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経験した武道、武術について7

前回、大学に入学し、念願の形意拳を学べたというところまで書いた。

ここからどのように、充実した時間を過ごしたかというと、実はなかなか充実した時間とはならなかった。
その主な理由は自身の経済的事情や練習時間が安定しなかったからだ。
この時、日本はバブルが弾け、世の中の会社は安定しているところが少なくなり、リストラも始まったりと不況の時代に突入したのである。
大学進学したが、親も時代の影響を受けて経済的に厳しくなり、大学卒業まで、学費以外の昼飯代や交通費、交際費や様々な購入のお金が不足するため、私はアルバイトを頑張らねばならなかった。

アルバイトに多くの時間を取られ、大学の勉強時間も確保しなくてはならず、家で自主トレをコツコツしていたが、道場での練習時間は思っていたよりもずっと少なかった。

ちなみに大学生の頃のアルバイトは、飲食店の皿洗いやウェイター、バーテンダー、ホテルのドアボーイ、コンビニ店員、警備員、工場、荷運びなど様々である。
肉体労働が主で、家庭教師等頭脳労働は、割りが良い分、募集倍率が上がり、結果働くことは叶わなかった。

この時期のアルバイト経験は、就活には直接役立たなかったが、後年転職後の業務で役立つことになる。
何事もその時役立たないからといって、一生役立たないかといえばそうではない。
逆に役立てるために経験したり勉強したことが役立たなかったり、使えなくなることもあるのだ。

・・・さて、話がそれた。

武術の話に戻るが、入会した道場は形意拳を学ぶ前に、まず太極拳を学ばなければならなかった。
漫画の「拳児」を読んでいたので、太極拳は武術であり、健康にも良く、護身にも役立つものであることは知っていたが、やってみるとかなり面白かった。

まず、力を抜き、気が通りやすい身体に変えなければならない。
弛緩しきった完全な脱力ではない。
これを放鬆(ファンソン)というが、リラックスして出来る武術は初めての経験であり、師範がその状態から放つ技も威力があり、色々驚かされたのを覚えている。
さすがに本物を伝える道場は違うなと思った。
そして、気功の練習もあり、気を鍛える。
正直、最初は怪しいと感じた。
今ではたまにしか気功はしないが、疲れた時に行う気功は確かに少しエネルギーが回復するのを感じる。

推手(すいしゅ)の練習もよく行った。
推手は太極拳の実戦勘を鍛える練習で、相手と互いに手首や肘を接触し、自分に向かってきた相手の攻撃の力の向きや大きさを感じ、そらしたりいなしたりして自分の身体に当たらないように避け、その後防御から攻撃に転じるのをお互いに繰り返すという練習である。

沖縄空手にもこういう練習はあるが、太極拳は特に有名であろう。

この推手で学んだ相手の力や気を感じとる能力を「聴勁」というが、推手はその力を育てる訓練でもある。
この「聴勁」が太極拳の要と言っても良いだろう。

他には、手を持たれたところから相手を崩す護身術や套路の動きを抜き出して、使えるように練習する散手も興味深かった。

太極拳だが、私が最初に習ったのは正宗太極拳という99の動作が入っている套路で、形意拳の姿勢など加味した太極拳だ。
正宗太極拳一回の時間は始めから終わりまで20分以上かかる。
この太極拳を約10年の間、ほぼ毎日していたように思う。

次に形意拳だが、道場では基本の五行拳を教わった。
一歩一歩しっかり打つ。
太極拳等で気を高め、気をまとった状態で打つのだという。
空手や少林寺拳法の突きとは違い、一つ一つに大事な要訣を守って打つ。
YouTubeで視ると、すごく速い動作を連続で放つ流派もあるが、私の居た道場は上記のような感じだ。

ちなみに形意拳の要訣(守るべき姿勢や打ち方など)の説明を色々調べたが、こちらのサイトに書かれているのが一般的に分かりやすく、合っているように思う。
https://bubilog.com/?p=185

長年あこがれの形意拳の練習も楽しかった。
こちらも自宅での練習が主だったが、毎日練習を行った。

そして、時が過ぎ、私は無事に大学を卒業し、社会人となった。
大学卒業は問題なかったが、地方では不況のため、選択できる仕事が少なかったため、就職は都会に出た。
金融関係の仕事に就いた。

また就職を機に、1人暮らしを始めた。
都会に所属道場の本部があったため、本部道場に通い始めた。

仕事に就き、本部道場にも通い順風満帆と傍目には見えるが、そうはならなかった。
なぜなら、入社後、会社側がリストラをして、人が減った分個人の業務量は増え、残業や深夜残業が増加したり、急な配置転換で、就いた業務が自分の能力と合わず、最終的に辞めざるをえない状況となったのだ。
ここから私の予想してない転職人生が始まるのだが、武道・武術と同じく、自分にとって合う仕事というのは少ない。
基本合わせるしかないが、上手くいかないこともある。
また、何回めかの転職で自分に合う職種に就けたが、後に異動先が違う職種になり、結果継続困難ということもあった。
山あり谷ありである。

よって、社会人6年目までは、途中間が空いたりしながらも道場に通ったのだが、退職後は仕事がなかったり、就いても辞めざるをえない事もあった。
経済的に厳しい時期が続き、道場から次第に足が遠のくことになった。

後に転職が上手くいった後、再び道場で練習を考えたのだが、再開せず自主トレのみ継続した。
先を考えた時にこの道場では継続困難になる可能性があると考えたからだ。
その理由が学ぶ套路等学習するものの数が多く、お金ももっとかかるという点であった。

正直、全てを学ぶことは難しいと思っていた。太極拳や形意拳には徒手空拳だけでなく武器術もあり、八卦掌、他の武術もある。
毎日学んだのを幾つかだけ練習するにしても、1日に練習出来る時間は限られ、一通り練習出来ない為、習っても上達し辛いように思う。
また、段位が上がるほど段位承認の金額も上がり、台湾など国外での専門研修参加等費用もかかる。
それに参加しないとより上に上がれない仕組みになっていた。
よほど経済的・時間的に余裕がないと、この道場での学びは中途半端になると思ったのだ。

この道場の練習内容や雰囲気、指導方法、武術は私に合っていたが、経済的・時間的には合わないと思った。

したがって、自主トレは継続していたが、道場での学びが止まり、ここからどうしようかと悩むようになった。

悩んだ結果、私は武術からは仕方なく身を引いた。


・・・とはならないのがまた運命のいたずらである。

この後、また新たな出会いがあるのだ。
全くもって、自分の人生は武術とは不思議な縁がある。
漫画「拳児」の蘇崑崙老師が言っていた『天命』としか思えない。

蘇崑崙老師が拳児に天命を語るシーン

→8に続く。

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