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音楽と記憶、小6で覚醒
当時作ったプレイリストをひっぱり出してきて再生する。ハマった曲は飽きるまでぐるぐる聴くタイプだから、その時の季節とか気候、悩み事まで詳細に思い出せる。
ここ最近思い出した中で、一番古い記憶を書く。
都内某私鉄で乗り合わせた酔っ払いのおじさんが大音量で聴いてた、AKB48の『GIVE ME FIVE!』という曲。誰もが知る、一世を風靡した平成アイドルの、超有名な卒業ソング。当時駄菓子屋に行くと必ず購入していた非公式のブロマイド。彼女らの熱狂的な人気と、あの時通いつめた駄菓子屋までの道のりを思い出す。この曲をたまたま電車で聴いた時、子どもの頃の記憶がブワッと蘇ってきた。とても鮮明に。なんとも言葉にし難い出来事。喜怒哀楽で言うと、哀。
あれは小6の卒業式。
式が終わってから、当時いつも一緒にいた友だち6人組(通称YMB48。AKBをもじって作ったグループ名で、地元の名称が由来になってる。休み時間のたびに集まり、じゃんけん総選挙やダンスの振り入れを至極真剣にしていた。なんとも青くて恥ずかしい青春… )で地元のジャスコで卒業証書が入ったヘビの皮みたいな筒を持ってプリクラを撮った。落書きのタッチペンがいつも通り接触悪いこととか、最大5分割しかないプリントシールをどうやって分けるかとか、卒業に浮かれつつもみんな“いつも通り”だった。ほんのり薄暗いフードコートでひとしきり騒ぎ、中学への期待を全開にした私たちは、4月から用意しなければいけない文房具や通学バッグ、部活動など、中学の話題で持ちきりで、みんなが寂しい気持ちを隠そうと必死だったのが、子どもながらに伝わってきた。一方で、憧れの中学校生活に期待を隠し切れない気持ちももちろん抱えていて、例外なく私もその一人だった。
夕焼け小焼けのチャイムが鳴る
自転車で帰る、いつもの帰り道
友だちとバイバイする
また遊ぼうねー!またメールするね!
みんな同じ気持ちなんだ。楽しみだけど寂しいな。そう考えた時、私たちはこれまでの楽しかった記憶を、どんどん新しい環境で上書きして、忘れていってしまうんだろうかと、ふと思った。
帰宅後、午後5時。あんなにたくさんの出来事を、全部全部忘れたくないのに記憶の隅に追いやって、たくさんの情報に埋もれて、忘れたくないことも忘れていってしまうんだろうか。またYMB48で集まって、プリクラを撮って、意味もなくフードコートに夕方まで居て、交換日記を次の人に回して。そういうことをしたくなった時、どうしたらいいんだろう。もう、戻れない。今日で最後だった。これからも、何度だって同じように遊べばいいのかもしれないけど、違う。またそれをしても「小学校の頃の私たち」をなぞることしかできない。ぜんぶ「過去」になった。しかも恐ろしいことに、中学校を卒業してしまったら次は高校が待っている。その先、もっと先もある。きっとたくさんの人と話して、その中で何人かと仲良くなって、ジャスコみたいな別の場所で遊んだりする。また、時が来たらお別れ。どうして次から次へと出会いと別れを繰り返さなければならないのだろうか。その度に、毎回こんなに辛い思いをしなくてはならないのだろうか。今なら言葉にすることができるけど、当時はやりきれない気持ちで、泣いていた。溢れてくる涙の理由をうまく説明できなくて、家に帰ってから、親にばれないように、自分の部屋のベッドで声を殺して泣いた。
あれからずっと春が苦手。別れを惜しむ気持ちと、もうちょっと淋しさに浸りたいのに、急いで次へ次へと早送りしようとする大人たちと、新しいことに無条件に期待する、街の浮かれた雰囲気が嫌いだから。ヤマザキ春のパン祭りでシールを集め、スーパーで交換した白いお皿を見て喜ぶ母親がいなかったら、私は本格的に春が嫌いだったと思う。
苦手な季節は置いといて、例えば香水が導く記憶が当時の私のぼんやりした思い出をなぞる輪郭だったとしたら、音楽が呼び戻す記憶はもっと内側にある、そっと置いてきた小さいパーツ。ふたつがあって当時の記憶になる。人間の五感って本当にすごい。香水の話はまた今度する。
そうやって過去の記憶を旅した時に感じる、昔を懐かしむ、あのなんともいえない、心臓がギュッとなる感じ。どう足掻いても戻れない時代と環境と若さ。当たり前だけど何もかも変わってしまった。自分も周りも、何もかも。でも、その“戻れない”という感傷に浸る“今”も、後で思い返せばきっと、どうしようもなく戻りたい過去になっているはず。
その全てを取りこぼしたくなくて、毎日日記をつける。どうでもいいような事も全部。酔った時に書いたら暗号の羅列で読み返せないけど。同時に、感情爆発の最高な日記ができあがる。つまりは、日々の出来事を書き留めながら、音楽と酒に浸る夜が至高って訳です。
は?