谷底の神父【サウナしきじ@静岡県】(2/2)
徒歩1時間ほどであれば歩いて移動をすることもある僕にとっては、タクシーという乗り物は新幹線や飛行機と同じくらい非日常的なもので、お金で時間を買っている感覚を得られるような、言い換えると ”大人の気分” を味わうことができる移動手段だ。
ただ、今日に限って躊躇なくタクシーに乗り込んだのは、きっと次の目的地への気持ちが高まっていたからだろう。その場所は、静岡駅を出て10分ほどで僕の目の前に現れた。
「ついに到着したぞ……」
そう、今回訪れたのは、サウナに通う習慣のある人であれば知らない人はいないであろう通称 "サウナの聖地" こと「サウナしきじ」である。しきじは1986年の創業以来、地域住民を中心に多くのファンを獲得し、その満足度の高さからメディアに何度も紹介されている超有名店だ。評判が評判を呼び、今では全国から客足が途絶えることが無いほど支持を得ている。僕もまさにその一人ではあるのだが。
運転手に1500円を支払ってタクシーを降り、さっそく中に入って下駄箱に靴を預けてから、券売機で購入した1400円のチケットをフロントに差し出すと、ロッカーキーと館内着、そしてバスタオルを手渡された。
そのまま脱衣所に入ると、そこにはフェイスタオルが積まれていて、自由に使用してよいそうだ。そして指定されたロッカーまで進んで準備を済ませた僕は、いよいよ浴場へと足を踏み入れた。
「マジか! さすがの人気ぶりだな……!!」
(さんたつ: https://san-tatsu.jp/articles/62679/ )
浴場は一般的な銭湯ほどの広さだったが、客数に関しては過去に訪れたどのサウナ施設よりも賑わっていて、歩くだけでも周りに注意を払わなければならないほどだった。
僕はまず身を清めてから、オーソドックスなお風呂に浸かって体を温めることにした。
「なんだ、この水質は……!なめらか過ぎる」
(公式サイト: https://saunashikiji.jp/bath/ )
体感で39℃ほどのお風呂は温泉かと錯覚するほどの優しい手触りで、全身がやわらかい布で包み込まれるような心地よさを得られたのだった。このお風呂は天然水が贅沢に使用されているそうだが、それにしても今までに入浴した他の天然水のお風呂と比べても、明らかに味わったことのない感覚だ。
しばらくお湯に浸かってから、続いて隣の茶色く濁ったお風呂に入ってみることにした。こちらは漢方薬草風呂と名付けられ、独自にブレンドされた薬草の成分が溶け込んだ茶色い濁り湯からは、美容健康効果を期待できそうな独特の香りが漂っている。
漢方薬草風呂
当館自慢の薬草風呂のお湯は檜皮色で独特の匂いがありますが、鉱泉の成分とマツフジ、オオバコ、ドクダミなど10種類以上の薬草成分により皮膚、胃腸、リュウマチ、腰痛、肩こり等、美容などに効果があると言われております。体を洗った後にゆっくりと薬草風呂をご堪能下さい。
ーー公式サイト https://saunashikiji.jp/bath/
「では、そろそろ……」
体を温められた僕は、いよいよサウナへと向かうことにした。サウナは2種類あり、僕はまず向かって左側にあるフィンランドサウナの扉を開けて中に足を踏み入れた。
「これが聖地のサウナか!!」
(さんたつ: https://san-tatsu.jp/articles/62679/ )
15人ほどが座れるほどの広さがあるサウナ室は薄暗く、木の温もりを感じることができるデザインだ。僕は奥に積まれたサウナマットを1枚手に取って、空いている最下段に腰をかけて蒸されることにした。体感では80℃ほどだろうか。優しい熱が僕の体をじんわりと温める。
それからすぐ、最上段の3段目のお客がサウナ室を出て行ったため、僕はそこに移動して座り直すことにしたのだが、高さが2段変わるだけで体感温度は大きく変わり、急に全身から大量の汗が流れ出した。温度計を見ると108℃を指していたが、湿度も比較的高いようで、いっきに息苦しさを感じた。
