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4人の愛人と暮らす私Ⅱ
”バリバリバリ・・・・・”
”ビシャ~~~~~~~ン!”
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”キャアアア~~~!”
”先生!コワ~~~イ!”
秋子が、来ている。
毎年、秋子の来訪を、
ゲリラ豪雨が、歓迎する。
ただ、当の秋子は、
雷が大嫌いである。
秋子「先生!そばにいて、
秋子、コワイ!」
雷様の歓迎は、止まらない。
秋子のメガネに、閃光が映る。
私「そんなに雷が、怖いなら。
もう少し、後に来ればいいのに。」
私が、笑いながら意地悪く言う・・
秋子「先生~!ひど~い!
秋子は、一日も早く・・」
”ビシャ~~~~~~~~ン!”
秋子「キャアアア~~~~!」
この時期特有の、かなり低い所で、
まるで、この世を破壊するような
雷鳴がとどろく・・・
秋子は、もはや会話どころではなく、
私にしがみついて、震えている。
”ザアアアアアアア~~~~~!”
いつから降っていたのか、
激しい豪雨が降っており、
地面を叩く音が、大きく鳴り響く。
秋子は、穏やかな女性(ひと)。
そして、静かな女性。
今のように、雷が鳴り出すと、
別人のようになる・・・。
芸術を愛し、読書が好きで、
料理も上手、それが秋子。
私「秋子、すぐ鳴り止むから、
そんなに、怯えなくてもいいんだよ。」
秋子は、メガネの奥にある、
美しい瞳を、濡らしてた。
私の顔を見上げて・・
秋子「先生?
・・・・鳴り止むまで、
こうして・・・
抱きしめていてくれる?」
私は、秋子の涙を、
指で、ふいてあげながら、
うなずく・・・
”ビシャ~~~ン!”
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私は、小説家だ。
広い屋敷に住んでいる。
4人の愛人と共に・・・
小説を書くこと以外に、
何も出来ない私を、
愛して支えてくれる・・
女たち同士の
取り決めで、
1年のうち、
数か月だけ
交代で、私を独占できる。
ただ、互いに決めた約束で、
お互いに、私を独占している間は、
一切、顔を合わせない。
私といない間、3人の女たちは、
それぞれ別な所で暮らしている。
女たちは、私の事を、
「先生」と呼ぶ・・・
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今宵は、十五夜。
そして、美しい満月。
秋子とは、毎年こうやって、
一緒に、月を楽しむ。
秋子「先生~。
出来ましたよ。」
そして、毎年、
秋子が作ってくれる、
美味しい月見だんごを、
二人で、一緒に食べる。
私「秋子が来ると、
これを食べられるから、
うれしいよ。」
秋子「もぉ~!
秋子が好きなんですか?
お月見だんごが、好きなんですか?」
(月見だんごを、食べながら)
私「両方とも好きじゃ、
ダメかい?
秋子は、秋子じゃなきゃダメだし。
月見だんごは、
秋子が作る物じゃないと、ダメだし・・」
秋子「・・・・・ん~?
よくわからないけど、
秋子じゃないと、
ダメって事なので、
許します!」
私「それより、秋子!
月をごらん。
去年と同じで、満月だよ!」
(満月を見る秋子)
秋子「あっ~!本当!
先生。去年、一緒に見た満月。
覚えていて下さったの?」
秋子が、私の顔をのぞき込む。
私「去年だけじゃないよ。
秋子と見た満月、
満月じゃなかった年も、
全部、私は覚えてるよ。」
秋子「本当に!
秋子、うれしい!」
秋子は、満面の笑みを浮かべ、
私の右腕に、両腕をからませ、
頭を、私の肩にのせた。
秋子「今年の満月も、
先生と一緒に見れて、
秋子、すごくうれしい。
見て!先生、今年の満月も、
すごくキレイ!」
秋子の瞳に、ときめきが宿る。
私「秋子、私たち地球の人間は、
月を見ているつもりでいるけど、
本当は、”月に見られているんだよ。”」
秋子「え?先生、
月から見られているの?」
私「そうだよ。
月にも、世界があって、
地球のように、そこに暮らす
人々がいるんだよ。
今夜だって、私たちみたいな
男と女が、月から地球を見ているんだよ。」
秋子「私と先生みたいに、
愛し合う二人が、
月にもいて、
あっちから、私たちを見ているの?」
秋子が、肩に乗せていた頭を上げ、
私の顔を見る。
私「そうさ。私と秋子みたいな、
男と女がいて、
秋子にそっくりな女は、
こちらを見ながら、
”地球の秋子さんって、泣き虫ね”
って、こう言ってるの聞こえないかい?」
秋子は、ほおをふくらませて、
秋子「全然、聞こえません!
