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社畜が骨折したら、引きこもりになった件。⑰~社畜の謎に迫る4~

前回までに運転士になるなら持っておきたい資質(睡眠・食事・体力)をお伝えしましたが、今回は免許の重みについてのお話になります。

運転士の1日は、運転と休憩を繰り返しです。運転中は何があってもいいように常に集中するべき・・・・・・と教本で教わります。ですが、24時間の勤務時間から仮眠時間と休憩時間を差し引いても15時間以上残ります。独り立ち当初は、慣れないシフト制への眠気が先輩方に見られているという眠気に勝ち、教本の復習をしたり、持ち歩ける自分専用のマニュアルを作ったり、他の方の車両に添乗させてもらいコツを教わったり・・・・・・と息をつくのは食事中かトイレタイムぐらいでした。

しかし、ある日、諸先輩方から「常に集中は無理。外せないポイントは全身全霊で挑んで、休憩中は文字通り身体を休めるのが理想。でも、何にでも対応できるように勉強したあとじゃないと自分の首を絞めることになるから、今やっている勉強はそれなりに続けるようにね」と諭されてしまいました。

あのときのアドバイスを素直に受け止めることができなかったら、正真正銘の”社畜”になっていました。それこそ息切れしている自覚のないまま、倒れるまで突っ走っていたかもしれません。ひよっこ運転士にとって、運転は孤独であると同時に、責任が重い作業なのです。幸い、私は息の抜き方を先輩に教わったことがきっかけで、夜遊び?の常連になれるまでに成長することができましたが、それでも、キケンとは常に背中合わせです。

”ゼロ災で行こう良し!”は鉄道業界で有名なかけ声ですが、常日頃、注意していても、私のように前触れもなく受傷してしまう業界なのです。ただ、私の場合、第三者を巻き込まない事象だったので、まだ救いがあります。後日、シフトの関係で同僚や上司に迷惑をかけるとしても、賠償問題に発展しないだけマシなのです。

賠償問題・・・・・・重い言葉ですね。
ですが、運転士は動力操縦者という免許を持っている分、何か事故を起こしたとき、間違いなく、罪の割合が普通の人より重くなります。

常磐線三河島駅の東方350mにおいて、運転士の赤信号の見落とし、および停車手配の遅れによって、下り貨物列車、下り電車、上り電車の列車三重衝突事故が発生した。最初の衝突後、下り電車の乗客の多くが近くの非常用ドアコックを回して扉を開け、上り線側の線路に降り、三河島駅に向って線路上を歩き始めたため、上り電車に次々と撥ねられ、死者160名、負傷者296名という多くの犠牲者を出すことになった。

失敗事例 > 常磐線三河島での列車三重衝突 (shippai.org)

列車事故では有名な、通称、三河島事故は、根本の原因は貨物列車の運転士の停止信号の見落としによる脱線です。ですが、第二の事故と言われる貨物列車と下り電車の衝突時は、負傷者25名の犠牲を出したものの、死者はいませんでした。なので、死者160名、負傷者271名は、第三の事故、避難先の三河島駅に向かおうとした乗客をはねた上り電車が起こしたものだったのです。

なので、当初、犠牲者の家族および世間の目は、会社としての責任がある国鉄は仕方がないとしても、根本の原因を作った貨物列車の運転士ではなく、犠牲者を出した上り電車の運転士に向かいました。

その怒りと嘆きは凄まじく、上り電車の運転士はその事故で即死した犠牲者のひとりであるにも関わらず、慰霊碑から削られてしまいました。その後の調査により、運転士に事故の現状を通達できなかった、それ以前に抑止手配(その場で非常ブレーキをかけ列車を停止させること)を怠ったことが問題であり、夜間帯に目視でキケンを察知してから非常ブレーキをかけたとしても衝突は免れない、つまり、運転士に非はないという結論がでるまで、その状況は変わらなかった、それどころか慰霊碑に刻まれるまで更に数年を要したそうです。

