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ボクンチワイン

こういう仕事をしていると、ありがたいことに「これ飲んでみて」とワインが届くことがある。

そのほとんどは、ワインのインポーターさんから。飲食店や通販店で新しく使ってもらえないかという打診のサンプルワインだ。僕は吟味させていただき、ラインナップに入れるかどうかを決める。採用ならテイスティングコメントを書いて店に並べる。これはまあ、通常の業務。

しかし珍しいパターンもある。先日送られてきたのは、ミュージシャンから(正確にはその事務所から)。ワインは、「RADWIMPS ボクンチワイン 二〇二三 赤と白 (375ml)」だ。

RADWIMPSのベーシスト武田祐介氏はたいへん多才な人で、音楽活動の合間をぬって、中国語をマスターしたり、野菜を育てたり、ビールを造ったりしている。そして先般、宮城の秋保ワイナリーに通ってワインづくりに携わり、オリジナルのワインをリリースしたのだ。

昔、深夜のラジオ番組で一緒にきゃっきゃやっていた頃は、よもや彼がワインをつくり、僕がテイスティングさせていただくなんてことになるとは思いもよらず。別れた道が、時を経てまた近づくなんてこともあるんだな。

すでに完売しているようなので、紹介したとて買えないじゃん、なのだが、わざわざ送っていただいたその気持ちにささやかながらレスポンスしたいと、ここに僕なりのコメントを書き記すことにする。


ボクンチワイン 二〇二三 赤

品種: 宮城県産メルロー、山形県産ヤマソーヴィニヨン
アルコール度数: 10%
外観: 淡いルビーの色調。軽やかな印象を与える外観。日本ワインらしい繊細な味わいかな?と予想。

香り: 外観とはギャップあり!カカオやバニラの甘くほろ苦いニュアンスに、フレッシュなベリー類の果実香が重なる。樽由来の香りがしっかりと存在感を示している。一筋縄ではいかないぞ。

味わい: マイルド。そしてやはり繊細。しかし主張もあり。
メルロー由来の柔らかく滑らかな口当たりが中心。そこにヤマソーヴィニヨンがもたらすほのかな青い野菜の風味が加わる。ぶどう品種的にもうちょっと酸が強めかなと思いきや、さにあらず。穏やかな酸と軽やかなボディのワインだ。
ただ、フィニッシュにはモカを思わせるしっかりとしたほろ苦さが。果実味よりも樽のニュアンスがやや優勢。面白いバランスだなと感じた。

ペアリングの提案:

  • 鴨のロースト ラズベリーソース

  • 焦がしバターとマッシュルームのリゾット

  • 焼き茄子の田楽

ロースト香や樽のニュアンスが、炭火で香ばしく焼いた料理と好相性でしょう。軽やかなボディなので、野菜料理や比較的軽めの肉料理とのペアが好適。焚き火を囲んで語り合う夜に似合うだろう。


ボクンチワイン 二〇二三 白

品種: 山形県産シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン
アルコール度数: 10%
外観: 淡いレモンイエロー。さっぱりした味わいを期待させる、透明感のあるクリアな色合い。

香り: これは・・・やや意外な香りと言ってしまおう。果実香はそれほど上ってこない。ドライハーブや青パパイヤの爽やかな香りに、焼き菓子のような焦げ感、やや還元的なニュアンスが重なる。硫黄のほのかな気配も。

味わい:
酸は穏やか。香りで感じたとおり果実味は控えめ。日本のシャルドネはやはりニュートラル。補助として使っているソーヴィニヨン・ブランのハーブ感、青い風味で奥行きを持たせている印象。余韻にはビターなニュアンスがしっかり残る。さっぱりと言うより、やや複雑なイメージ。

グラスの内側に残る「ワインが乾いたところ」からは、クレームブリュレのような甘いフレーバーが立ちのぼり、心地よい。しかし、ワイン自体はボーンドライで硬派な仕上がり。食事と合わせやすいスタイルになっていると思う。

ペアリングの提案:

  • ベーコン入りポテトサラダ

  • 燻製ごぼうチップス

  • タコとオリーブのブラックペッパーマリネ

ビターな後味と調和させるために燻製の香ばしさやスパイス感をプラスした料理が良い。ワインが引き立て役に徹してくれること間違いなし。

こんな印象だった、RADWIMPSのベーシスト武田氏の処女作「ボクンチワイン 2023」の白と赤。
個人的な好みとしては、赤がいいなと。まとまり感がありつつ、樽由来の複雑さが味わいを立体的にしていると感じ、食事とあわせても、単体で味わってもよいと思った。
白はメジャーデビュー直前の曲のよう。やりたい方向性がなんとなく掴めた感じ。次にどんな進化を遂げるのかというわくわく感がある。

ワインづくりは自然との対話だと言われる。人は、先人から受け継いだ農学と醸造学の知見を、自然にぶつける。その答えを毎年、自然からいただく。自然が先生、人は生徒だ。

生徒は、自分たちの楽しみを生み出そうとして、これはどうですかと先生に聞く。先生は大らかに、ときに厳しく答える。そんなやり取りの結果、年に一度だけ美味しいおこぼれが運良くもらえる。

彼も、ワインのプロたちの助けを得ながら、そんな自然とのやり取りを体験したのだろうと思う。そして、バンドがワールドツアーでめちゃんこ忙しい中、やると決めたらちゃんとやり遂げ、ひとつの形にしたこと。それ自体、立派なことだなあと思う。

本人曰く、反省ポイントもあるそうだが、そもそもワインに完成形はなく、その反省こそが次への一歩となる。苦心する過程こそがものづくりの醍醐味であるってことは、音楽で長年やってきた彼が肌でわかっていることだろう。

進化を遂げてきた彼の演奏のように、次はきっとさらに一段深い場所へ。気付けばワインの沼にずぶずぶと。そんな、次の深みに期待をしてしまった。そういう点で、この2本は出発にふさわしい、若くてチャーミングなワインだと感じた。

武田くん、スタッフの皆さん。素敵なおこぼれ、ご相伴にあずかりました。ごちそうさまでした。
それにしても、RADWIMPSは僕にしっかりと刺激を与え続けてくれる。ボクモがんばらねば。

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