雨の強い日に
からだの不調が続くと、次第に気持ちもすり減ってきてしまう。
ここ最近はそんな調子で、今日も行事の手伝いがある彼女と次男を送りだすと、からだかこころかどちらの不調を回復させるでもなく、昼前まで布団へ逆戻りしてしまった。
昼過ぎに足を運ぶ必要のある小用があったので、重たい体を起こして家事をかたづける。
靴ひもを結んでいると行事を終えた二人が帰ってきたので、入れ違いに駅へと向かった。
人と会っている間は気分がよかったので外に出てきてよかったと思ったが、夕方にデスクワークへと戻るとまた動きがわるくなってしまった。
どれだけディスプレイと見つめあっても進むものも進まないので、あまり得策ではないが気分が落ち着くまで小さな画面をスクロールして過ごすことにした。
ここのところ坂口恭平さんのTLが盛況なので、朝から見ていなかった分を追ってみる。
新著が気になるが、なかなか手が出せないでいる。
自分勝手な期待をよせてしまうときは、あまりよいときではない。
先日ご本人が隣駅の本屋さんまで来られたと目にした時も出向こうか迷ったが、今は時期ではなさそうだと出た手をひっこめた。
昨日は彼女が仕事で一日家をあける日だった。
昼過ぎには次男をむかえに行くので、その前にいくらか部屋をととのえなければならなかったが、昼寝のまどろみから抜け出せずしばらくの間小さな画面に目を落としていた。
坂口さんのTLを追っているとライブ配信のリンクが目に入った。
何かしら切り上げる動機がほしかったこともあり、ついリンクを押してしまった。
音楽も話し声も不思議と心地よく、目は自然と画面からはなれた。
身勝手な期待とは別に手を出す理由ができた。
ネットショッピングでもいいけれど、サイン本には一冊だけ当たりがあるそうだ。
商品が本命で、当たり外れはそのおまけ。こういうギャンブルは大好きだ。
三時間前に近くの書店にサイン本が三冊入ったというRTが目に入る。
まだあまり時間は経っていない。
少ない冊数だが、今日は雨模様なので、街の人足は多い方ではない。
ただ、書店は駅ビルに入っているので天候はそもそも関係ないかもしれない。
考えていても仕方がないので、スマートフォンと財布だけ手にとって駅へ向かった。
全て売れてしまっていても、それはそれで喜ぶべきことだし、きっとまた別の機会もある。むしろ、その小さなギャンブルに気持ちがはずんできた。書店に向かう足はすこし早足になっていた。
7階までエスカレーターをのぼりきると、店頭の新書コーナーへまっすぐ向かった。
気持ちが急いているとかえって見つからないものだが、こんなにワクワクしながら本屋にいることは初めてだったかもしれない。
早々にあきらめてカウンターへ向かおうかと思ったところで、小さなポップと目的の本が見つかった。
道中めぐらせた思考はとりこし苦労で済んだが、三冊あればあるでどれを選ぼうか迷ってしまう。それこそ考えたところでわかるものではないので、これもめぐり合わせと一番上にあった一冊を手に取りレジへ持って行った。
ブックカバーがかかった本をコートへしまい込み、傘をさして外に出る。
雨足の弱まらない中、ここのところ気に入って通っているお店へ向かった。
店主さんにおまかせすると、紅茶リキュールのミルクティーを出していただいた。
ひとごこちついてから、カウンターで本の表紙をめくってみる。
坂口さんのサインがすぐ目に入った。
略歴と著作一覧、もくじに目を通して、パラパラとめくって出たページをながめてみる。
つづきはまた明日。
サイン本は当たりではなかったようだけれど、ワクワクはまだ続いている。