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「無理」奥田英朗

一時期やたらと「無理~~」って言葉が飛び交っていた時期が
あった。テレビでも家の中でも。
もうほんとにその言葉が嫌いで、いちいちムキっ💢となっていた。
「無理」ってなるまでには
「やってみたけどうまくいかなかった」がスタートで、紆余曲折があって「無理」に至ると思うのだけれど
当時「無理~」って言う人たちは「なーんもやってないのに」いきなり
レベルマックスの「無理」に到達する、その「根性」が許せなかった笑
(嗚呼、なんて昭和)。
あと「無理」って言葉を発する時って「無理・・・です」って
丁寧語がつくだろ、と思ってるけど
「無理~」って言う人たちってこちらを嘲っているというか
「無理」なことを恥じてないというか、そのような感情が見え隠れしていて
本当にむかついたものだった。いや、今でも。
まあまあ、そんなにいちいち怒らなくても、そんなに深い話じゃないって。って自分でも思うけど
未だにウチの子供が「無理」って言うと
私が「てめえ。本当にやれるだけのことやってから言ってんだろうな」という眼でにらむからあまり言わなくなった気がする・・・。

さて奥田さんの「無理」は、そりゃもう無理だね、って
思われる人たちの集合体だった。
どこまで書いてよいかわからないけれど「それネタバレじゃん」と思われるかも知れないからこの先はあまり読まない方がいいかも。

市役所で働いている男性。妻に浮気されてバツイチ。
生活保護の担当。上から「極力生活保護の申請は却下すべし。今もらっている人も不正がないかをチェックし打ち切れる人は打ち切るように」と言われ
たため、市民に厳しく接し今まで好意でやっていたこともやらず
「お役所仕事」に徹する。仕事にやる気がでなくなってしまったのでパチンコ屋の駐車場でさぼっていたら「援助交際」をする主婦を目撃してしまい変な性欲が高まり・・・

東京の大学に行くことを夢見る女子高生。ガラが悪い他の高校生を
横目で見ながら予備校に通う。こんな町にいたらこの人たちと同じになってしまうから、勉強してこの町を出ようと思っている。

親父の地盤を引き継いだ市議会議員。やくざみたいな人とも上手くやりながら顔をきかせて「先生」と呼ばれる立場で暮らすが市議からランクアップして県議を目指す。自分は女遊びをしているので、アル中の嫁が散財することも口出しできない。嫁は家の建て替えにご執心。なにやら建築士を呼んであれこれ注文をつけているようだが・・・

新興宗教にはまるアラフィフの女性。万引きGメンだったが仕事もクビになり、お金もないのに宗教へ献金し、自分の母親まで引き取って面倒を見ようとする。同じような宗教と敵対し嫌がらせをしたりされたり・・・の日々。

漏電していると偽って高額な機械を売りつける詐欺電気会社に勤める若者。
社長も先輩も後輩もみーーんな元暴走族。会社を辞めると言えば
社長にボコボコにされる。町で悪さをするブラジル人たちと抗争だと言えば
助っ人に行きボコボコにされる。人をだましてお金をもらって、何かあればすぐボコボコにされるような生活をしているのに
「俺たち、昔はやんちゃだったけど今は働いて家族ももって偉いな」って
言い合う。

こんな人たちが進む先にもちろん救いはない。
もう落ちていくだけ。そんな人たちが接点をもったとき・・・・
という話。
上下巻なのだが、もう読めば読むほど憂鬱に。
だって救いもないし「嫌なやつ」ばっかりなんだもの。
そして何が気持ち悪いって出てくる人たちが異様に性欲があること。
普通の、じゃなくて変な方向にいっている性欲。
町はいつも曇り。冬だから寒い。そんな中誰も乗らないようなでっかい
観覧車だけまわっている・・・・。

もうほんとに「終わった町」の「終わるしかない人々」の話であった。
この前読んだ奥田さんの本もそんな感じで
他の本のあらすじを読んでも「救いのない人々」の登場が多かったから
「そういう作家さんだったんだね!」と今更気がついた。
私の中で「救いのない話を書いたら右に出る者はいない」の代表選手は貫井徳郎さんなのだが、貫井さんの救いのなさとも違う感じ。
貫井さんの世界はひたすら灰色だけど
奥田さんは黄色かなーーー。おかしくなっちゃった!みたいな
救いのなさ、というか。

もう少し奥田さんの本を深掘りしたいのだけれど、
嫌な思いをしながらやーーーっと読んだのでしばらく毒気を抜くことにします。


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