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職なし、靴なし、牛肉持ち

平日、昼過ぎ、部屋の中央で胡坐をかく。

暑すぎる。

家の冷房を消せば無料でホットヨガできてラッキーじゃん!とか思っていたあの日が恋しい。

あまりの暑さに30分前の自分にクレームを入れる。
冷房は家出るちょっと前に消しなさいよ。


朝、というより昼に起きてぐだぐだしていたら、1時間以上経っていた。
家を出る用事はなかったけれど、ずっと寝っ転がっててこの人大丈夫なの?と不思議なほど他人事な不安を抱き、まずは冷房を消してみた。
さすが自分、自分の怠惰さをよくわかっている。
動かなければならない状況を作らないと私は動けない。

ほんとこういうところが偉いんだよな~と持ち前のポジティブさで自分を愛でながら動き出したら意欲が高まる。
部屋の掃除なんてしちゃって、せっかくだから空気の入れ替えのために窓を開けて、マットレスの湿気を逃すために立てかけて、、、

一通りやりたいことを終えて、今日は何をしようか考え始めたころには部屋はサウナと化していた。
動き始めるまでに時間がかかるくせに、突発的に後先考えずに動いてしまう自分の悪い癖がここで効いてくる。

戦犯は冷房を止めた自分か、空気の入れ替えをした自分か、
時間軸ごとに自分を分断し、見事な他責を実現する。

そんなことを考えてもしょうがない。
とにかく、涼しいところに行きたい。
そして、ご飯を食べたい。

今食べたいものはお肉一択。肉。とにかく肉。
お肉は外で食べたほうがテンション上がるよな、と近くの焼肉店を調べる。
なるほど、ランチは営業していないのか。

肉のためなら歩く、と覚悟を決めて、範囲を広げて探す。

ステーキ屋、焼き肉屋、それぞれランチ営業をしている店を見つけ二択となり、焼き肉屋のランチ営業があと20分で終わってしまうことを知って一択となった。

決まった。あとは向かうだけ。

さあ!とステーキ目掛けて走り出そうとした瞬間、自分が無職なことを思い出す。

そうだ私、仕事をしていない。

あれ、収入がないときに2000円近いステーキって食べていいんだっけ。

あれ、貯金残ってるっけ。

あれ、この先どうするんだっけ。

あれ?と傾げた首の重さで、立てかけたマットレスの横に寝っ転がる。

床は硬い。
そうか、マットレスどかしたの自分だった。

どうしよう、どうしよう。
何しよう。どうしよう。
あれ、何を悩んでるんだっけ。

思考が止まって、まずは目的地は決めずに歩いてみることにした。とりあえず歩く。できる限り日陰を歩く。ちょっと日向に出る。暑がる。その繰り返し。

いつもより遠いスーパーにたどり着いた。

とりあえず、何か適当に食べよ。
何食べよう。売り場を二周は回った。何食べよう。食べたいものが分からない。

3回目のお肉コーナーに差し掛かった時、大きなステーキ肉が目に入る。
値段は700円くらい。
せっかくだし、家で焼いてみようかな。

スーパーを出て家に向けて歩き出す。
日陰を歩く、仕方なく日向を通る、暑がる。
数分歩いたあたりで急に左足が解放された感覚があった。
足枷が取れたように左足が自由になり、その瞬間足の裏に猛烈な熱さを感じる。

え、と思い下を見るとビーサンの鼻緒が完全に取れている。
完全に取れて、板になっている。
靴が壊れてしまった。

今じゃないだろ、と思って靴を睨みつける。
いつならいいとかはないけれど。

困った。近くに靴を買える店もない。
試しに靴を引きずってみたり、けんけんで進んでみたりするがこのまま帰れる自信はない。

意を決して、そっと足をアスファルトに置いてみる。
もちろん熱い。でもちょっと笑ってしまう。
ま、しょうがないかと口に出してみて、数分前まで足を守ってくれていた板を拾い歩き出す。

職なし、靴なし、
別に誰も気にしてないだろうと思いながらも、なるべく人から見えやすい位置で壊れたビーサンを持つ。

職なし、靴なし、牛肉持ち
買い物袋に入っている牛肉のことだけを考える。
私には牛肉がある。牛肉、ステーキ。
家に帰ればお米がある。ステーキ、お米。

ふと白線のほうが温度が低いことに気が付く。
こんな発見、靴があったらできない。
まあ、気が付かなくても全然問題ないことだけれど。

日陰とか日向とかは考えずに白線の上を歩く。
あと少しで家に着く。










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