そこでテレビを眺めながらじっとしていると、数分で呼吸は荒くなり、心臓の鼓動も激しくなっていったところで、僕の身体は限界を迎えた。
ーーそろそろ出よう……。
僕はサウナ室を出て、シャワーで汗を流してから水風呂に肩まで沈み込んだ。
ーーこれが ”奇跡の水風呂” か。
(公式サイト: https://saunashikiji.jp/bath/ )
先ほど感動したお風呂と同じ水質を持つ水風呂に、身体が喜ばないわけがなかった。水温は15℃ほどだろうか。その深くて広い水風呂には「気持ちいい」以外に余計な感想や説明は必要ない。
(公式サイト: https://saunashikiji.jp/waterdetail/ )
そして、その天然水をその場で飲むことができるようになっているのは、さすがに僕も興奮を抑えきれなかった。ミネラルを豊富に含んだ水は体に沁み渡り、内側からも外側からも僕に癒しを与えたのだった。
当館の天然水は、駿河の美しい自然の中で育まれた天然の湧水です。 長い歳月をかけて地下深層部でろ過されたので、水道水とは違ったやわらかな自然の旨みにあふれており、遠方からのお客様にも大変人気な天然水です。火傷、皮膚病、痛風、動脈硬化症、高血圧症などに大変効果があり、天然ミネラル成分もバランスよく溶け込んでいますので、そのまま飲料水として召し上がっても大変健康的です。 静岡が誇る自然の味わいをぜひお試しくださいませ。
ーー公式サイト https://saunashikiji.jp/bath/
火照った身体が落ち着いたところで僕は立ち上がり、すぐ近くにある ”ととのい椅子” に腰をかけて目を閉じると、ちょうどドラマ『サ道』のエンディングテーマとして使用されていたTempalayの『あびばのんのん』が浴場内に流れ、まるでドラマの主人公にでもなったような気分で多幸感に包まれたのだった。
「ととのったぁ……」
思わず僕は小さな声でつぶやいてしまっていた。それほど僕の理性は保たれなくなり、欲望のままに今この瞬間を全力で愉しまざるを得ない状態になっていた。
それから何分が経過したのかはわからないが、ようやく思考が落ち着いてきたところで、僕は向かって右側の扉の奥にある薬草サウナへと足を踏み入れた。
「うわっ!!」
突然の衝撃に声が出てしまった。ドアを開けた瞬間に僕の体は大量の蒸気に包まれ、そのあまりの熱さに狼狽えてしまったのである。
だが、そこで立ち止まるわけにはいかない。僕は意を決して奥に進むと、その中は10人ほどが座れる広さの2段構成の設計になっていて、さまざまな薬草がブレンドされた香りで満たされていた。
(公式サイト: https://saunashikiji.jp/bath/ )
そこで目の前に積まれていたサウナマットから1枚を手に取って、突き当たりの上段に腰をかけると、とてもではないが鼻から直接息を吸い込むことなどできず、タオルで抑えつつ口呼吸をせざるを得なかった。実際の室温は60℃ほどのようだが、体感では120℃といったところだろうか。皮膚が灼けるほど熱く、熱蒸気で視界は遮られているのだが、そもそも目を開けるのもやっとである。
そしてすぐに限界を迎えてしまった僕は、逃げるようにそこから立ち去り、シャワーを浴びて急いで水風呂へと再び沈み込んだ。
ーーこれが聖地たる所以か……。
冷水に身を委ねると自然と全身の力が抜け、そのあまりの気持ちよさに僕の表情には笑みが浮かんでいた。たしかにこの地には、 ”奇跡の水風呂” が存在しているのだ。
(written by ナオト:@bocci_naoto)
YouTube「ボッチトーキョー」
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