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人事事故かもしれない
深夜22:00の人身事故。止まる電車。みつからない自由席、自由の本来の意味を履き違えてる自由席。ここに自由はない、いやそもそも初めから。寝不足の脳みそ、刻々と過ぎてゆく時刻。股の下からドロっと零れた生きられなかった私の赤を感じた瞬間身の毛がよだち立ち、起立する人間。見つからない御手洗。赤、赤、赤、女の象徴はいつでも赤。あ、だからあかちゃんっていうの?赤ん坊、赤ちゃん、赤子、守られるべき存在は赤。毎月、毎月、赤い卵の残骸を出すんならニワトリみたいに卵産めたらよかったのに。卵料理好きやから排卵日楽しみにできるとちがう?赤い残骸みても悲しくなるだけやから、自分で食べれんかったら隣の奥さんにでもおっそ分けしたらいいのにね。赤は女の象徴やけど、男にも流れとるんや。青い血をした男、おるんやったらうちは見てみたい。海を見たいって言ったらその男は軽く皮膚を切って見してくれるんや。うちはそのコバルトブルーを吸い取って海になる。その男の名前の最後に洋をつけて8個目の海として名をあげる。皮膚越しに見る血管はいつでも青い、青い、青い。そのくせ、切ったらいつでも赤い、赤い、赤い変なの。よくよく考えてみたらさあの駅で人身事故を起こしたのは私やないん?あぁ、そうなんか。私死んじゃったんだ、赤ちゃんになったんや。それで、身体だけ置いてきてこの電車に閉じ込められてるんだ。自分が死んだこと忘れちゃって、それを認めない限りここからは出られないんだ。可哀想な赤ちゃん。ほら、やから身体からこんなもんでとるんや。こりゃ完全に人身事故おこってしまってるわ。どうしたらいいんやろ、自分の死に気づくにはどうしたらいいんやろ。誰かに気づいてもらわな、ここにうちがいないこと誰かに気づいてもらわな。そのためには?なに?何をすれば?
※
「お嬢ちゃん結構飲んだんか?」
タクシー乗り場でうずくまる私を飲みすぎた女だと勘違いしたタクシードライバーはバックミラーで私が吐瀉物をぶちまけないかチラチラと確認している。思考に酔っているという意味では酔っ払いとさして変わらない私は、その男の質問を無視して取り憑かれた思考の延長線上の質問をした。
「人身事故、○○駅であったんですか?」
そう聞くと、あぁと納得したように話し出した。
「そうそう、○○駅であったんやてなぁ。さっきも、○○駅まで行ってきて送ってきた帰りですわ。それにしても最近多い、なんですか?5月病ってやつですかね?さっきの人の話によると、中年のサラリーマンらしいですよ、、」
中年のサラリーマン、、その答えを聞いて取り憑かれてた頭が少し軽くなったような気がした。もしかしたら私は死んでいないのかもしれない。その後のドライバーの話は全く聞いていなかった。