若さの上で胡座をかく
最近、道ゆく自分より年上の人の、若い頃を想像してしまう。
この人が自分と同じ歳の時はどんな感じだったのだろう、どんな仕事をして、何を楽しみ、何を人生の生きがいにしていたのだろう、と一瞬通り過ぎてしまう人のことについて深く探ってしまう。
おそらく、人生の中で若さを堪能している自分のこの余裕さは、今後の人生に響くのか響かないのか、そして、今すれ違った美しいマダムのようになるには、この年齢から何をしておけばいいのか、それを見つけたがっているのだと思う。
若ければ何だって許される、それはまさに特権。
どこまでが若いというかは人それぞれだが、いまだにそれを生活の中で感じることは多々ある。なので、まだ若いということにしておく。
その特権がなくなった時、私は何を取り柄として生きていくのか最近わからなくなる。そのために、主婦や女性をテーマに多く作品を残している窪美澄さんや山本史緒さんの本を縋るようにして読むのだ。自分の未来が今まで読んできた作品のどれかに当てはまると思うとやはり安心する。未来は何が起こるかわからないから楽しい!と言えるほどキラキラしてはいないから。予防線を張るようにして読書をしている。
山本史緒さんは「恋愛中毒」で彼女の虜になってしまった。
一人の男に中毒的にハマること。それでもその人にすがるような惨めな女にはなりたくないこと。だけどやはり気づいた時には自身の生活を脅かすほど、その人なしでは生きていけなくなっていること。心の奥底で惨めで、こんなの仕方がないと思っていた、女性な中毒的な部分を見事作品に昇華してくれたような心地で、後半に連れて夢中になって読み耽った。
この作家が表現する女性をもっと知りたくて、そうしてたどり着いたのが短編集「ばにらさま」だ。
読み始めたばかりの作者の作品を読むとき、長編を読むほどには至っていないかもな…と準備体操のような感覚で短編集から手に取るところがあり、今の状況にぴったりな一冊だ!とすぐに手に取った。
やはりどの作品も女性の嵐のような狂った側面を作品にしてくれていて、大変ありがたかったが、一編だけこんなの、もうタイトルからしてこわくて読めない…となってしまったのが「子供おばさん」だった。
私が一番恐れている未来、子供おばさん。確実に今の若さだけを振り翳す生活をしたまま年だけ取ったら、私を待ち受けている未来はこれ、「子供おばさん」だ。前々から思っていたこと、ついに山本さんが作品にしてくれている。これは昇華させようがないだろうと思いつつ、恐る恐る読み始めたが、これが逆に救われるような内容だった。
簡単にまとめると、主人公は40代後半まで独身の女性。周りがどんどん大人の女性として心も体も変化していく中で、自分だけが大人になりきれていないことを実感している。ところが旧友の死をきっかけに自分の生活を見直し、大人になりきれていない彼女なりに、新たなスタートを切って全く違う生活を始めるという話だ。
ここで、最終的に彼女はパートナーなしで暮らしていくことを決めるのだが、これが幸せそうで彼女にとっての最適解を見出したような締めくくりになっている。子供おばさんの結末はこの話ではハッピーエンドなのだ。
当たり前に両親がいる家庭で育つ中で、当たり前に私も誰かと巡り合って、家庭を築くのだろうとずっと思っていたが、広い世界に出てみると、それが絶対的なものではないのだと気づいた。異性間の価値観の違いは思ったより大きいし、そんな人と一緒にこれからを過ごす精神的な余裕もまだ生まれない。そもそも誰かと運命的に巡り合う機会も全くない。母親と父親はあの田舎でどうして出会うことができたのか、聞けば「そういう時代だった」で片付けられてしまったが、たかが2、30年で男女の出会いというものはそんなに難しくなるものなのか。実際周りを見渡せば、幸せそうに歩く男女は多い。とにかく、誰かと結婚し、家庭を築くことが絶対的な正解なのだと思っていた。
しかし、私が夢中になった作家は、こういう未来もあるよと子供おばさんを書いている。世間的に言えば寂しい独身人生を救われたとホッとしてしまったほど、昇華している。私が恐れていた子供おばさんは「こんな人生も悪くないでしょ?」ウィンク付きで教えてくれるような内容だった。
正直、一時的な励ましにしかならないことは想像がついている。1週間もすれば、このまま独りで死ぬんだ…と缶ビールを仰いでいると思う。もちろん、隣に誰かがいればもっと幸せなんだけどな思う気持ちはまだまだ、全然、普通に、むしろめちゃくちゃ、ある。
ただ改めて、誰が教えてくれるわけでもないこと、すれ違った人の過去を想像するしかなかったことを言語化してくれて、少しでも生きる希望となってくれる作品が本当に自分にとっては大切なんだと感じた。それがファンタジーであっても1日でも長く延命できるなら喜んで読む。そうしてこれからも生きていく。思い通りにならないこと、どうにもならないことが多くて、心から幸せと感じることは滅多に起きないけど、せめて、誰かが描いてくれた世界に夢中になれることだけは、これからもずっと楽しめる自分でいたい。
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