見出し画像

我が道を行った先に【ドシー五反田@五反田駅】

 僕は争い事が嫌いだ。苦手レベルではない、嫌いなのだ。なぜ嫌いなのかというと、たとえば僕が成果を出したことで相対的に競争相手の評価が下がり、それによって本人が傷ついてしまうことを想像してしまうためだ。できれば僕は誰も傷つけずに生きていきたいし、その逆もまた然りである。
 もちろん「競争によって成長できる」という意見もあるし、僕自身も会社員時代にそうであったように、実際に競争が成長に繋がっている事例も多く知っているけれど、個人的には競争ではなく共創によってお互いの価値を高めていきたいのだ。
 僕はどちらか一方だけが評価されるのではなく、同じ目的に向かって一緒に取り組んでいる相手も同じくらい評価されて欲しいし、そのために僕にできることがないか考えながら生きている。

 ただ、このようなことを言うと「あなたは逃げているだけじゃないか」と言われることもある。しかし、僕は会社員時代に営業部に配属されて、競争から逃げずに努力を続けた結果トップセールスの成績を経験をした上で「競争は自分には向いていない」と感じるようになったのだ。
 組織の中にいると、たとえ絶対評価の制度を取り入れたとしても、そこにいるのは人間なので、自ずと相対評価をされることになる。僕はそれがどうしても耐えきれずに、誰とも比較されることの無い「フリーランス」という道を進むことにしたのだった。

 結果的に、独立してから得られたメリットは大きい。もちろん収入は不安定ではあるけれど、誰にも縛られることなく自分で好きなようにスケジュールを組むことができるし、誰とも比較されることがなくなったので人間関係におけるストレスもほとんど感じなくなった。自分で覚悟を決めて突き進んだ先には、幸せが待っていたのだった。

 そういえば、サウナでも僕と似たようなスタンスを貫く店舗がある。それはドシーだ。ドシーは恵比寿と五反田に店舗を構えるカプセルホテルで、新宿区役所前カプセルホテルと同じ株式会社ナインアワーズが運営しているのだが、その一番の特徴はなんといっても水風呂が無いことだろう。
 サウナといえば「サウナ→水風呂→外気浴」を基本の1セットとして、それを何度か繰り返すことで幸福感を得ることができるのだけれど、そのための重要な要素である水風呂自体がドシーには存在しないのだ。
 しかし、ドシーはその不安要素とは裏腹にサウナ愛好家たちから高い支持を得ている。その秘密は「ウォームピラー※」である。

※ウォームピラー
クールダウンには水風呂ではなく、体にまとわりつくように水流を制御した水の柱が頭上から流れるTOTOのウォームピラーを、冷水専用にコントロールしてご用意しております。水温は15℃、20℃、25℃、30℃、さらに季節によって温度変化を楽しめる常温(水道水自然温)からお好みに合わせてお選びいただき、ベンチに腰掛けてリラックスしながらクールダウンしていただけます。
"ロウリュ"と"ウォームピラー(冷水)"によるクールダウンという独自のフォーマットによる、これまでのサウナ体験とは一線を画したリフレッシュ感を体験いただけます。
(※引用:ドシー公式サイト https://do-c.jp/ )

 僕は以前に恵比寿店でウォームピラーを体験してからドシーの虜になってしまったのだった。しかし、僕はまだ恵比寿店にしか伺ったことがなく、五反田店は利用したことがなかった。とはいえ、五反田エリアは自宅から遠くなく、きっかけさえあればいつでも伺う準備はできていた。
 そんなある日のこと。たまたまTwitterでドシー恵比寿・五反田の公式アカウントさんとコミュニケーションを取ったことがきっかけとなって、僕はその翌日に五反田店に伺うことを決めたのであった。

 今日は3月26日(金)、天気は晴れ。絶好のサウナ日和だ。僕はドシー五反田の営業開始時刻に合わせて準備を行い、自宅を後にした。

画像1

 五反田駅に到着したのは14時頃。そこから歩いて2〜3分程度で、今日の目的地に辿り着いた。

「都会的なジムみたいなデザインだな〜」

画像2

 1階部分がコンクリート打ちっぱなしになっている外観は、トレンドに敏感な女性が通っていそうな、おしゃれな高級ジムを彷彿とさせた。といっても、実はドシー五反田は男性専用の店舗なのだが、女性のみを受け付けるレディースデーも不定期的に開催しているそうだ。

