『みずぽろ』『大時計』乗代雄介『旅する練習』など(ネタバレあり)241110-1117
一色美穂 (原作)/ 水口尚樹(作画)『みずぽろ』(1‐2巻)
ちょーーーーーーーー面白かった。今年一番の掘り出しもの(元々有名作なのかもしれないが)。
オフビートな笑いで構成された水球漫画なのだが、どの会話もセンスが良く、クスッと笑える。会話や展開にハズレがない。
都内の高校に転校してきた二人……身長185センチの信濃千曲と身長191センチの山城桂。
筋トレして身体バキバキで高身長、見た目は体育会系なのに超運動オンチという山城の設定が新しい。
これ、普通一巻終盤とか二巻あたりで、その運動オンチも努力のかいあってレギュラーに近づいてゆく……というのがセオリーだが、この山城はあまり成長しない。レギュラーになれる気配もない。
この徹底的に「運動オンチ」で進めようとするところが嘘が無い!潔い!
運動オンチだけど美術センスは抜群にあり、「お前美術部行けよ」的な天丼が繰り返されるのだが、これも手を変え品を変えで描かれていて作者のユーモアセンスを感じさせる。
笠原真樹『夢なし先生の進路指導』(1-4巻)
面白い。
「鈴木先生」と「闇金ウシジマくん」の掛け合わせ的な一作。
進路指導をした後にすぐ時間が進むのがいい。
高校を舞台にわちゃわちゃ教師と生徒が進路についてやり取りするのではなく、進路相談を受けた生徒はあっという間に社会に出て荒波にもまれていく。このスピード感ある設定が目新しい。
夢を適当に考えた高校生たちは社会の現実を思い知る。弱者を搾取する社会構造の話がメインになっていて、そのあたりの現在進行形の様相が知れるのも楽しい。
M・ナイト・シャマラン『サイン』(2002)
シャマランの新作「トラップ」がなかなか観に行けないので、家でシャマラン過去作を見返すターン。
「サイン」は賛否両論あるし世間の評価も低いが、個人的には監督のフィルモグラフィでも随一のクオリティを誇る作品だと思っている。
家族4人が同じ画面に入るときのルックがいい。
宇宙人を宇宙人として描き、追い詰められる恐怖を描き、家族愛を描き、そして奇跡を描く。
「絶妙に奇妙」なシャマランバランスが最も光っていて、みんな真剣な顔してアルミホイルを頭に巻くとか、どんより家族の食事シーンで兄・メルギブソンに引っ張られる弟ホアキンフェニックスの可愛さとか、笑えるのに泣ける。
奇跡を信じたくなる、力強い一本
ジョン・ファロー『大時計』(1948)
面白い。
出版社社長のジョナスの愛人・ポーリンと同伴した主人公の推理雑誌編集者・ジョージ。
一晩過ごしたのちジョージは帰宅するが、その後ポーリンは痴情のもつれによってジョナスに殺されてしまう。ジョナスはポーリン殺しの罪を「昨日ポーリンと会っていた顔のわからない男」に擦り付けようと考える(ジョナスはポーリンが会っていた男の影を見ただけで、ジョージとは知らない。)。
ジョナスは、逃亡中の犯人の居場所を特定するという特技を持っており、ジョナスはジョージに「愛人を殺した犯人を捕まえてくれ」と頼む。
ジョージは、その容疑者が自分だと気づく。。
ジョージはポーリンと一緒にいたことを悟られないようにあの手この手で動き回る。
これ面白いのが、ジョナス側もまさかジョージが昨夜ポーリンと一緒にいたと思っていないので、ジョナスは本当にジョージの手腕を頼っている。
ジョージも優秀だから部下を使って色々情報集めるが、段々とジョージとポーリンが一緒にいるところを見たという目撃者がゾクゾク現れてきて、追い詰められていく。しかしジョージは偽名でバーや店に行っていたから、目撃者も顔を見ないとジョージかどうかは判断できない。
一方でジョージはジョナスがポーリンを殺したことを悟り、推理と証拠集めにも奔走する。
このぎりぎりの駆け引きがスピーディで、しかもユーモアもある。
いよいよ出版社内に容疑者がいることがわかり、1階からローラー作戦で容疑者をあぶりだしていく。主人公はなんとか上へ上へ逃げる。
いよいよ調査の手は最上階に及び、目撃者がジョージのことを見て「この人が昨日ポーリンと一緒にいた男性です」と証言しようかというその時、なんとある方法で事件は解決する。鮮やか!!!
乗代雄介『旅する練習』
この作品を読みづらい人も相当数いると思うが、間違いなく新しい試みをしていて、しかも古典的な手法なのに新しい。
主人公の叔父が風景を文章でスケッチしていく。
見たままに、詳細に、言語化する。
自然を、生物を。
ラスト2P、ありのまま書く作業が止まる。ありのまま書けなくなる。
命が絶えたことと、生と死を表現してきたスケッチとの対比が鮮やか。