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『無敗のふたり』『フェイク・マッスル』など(ネタバレあり)240819-0825


遠藤浩輝『無敗のふたり』1巻
主人公は選手ですが、トレーナー視点のMMA漫画とも言える作品で、着眼点が面白い。
試合における細かい分析描写があり、そのあたりは好き嫌いが別れるかもしれないが、格闘技好きにはたまらない内容になっている。
現役で日本MMAトップの堀口恭二選手も、「チームで戦略を組み立てるのがいまのMMAのスタンダード」と事あるごとに言っていて、トレーナーに焦点を当てるのは現代的。
ただ「少年サンデー」連載中のMMA漫画『レッドブルー』の面白さには一歩及ばないかも……。

シマ・シンヤ『Daddy Steady Go!』
「男らしさ」を脱却しようとする3人のシングルファーザーのお話。
どの登場人物も、一つきっかけがあれば「男らしさ」の有害性から抜け出せる性格や生い立ちになっていて(つまり最初からいい人たち)、若干物足りなさも。しかし誰しもが脱却への第一歩があるわけで、それを描いた作品と言える。

田沼 朝『いやはや熱海くん』1巻
イケメン高校生、同性愛者で極度に惚れっぽい熱海くんは、気になった男の子に片っ端から恋をしていく。その無害な積極さが目新しくて、また同性愛者であることを熱海くん自身も、周囲も、自然に受け入れていて、そのカラッとした作風は好み。

日野瑛太郎『フェイク・マッスル』
第70回江戸川乱歩賞受賞作。リーダビリティが相当高く、とにかく読みやすい。平易な文章だが、実は平易であることが最も難しいと思うので、相当な力量の作者だと思った。大衆作家として化けるかもしれない。
採尿が成功したけどドーピング陰性だった、なぜ??という展開は高揚感があり(採尿方法のディテールも◎)、主人公の抜けている感じも相まって、緊張と緩和でスルスル読み進めた。
ただミステリーとしては、登場人物が限られているということもあり、真犯人も動機も物足りなく感じた。マッスルメモリーはうまいと思いつつ、驚きがあるタイプの真相ではなかった。
でも、「ユニクロ潜入」じゃないが、大手アパレルとか大手スーパーとか大手証券会社とか、いくらでもネタがあるので、シリーズ化されたらぜひ読みたい。

帚木蓬生『ソルハ』
1996年にアフガン政権が崩壊し、タリバンが首都カブールを制圧。その激動の時代にアフガニスタンを生きた少女とその家族を描いた作品である。
2001年に起きたバーミヤン渓谷の石仏破壊や、世界同時多発テロのことも出てくる。
この作品を読めば、いかにタリバンが女性の社会進出……どころか生きる権利を奪ってきたかわかるし、自分たちの都合のいいように宗教を扱ってきた歴史もすんなりと呑み込める。
2021年、再びアフガニスタンはタリバン政権にとって代わられた。女性はブルカの着用を強要され、公園にも行けず、様々な権利が制限されている。2020年代にですよ。
『ソルハ』を読めば、アフガニスタンが抱える国内外の問題、タリバンの成り立ち、敵意など一切ない市井の人々の姿・思考が見えてくる、良書です。


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