何が正解なのか~人生を終えるにあたって~ その①
90歳後半のIさんは特に大きなご病気はありませんでしたが、この数週間で食事がとれなくなり、医師より毎日補液の為の点滴の指示が出たため、訪問看護を利用されることになりました。
ご依頼を頂いた時、お看取りを視野に入れた対応となることが予測されました。
初めてご家族とお会いした時のことです。
「点滴は延命処置なのですか?
母は歳ですし、点滴で良くなるのでしょうか?
母のことは先生にお任せして、先生の指示に従うものだと思っていますが、家族の考えを先生にお話してもいいのでしょうか?
今日の様子を見ていると、もう、母の寿命はそんなに長くないと思っていいのでしょうか?
どうしたいか、私が決めていいのでしょうか?
何が正解なのか、私にはわかりません。」
ご家族はいろいろな想いが巡っていらっしゃったようで、私に何度も同じ話や質問をされ、ご自身の考えや迷いを整理されている様子でした。
後日、私達も含め、主治医、ご家族と話し合いの機会を設けることになりました。
訪問看護を利用していただく方、またそのご家族も、自宅療養中に決断をしなくてはいけない場面があります。多くの方は迷い、気持ちが揺れます。
今まで私が訪問看護で関わらせていただいた方々も、色々な決断をされてきました。
・「点滴も何もしないで後は自然に任せたい」
・「水も飲めないのはかわいそう。点滴ぐらいはお願いしたい」
・「自宅でできる範囲の対処を受けて、最後まで自宅で過ごしたい」
・「少しでも可能性があるのなら入院して治療したい」
・「痛みや苦しみがないようにだけはして欲しい」
・「胃瘻を作るのは嫌」という一心で食事を食べるようになられた方
・「肺炎のリスクが減って栄養がとれるなら」と胃瘻の手術を受けられた方
・「将来、気管切開が必要な状態になっても希望しない」と決めていらっしゃる方
・気管切開や人工呼吸器を使用して在宅療養を始められた方
― 何が正解なのか ―
唯一、これが正しいということではなく、「正解はたくさんある」のだと思います。
もちろん、メリット・デメリットを考慮した医学的な判断や助言は必要です。
それに加え、ご自身が歩んでこられた人生や価値観、今の想い、ご家族との関係、家族の中でのご本人の役割。ご家族の人生や価値観、想い。
それらをひっくるめて、ご本人とご家族にとって最良と思われる選択が、その方とご家族にとっての「正解」となるのではないでしょうか。