これは極端な例ですが、運転士ではどうしようもない事故があります。大地震や津波、台風、雷などの自然災害、残念ながらゼロにならない飛びこみによる人身事故、ここからは会社側の責任もありますが車両整備不良や施設の損傷による人的事故など。反面、運転士が犯してしまう事故もあります。上記の停止信号の見落とし、脱線、停止位置不良、速度超過、居眠り、飲酒など。どれも重篤な問題に発展しかねない事故ばかりです。

ですが、最初に責任を問われるのは、運転士です。
運転士には、列車を運転する権利と同時に、事故を防ぐ義務があります。なので、上記のように運転士に非がなかったとしても、状況が判明するまで非難囂々、場合によってはストレスで体調を崩してしまうかもしれません。

それぐらい免許には重みがあり、②でお伝えした、直属の大先輩が口にした言葉ーーー

「業務中のミスは一生残る、決して消せないから」

は、まさに至言であり、忘れてはならない仕事のコツなのです。
その金言と事故の恐ろしさを何度も聴かされた結果、「ここだけは集中!」というポイントを2つ決めました。ひとつが、運転整備から起動直後まで。もうひとつが、ブレーキから停止までです。

運転整備を怠った場合、事故後、車両整備不良が原因だとしても、運転士の責任になります。運転士は車両整備の最後の砦であり、いつもと違う何かを発見したときは速やかに報告する義務があるからです。私自身、いくつか発見したことがあります。ですが、閉めるべき扉が開いていたときと、保安装置の計器類が故障したままとでは、その重みが異なります。

前者は降車するまでに扉を閉めてから念のため確認の報告を済ませれば許される範囲ですが、後者は車両に万重篤な重篤な重篤な故障が発生したとき無事に停止できるか不明です。原因はどちらも運転整備を怠ったことなのに、その結末は天と地の差が生じてしまう典型例といえます。

起動直後、油断した場合、運転士の責任分担はかなり重くなります。運転席からの視界には、どうしてもできてしまう死角があります。その恐ろしさに気づくことなく、進行信号が現示(青信号が点灯)したからといって、即、列車を軌道させてしまうと・・・・・・ 車両の目の前にある踏切を横断してきた人と触車事故(人身事故)となります。残念なことに、歩行者に気づいてブレーキをかけたとしても、惰性があるため間に合わないのが現状です。

ただし、この事故の根本の原因は、歩行者の信号無視です。運転士側は進行信号な上に、構内(車両基地)の踏切は保安装置(遮断機や警報装置)のない、人の認識に委ねられていることが通例だからです。ですが、責任割合は運転士と横断者で6:4、状況次第で7:3どころか8:2になるかもしれません。動力操縦者という免許は、車でいう業務用の2種免許扱いなので、上記の三河島事故のように運転士が非常ブレーキをかけていたとしても、責任の追及は免れないのが現実だからです。

ちなみに、”接車”は、鉄道の三大労災事故である「接車・感電・墜落」のひとつですが、基本、乗客が単体で起こす事故ではありません。一方、墜落は乗客ひとりでも起ります。ホームからの落下、ホーム以外での車内からの落下など、比較的わかりやすいものがおおいです。

感電も単体事故が多いですが、乗客側だとあまり知られていません。ですが、電車の架線には高圧電流、特に新幹線は特高圧25㎸(キロボルト)が流れているため、スマホの自撮り棒や、屋根のない雨天時にさした傘を架線に近づけすぎると、確実に感電します。

事実、雨天で屋根のない留置場にある列車に乗車するために扉に手をかけた瞬間、ピリピリと手が痺れるのです。これは、架線から流れた電流が車両の側面を伝って、身体に入るからであり、事象には値しませんが感電となります。

ですが、感電事故となると、そのレベルでは済みません。架線に直接触れた場合、雷のような轟きとともに、重度の火傷を負います。場合によっては発火後、石炭化することさえあります。

なので、自撮り棒での撮影にはくれぐれもお気をつけください。鉄道会社側からはポスターなどで注意喚起をしていますので、もし事故を起こした場合、自業自得どころか他を巻き込んだ賠償問題になりかねませんので・・・・・・ よろしくご協力くださいませ。

ここまででも十分、免許の重みが伝わったと思いますが、ブレーキに関係する事故は更に重くなるので・・・・・・ 次回に持ち越します。

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