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「染唎笑(ソムリエ)落語」で後味のよい洒落た笑いを。

まったく同じ話なのに、あの人が話すと面白いのにこの人が話すとつまらない。そんな経験はないでしょうか。私はある。なぜそんなことが起こるのかと言えば「面白い話」とは「話の内容」だけでなく「誰がどのように話すか」もまた重要な要素であるからです。

「人志松本のすべらない話」というトークバラエティー番組があります。まさに話のプロが至極のエピソードを語り、必ずオチをつけて笑いを取ります。この番組のすごいところは再放送が成立するところ。すでにオチがわかっている話でも再び笑ってしまいます。話の内容が面白いからなのかと言えばそうでもなく。例えばこれを素人が「この前すべらない話でこういう話があってさぁ」と話したところで必ずしも笑いがとれるものでもないでしょう。話の流れや話の間。そういったものが大事になってくるのです。

さて、日本の伝統的な「すべらない話」といえば落語です。特に古典落語はこれまで何人の手で、いや口で、何度語られてきたことか。ある日突然「これを見てほしい」と投げられたのは「染唎笑(そむりえ)落語」という落語コンテンツ。コンセプトはお酒の銘柄からイメージした新作落語を若手女優が演じるというものです。お酒に縛りはなさそうなものの、落語と組み合わせる以上、奇をてらわなければ日本酒、焼酎あたりがよいでしょう。

ディレイ配信2300円とお手頃価格だったので、物は試しにと見てみると、これがなかなか面白い。私が見たのは西葉瑞希さんと星守紗凪さんが演じる回。お二人とも普段は舞台の上で芝居をされているだけあって、座布団の上でも世界観にグッと引き込んでくれます。アーカイブ期間をたっぷり使って何度も何度も見返しました。落語ファンが満足できるかどうかはよくわかりませんが、登壇するキャストに興味があれば十分に楽しめるんじゃないでしょうか。にわか落語ファンでキャストを知らない私は楽しめました。

以下、ネタバレ込みで感想など。再演に期待してそれまで内容は知りたくない! という方は回れ右していただければと思います。

てててい

西葉さんの演目。日の当たらない影のような女が不思議な出来事を機に日向に足を向ける物語。教訓めいたところもありながらオチもしっかりしていました。「てててい」とは何かを考察してほしいと言われていたので、そのあたりにも注目。正直に言えば、特に考察の余地はなく、モチーフのお酒の「てててい」という名前の語感が魔法を掛けるレトロな擬音のようだったことから思いついたくらいの話と想像します。一方で「てててい」とは何かを考えようと思えばいくらでも深読みできる隙のある作りの話ではあって。とことん考えてみるのもまた一興。魔法使いは本当に魔法使いだったのか。「てててい」もまた願いの言葉なのではないか。ビン底眼鏡くんは何を願ったのか。彼の願いの言葉は何だったのか。残念なイケメン君が彼の願いの果てである可能性はないのか。一体誰が時間を戻したのか。そもそも時間は戻ったのか。そもそも魔法使いは存在したのか。果たして主人公は幸せになれたのか。などなど。見た人の数だけサイドストーリーが作れるんじゃないかと思います。

かくかくしかじか

星守さんの演目。超お気に入りです。何度見返したかわかりません。オチが分かっているのにクスリと来てしまうまさにすべらない会話劇。話の内容だけでなく、アフタートークの中で拘ったと仰っていた間のとり方や音の抑揚がキラリと光っていたのでは。本がよかったのか芝居がよかったのか両方か。他の演者さんと見比べてみたい一席です。この演目の二段オチの構成は見事のひと言。中盤あたりでおおよその展開は読みきれます。愉快な一人二役の会話はきっとこうきてこう着地するのだろうと。観客の笑い方も先が読めている笑い。笑いながら予想通りの場所に到着したところで、意外な方向から話を雑にまとめるワンフレーズをポンと置かれて。山の頂から完全に下山ルートが読めていたのに、いざ下山してみたら最後の最後に落とし穴にハマったような。内容自体は複雑なのに、スッと話が入ってきてスッと笑える、飲みやすい日本酒のような作品でした。

零号

西葉さんと星守さんの演目です。ゼロからイチへの気遣いでゼロからイチへの第一歩。ロボットの零号が人間のイチカを励ます話。アドリブ込みの息の合った掛け合いは見どころのひとつです。惜しむらくはオチが少しばかり弱いかな。個人的にはどうにも時差のあるオチが好みで。「てててい」も「かくかくしかじか」も伏線をフッと忘れたころに脇腹をグサッと刺される感じがよいのです。「零号」はオチのために最後に展開をひとつ足していました。話の頭か中腹に伏線が仕込まれていたなら、尚好きだったと思います(仕込まれていたのに気が付かなかった可能性は否定できません)。二人で演じていることも相まって落語というよりは朗読劇のような印象。これはこれで面白かったです。

次回公演があればまた覗いてみたい。酒の肴に「染唎笑落語」。ご興味とご都合があえば是非。

余談
本項の「零号」の項まで書き上げたところでなぜか下書きが半分くらい消えまして。正確には「かくかくしかじか」あって結構前の時点に戻りまして。思わず「てててい」と唱えてみるも、願いが叶うわけもなく。叶ったところで「中央線の最終過ぎたら消えるから」という「染唎笑落語」を見ていればこその小気味よいツッコミを頂き、諦めて書き直した次第でございます。

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春乃はじめ
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