先生ったら、ひどーい!」
ひとしきり、かわいく怒ると、
秋子は、再び、私の肩に頭を乗せ、
月見を再開した・・・
秋子「ねえ、先生?」
私「何だい?秋子。」
秋子の声が、少し寂しく聞こえた。
秋子「秋子のお願い、
一つだけ聞いてくれる?
先生・・・・」
私「何だい?言ってごらん?」
秋子「秋子が、いない間・・・
もし、今夜みたいな・・
きれいな満月の日があったら、
満月を見ながら・・・
秋子の事を・・・
その一日だけでいいの・・・
一日だけ、秋子の事を、
思い出して欲しいの・・
先生、お願い聞いてくれる?」
秋子の頭が乗っている
私の肩が、濡れているのを感じる。
私「ああ、いいよ。
秋子が、
”月に帰っている間は、”
満月を見る度に、
秋子の事を思い出すと、
約束するよ。
だから、泣かないで、
私の、かわいい泣き虫、秋子さん。」
秋子「先生!本当に?
うれしい~~!
約束ですよ。」
肩から頭を上げて、
再び、私の顔を見つめる
秋子の表情に、笑みが戻っていた。
私「ああ、約束は守るから、
泣くのは、およし。」
私は、指でメガネの奥から
こぼれ落ちる涙をぬぐう。
秋子「うん。
でも、泣き虫はひどいよ。先生。
それにしても、先生。
秋子は、”かぐや姫”なの?」
私「そうだよ。秋子は、
私のかわいい”かぐや姫”様。
月から、私と暮らす為に、
何か月か、いてくれて、
そして、月に帰ってしまうんだろ?」
秋子は、少し照れ笑いしながら、
秋子「そうよ、先生。
地球でさみしくしている
先生の為に、
毎年やって来るのよ。
感謝しなさい。フフッ。」
私は、ひれ伏すポーズをしながら、
私「ありがとうございます。
かぐや姫様!ははっ~!」
秋子「わかれば、よろしい。
フフッ。
ねえ、先生?
来年も、秋子と一緒に、
こうやって、
満月を見ようね。先生!」
私「ああ、来年もこうやって、
秋子の作ってくれた月見だんごを、
食べながら、一緒に見ようね。秋子。」
秋子「うん!先生!
今年の満月、もっと一緒に見よ!先生。」
秋子が、再び私の肩に頭を乗せて、
2人で、今年の月見を、
長い時間をかけて、楽しんだ・・・
それから・・・
まだ、暑さも残り、
不安定な天候が続く、
数日を過ごして、
そして今日・・・
2024年、9月22日の、
夜を迎えた・・・
秋子は、静かにイスに座り、
いつもの読書をしている。
横には、小さな机があり、
途中で、秋子に紅茶を、
差し入れするのが、
私の習慣に、なっている。
部屋には、秋子が本のページをめくる音と、
たまに、”クスッ”と笑う声だけがする。
私は、この静かで、
穏やかな、秋子にしか出せない
部屋の雰囲気を、愛している。
でも、今夜だけは違う。
紅茶も、むろんあるが、
今夜だけ、”特別な物”を用意している。
秋子には、内緒にしている。
読書をしている秋子に、
声をかけても、夢中で気づかないので、
いつも背後から、肩を叩いて知らせる。
”ポン、ポン”
私「秋子、紅茶持ってきたよ。」
秋子「ん?あっ、先生ありがとう!」
そう言うと、いつものように、
読みかけの本に、”しおり”をはさんで、
机に置いて、振り返る秋子・・・・
秋子「あっ!」
秋子が、驚きの表情をする。
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私「Happy Birthday!
秋子!」
秋子「わぁ~~~!
先生!覚えていてくれたの?
今日、何も言ってくれないから、
忘れていると思ってた~!
ありがとう~~~!
秋子、うれしい~!」
秋子は、喜びながらも、
いつも通り、メガネの奥から、
涙が、こぼれ落ちている。
私「さあ!秋子!
泣いてないで、ローソクの火を、
消す大切な役目が、あるんだから。」
秋子「うん。あっ、
今年も、ローソクは、”9本”
ありがとう。先生。
行くよ!」
”フッ~~~~~~!”(息を吹きかける)
秋子は、優しい息で、
ローソクを順番に、消していく。
”パチパチパチパチ”(私の拍手)
私「おめでとう!秋子!」
秋子「ありがとう。先生。
ナイフも、お皿も、フォークも、
紅茶まで。みんな用意してくれたのね。
秋子が切り分けるから、先生は、
イス持ってきて、座って待っててね。」
イスを運んできて、
相向かいに、座る私。
毎年、秋子の誕生日に贈る、
バースデーケーキの、
ローソクは、秋子が来る、
9月にちなんで、9本にしている。
私は、秋子の年齢を知らない。
これからも、知ろうとは思わない。
聞くつもりもない。
秋子の年齢を、愛してるわけじゃない。
秋子、”そのもの”を、愛しているからだ。
秋子「お待たせ~。
先生、食べよ!」
私「うん。食べようか。」
2人とも、胸の前で手を合わせて・・
秋子・私「いただきます!」
秋子が、上品にフォークで、
小さく切り分けると、
その口へと運ぶ。
秋子「美味しい~~~!」
秋子が、美味しくケーキを、
食べる姿を、ほほえましく見ながら、
ふと、私の知らない秋子に、
思いを巡らせる。
女たちが、私と離れている間、
どこで、どのような暮らしをしているか?