 さっそく中に入ると、すぐ目の前には受付用のカウンターがあった。このフロントもまた都会的で、外観と同じくサウナというよりはフィットネスジムに訪れたかのような印象を抱いた。そこで男性スタッフに「サウナ1時間利用」を希望する旨を伝えて1,000円を支払うと、ロッカーキーのバンドと厚みのあるふかふかなタオルセットを渡され、後ろ側にある階段を下りるように案内された。

画像3

(ドシー五反田公式サイト: https://do-c.jp/gotanda/ )

 これまたコンクリート打ちっぱなしの階段を経由して地下1階に下りたところ、全く無駄のない設計で脱衣所に直結していた。ここから先は靴を脱ぐ必要があり、僕は自分の指定されたロッカーのところまで素足で移動した。

 今回は1時間という制限があるので、急いで服を脱いで荷物をロッカーにしまい、さらに奥へと進むと、右手にはサウナ室が、左手にはシャワーブースとウォームピラーが、そして突き当たりには地上1階にある外気浴スペースへと続くもうひとつの階段が確認できた。

画像4

(ドシー五反田公式サイト: https://do-c.jp/gotanda/ )

 僕はさっそくガラスで仕切られたシャワーで身を清めたのだが、やはりドシーオリジナルのシャンプーやボディソープは香りが非常に良かった。わざわざこの商品を購入していく人もいるほど定評があるのだ。

 ドシーには水風呂だけではなくお風呂もないので、僕は間髪入れずにサウナ室へと直行した。サウナ室の前にはサウナマットが積まれていて、一人3枚まで使用することができる。それ以上の使用はマナー違反を超えてルール違反になるので注意が必要だ。

 僕はルールに従いそこからサウナマットを1枚手に取って、ゆっくりと扉を開けた。

「ほぉ〜、これはなかなか落ち着けそうだ」

画像5

(ドシー五反田公式サイト: https://do-c.jp/gotanda/ )

 あらかじめWebサイトでサウナ室の写真を見ていたのだが、実際にはそれよりもさらに薄暗かった。いや、むしろ真っ暗だった。照明は座面の各段の下からわずかに発せられている間接照明のみで、最も高い位置にある座面に座った人の上半身は見えなくなるほどだ。

(※レディースデーイベント時に撮影許可が出た際の写真)

 サウナ室の中は4段構成で最大6人が座ることができて、あまり広くはないものの営業開始直後ということもあり先客は一人のみ。僕はありがたく空いている最上段を利用させてもらうことにした。あとで知ったのだけれど、この一人だけが座ることができる最上段は、「魔王の席」と呼ばれているらしい。

 室内の温度は100℃と十分に熱く、聞こえてくるのはサウナストーブの中で熱がぱちぱちと弾ける音のみ。都心の地下に広がる異質な空間で、意識を向けることができるのは自分自身だけだ。瞑想に向いている、まさにメディテーションサウナと呼ぶに相応しい環境がドシー五反田には用意されていた。
 そこで目を閉じてじっくりと蒸されていると、数分後に僕よりも先にサウナ室に入っていたお客さんが出ていき、貸切状態になった。

「これはチャンスだ」

 僕はすぐさま立ち上がり、段を下りてサウナストーブへと向かった。そう、ドシー五反田は恵比寿店と同様にセルフロウリュができるのだ。

(※レディースデーイベント時に撮影許可が出た際の写真)

 僕はバケツからラドルで水をすくいあげて、ゆっくりとサウナストーン全体に2杯ほど回し掛けていくと、熱せられたストーンによって水が蒸発する心地よい音とともに大量の熱蒸気がサウナ室に充満したのだった。さらに、それからすぐに最上段へ戻ってじっと待っていると、その熱蒸気が僕を目掛けて襲いかかってきたのである。

ーーそうか、ここは最上段に気流が集約される構造なのか。

 ドシー五反田のサウナ室は、座面の高さに合わせて天井の位置も徐々に高くなっていた。そのため、蒸気は最上段部分に昇っていく設計になっていたのだ。なるほど、たしかに「魔王の席」と呼ばれる理由がわかる。
 その灼熱の蒸気に包まれたのも束の間。僕はその熱さに耐えきれず、1〜2分ですぐに限界を迎えてしまい、サウナ室を出てウォームピラーへと向かった。
 ドシー五反田のウォームピラーは10℃、15℃、20℃、常温の4種類が設けられていたが、僕は反射的に10℃のブースに入ってボタンを押すことにした。

