題を印刷しB4用紙一枚とした。毎日この1枚なので、「し忘れた」とは言えない状況となる。次に、「朝のうちに出すことが宿題」という考え方を徹底した。そうすると、「持ってくるのを忘れたので明日出します」という言い訳が通用しなくなる。宿題はプリントなので、ドリルなどのように、持ってきていないから学校でできないということもない。持ってきていない児童は、予備に刷ってあるプリントを朝休みに仕上げることになる。その際も「しなさい」とは言わず、自分でするかしないかを決めさせるので、「自分でする」ということが学校でも、なんとか担保される。家でした宿題を持ってき忘れた児童は、すでにした問題を解くだけなので、この仕組みでほとんどの児童が朝のうちに宿題を出せるようになった。
⑤学習の効果が見込める
ありがちな宿題は、漢字(ドリル・ノート・プリント)・算数(ドリル・ノートプリント)・音読カード・週末の日記の4点セットで、それぞれ分かれている。それをB4用紙一つにまとるだけでなく、文法、読解・作文などの問題も一週間の中で取り組めるようにした。漢字は、答え付きの問題とし、覚えている児童は自力で解答し、覚えていない児童は丁寧に写すことができるような形式にした。算数は、単元に合わせた内容ではなく、既習の学習内容を忘れないよう、2,3日で網羅しながら反復できるよう、問題を扱うようにした。そうすることで、解き方を忘れないとともに定着する目指した。⑥学力が低くてもできる
学力が低い児童でも宿題を忘れたといわずに済むように、「わからない問題は飛ばしてきてよい」という決まりも徹底した。ただし、「朝に宿題を出すために、朝の間に先生か友だちに解き方を教えてもらってから出す」ということにした。そうすることで、一人を除き、宿題が提出されないということがなくなっている。
最後の一人の児童は、様々な事情で1年生の段階の学習も追いついておらず、ひらがなすら定着していないという課題がある。そこで、家庭にタブレットPCの学習アプリを選定・紹介し、それを家庭でしてくることを提案し、継続的に行っている。取り組みを2か月ほどだが、なぞりの字が安定するようになり、宿題に朱書きをしたものを渡すと、3日に一度程度宿題を提出するようになってきている。