私は、”一切聞かない”。
これからも、聞くつもりはないが・・
”月に帰っている間”の秋子は、
どんな毎日を、過ごしているかと、
思う時が、たまにある・・・
私の知らない男と、
私の知らない”日常”を送っていて、
もしかしたら、男の妻でいるかもしれない。
その男といる日常が、
幸せであって欲しいと、願うばかりだが。
その男は、私みたいに、
秋子が、読書をしている時に、
静かに見守り、紅茶を差し入れたり、
そういう、気配りの出来る男だろうか。
毎年、数か月・・・
その男との”日常”を捨て、
私の所に来てくれる・・・
もしかすると、毎年、私の所に来る度に、
つきたくないウソを・・・
つかせてしまっているのかも、しれない。
ひょっとすると、ケンカでもして、
出て来てくれたのかもしれない・・・
秋子の色々な事を、考えると・・・
自然に、涙をこぼしていた・・・
秋子「先生。泣いてらっしゃるの?」
秋子が、いつの間にか、そばに来ていて、
私の涙を、絹のハンカチでそっとぬぐい、
心配そうな顔をして、私を見つめる・・・
私「秋子の事を考えていたら、
自然に涙が出て来たんだよ・・」
秋子は、驚いた表情で、
秋子「まあ!秋子が、先生を悲しませてしまったの?」
首を左右に振る、私。
私「ううん。違うよ。
秋子を、愛(いと)おしく思っていたら、
自然に、涙が出て来たんだ・・・」
秋子は、優しく微笑みながら、
秋子「うれしい~!
ほらっ、泣かない、泣かない。
フフッ。先生も、泣き虫です。」
そう言いながら、また優しく涙をぬぐってくれる秋子。
私「そうだね。秋子と同じで、私も泣き虫だ。」
2人で、顔を見合わせながら、笑い合う。
秋子「先生!ケーキ食べよ!
今年も、すごく美味しいよ!」
私「そうだね。食べよう!」
再び、美味しそうに、
ケーキを、口に運ぶ
秋子を、見つめる私・・・
秋子がいる時期は、
やがてくる”閉ざされた季節”を前に、
ヒト、動物、山々などの大自然、
それぞれが、みんな精一杯に、
命を輝かせる期間・・・・
私の”かぐや姫”が、
いつの間にか、月に帰ってしまう頃、
緑、黄色、オレンジと、
この一年を通して、
私たちを、楽しませてくれた、
樹木たちの、”ファッションショー”が、
閉幕する頃・・・・
まだまだ、月に帰るのは先だけど・・・
秋子の好きな美術館へも、どんどん行こう。
体力の無い私には、つらいけど、
今年も、紅葉を山へ一緒に、見に行こう!
たくさんの、素晴らしい時間を、一緒に過ごそう。
私の”かぐや姫”が、ここにいる間は、
世界中・・・・いや、地球上で!
そして、月世界まで含めて、
一番幸せな女性にするからね!
いいだろ?
愛しい秋子!
私は、あふれん限りの愛しさを声に込めて、
私「秋子!」
秋子「ん?」
サッと、素早くメガネを外すと、
生クリームのついた、
秋子の柔らかな唇に、
私の唇を、優しく重ね合わせる。
唇を重ね合わせながら、
心の中で、思いっきり叫ぶ!
”好きだよ! 秋子!”
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<素敵な見出し・ラスト画像=写真AC様>
(あとがき)
いつも、私が魂を削って、削って、
生み出した、一文字、一文字を、
紡(つむ)いで、そうやって出来た作品を、
いつも最後まで、ご覧頂き、
コメントまで下さいまして、
本当に、ありがとうございます。
ご覧になった、愛読者様に、
何か心に残る物があれば、幸いです。
「貴女は、夏子?、秋子?、冬子?、
・・・・・それとも春子?」
<失恋の帝王>坂本猫馬が、全ての女性に捧げる、
”大人の童話”
「4人の愛人と暮らす私シリーズ」
「冬子編」 「春子編」 連載するかも?
まだ、夏子と出会ってない方は、
この機会に、夏子と出会ってみては、いかがですか?
<坂本猫馬先生の、新作が読めるのは、
”note" だけ! >
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