「うおおおお!! つめたっ!!! しかも水圧が強い!」

 恵比寿店のウォームピラーは優しく静かに”ぽたー”と冷水が垂れてきたはずだが、それに比べると五反田店は”じょろー”と少し重みのある冷水が脳天に直撃した。また、恵比寿店ではベンチに腰をかけて冷水を浴びることができたが、五反田店は基本的にスタンディングで浴びるスタイルだ。だが、これもこれでとても気持ちがいい。
 おそらく30秒ほどが経ったところで冷水の流れが止まり、頭のてっぺんからキンキンに冷やされた僕の体は少し震えを感じ始めていたので、すぐに外気浴スペースに向かうことにした。
 外気浴スペースに続く階段の手前に用意されていたスリッパを拝借して、僕は少しふらつきそうになりながらも一段ずつゆっくりとその階段を上っていった。

「なんだ、ここは……最高かよ」

 階段を上った先には、昼間であるにも関わらず薄暗くて、それでいてさらに無機質で明らかに日常の風景とは一線を画した外気浴スペースが広がっていたのだった。
 ビルの裏口を利用しているらしく、想像していたよりも広々としていたのだが、そこに設置されている椅子は贅沢に4脚のみ。しかも一般的な ”ととのい椅子” として知られる型のガーデンチェアではなく、最近徐々に人気が高まってきている「インフィニティチェア」と「アディロンダックチェア」の二刀流だ。ドシー五反田に死角なし。
 インフィニティチェアについては以前に公開した新宿区役所前カプセルホテル&サウナのnoteでも触れているけれど、アディロンダックチェアの利用は今回が初めてである。噂には聞いていたものの、その実力はいかに。僕は迷わずそれに腰をかけてみた。

「ほぉ〜、これは良いじゃないですか……!!」

 座面には傾斜がついていて、自然に深く座れるようになっている。つまり、全身が少し斜めに傾いた状態で、お尻だけではなく背中でも体重を支える形になるので、負担が分散されてリラックスすることができ、呼吸もラクになったのだ。背もたれ部分の面積も広いので、背中を全面的にカバーしてくれるのも安定感があって座り心地の良さを高めてくれる。
 そこで瞼を閉じて大きく深呼吸をすると、次第に僕の意識は朦朧としてきて、頭の中に溜まっていたものが徐々にデトックスされていき、そして最終的には幸福感だけがそこに残っていた。

「すげ〜……なんなんだ、この多幸感は……」

 その時、ふと正面に視線を向けると、ビルの裏口を利用した外気浴スペースとだけあって道路に繋がる大きなドアが視界に入った。このドアの向こう側には日常の風景が広がっていて、そこにいる人たちにはドアのこちら側で至福のひとときを味わっている裸の男がいることなど気付かないだろう。
 僕は妙な高揚感と背徳感を覚えて、それがまた僕の五感を刺激した。都会の喧騒から完全に離れたわけでもないし、離れられていないわけでもない。その絶妙な距離感が、いま僕がいる興奮と冷静との距離感と重なった。
 この非日常感が、僕はたまらなく好きだ。

画像6

 結局、僕はそれからさらに2セット、合計3セットをいただいて、ドシー五反田を後にした。

 ドシーには水風呂が無い。この事実に対して、残念なことに不満の声を漏らすお客もゼロではない。ただ、それはドシーの魅力を味わいきれていない証拠だと思うのだ。水風呂がなくたって、こちらの意識次第でこんなにも多幸感に包まれることができるじゃないか。
 個人的に、ドシーにはこのまま独自のスタイルを貫き続けて欲しいと願っている。たぶん、マイノリティーな生き方をしている僕が僕自身を肯定したい気持ちがそう願わせているのかもしれないけれど、それでもかまわない。
 僕も僕の道を進もう。幸せを手に入れるために。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ


いいなと思ったら応援しよう!

#連続サウナ小説 『ボッチトーキョー』byナオト
①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます