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【インタビュー】作り手に敬意を払いながら作品をみせる、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館のブランドライセンシング

ビー・エヌ・エヌでは、2024年3月に、貴重な布地と装飾品のコレクションを1146点収録した『ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館所蔵 世界の美しいテキスタイルと装飾 The V&A Sourcebook of Pattern and Ornament』を刊行しました。

本書は、世界最大の装飾美術博物館であるイギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館が所蔵する、世界中から集められた歴史的に価値のある布地と装飾品を、一点一点丁寧に解説した永久保存版のデザイン集です。
 
折しも刊行月に、本書著者も所属している同館のライセンシーチームが来日されたため、本書の制作や所蔵品のライセンス管理についてお話を伺わせていただきました。


V&A(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)は、世界有数のアート、デザインとパフォーマンスのミュージアムです。1852年に芸術を身近なものとするためにヴィクトリア女王即位中にロンドンに創立されました。現在ではデザインを通して生活を豊かにすることを使命として、想像力をかきたて、新発見や学習ができる場所となっています。145あるギャラリーにはテキスタイル、陶磁器、彫刻や写真などの素晴らしい装飾美術が展示されています。



ミュージアムのライセンスビジネスについて

美術作品のライセンスビジネスとはどういったものなのでしょうか。はじめに、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館のブランドライセンシング事業について、概要を伺ってみました。

当館では、ブランドライセンシングという以下のような事業を行なっています。

それは、テキスタイルや壁紙、ジュエリー絵画などの所蔵作品をインスピレーションの源として提供し、それらを世界各国のさまざまな会社が商品化するというものです。商品になったものにV&Aのロゴが使われます。
 
そして、所蔵作品が商品化されるまでは、まず、ライセンシー(ライセンス利用者)の方々と、彼らの商品やマーケットの需要、加えてトレンドを見つつ、当館が所蔵しているものの中から何が適しているかをリサーチしてデザインを提案し、それが商品化されて販売されるという流れです。

レプリカのように、当館にあるものをそのまま再現するのではなくて、所蔵されているものをきっかけとして、クリエイティブなデザイナーさんの手で、今のお客様やマーケットに喜ばれるような新しいものとして生まれ変わらせる、というようなかたちになっています。

所蔵品をきっかけに、新しいものとして生まれ変わらせる

所蔵品をきっかけに新しいものとして生まれ変わらせる、と語っていただきましたが具体的にはどういうことなのでしょうか。その答えは、本書の8ページに掲載されているインタビュー「パターン(柄/模様)制作の実践 デザインとインスピレーションに関するティモラス・ビースティーズとの対話」内のトワル・ド・ジュイに関する記事からもその意図を読み取ることができました。
 
実は、配色を変えたり、モチーフを抜き出したり、実際の原図より少し簡素化したり、すごく緻密な柄を少しシンプルにしたり、ちょっとクラシックに見えるものをモダンな感じにしたりというように、図柄を変えることも可能だそう。もちろんそこには、著作権のステータスも関連してきますが、こうしたインスピレーションの受け取り方、表現のしかたも可能だということに驚きがありました。

ただ、もちろんアレンジしたり、配色を変えたりしてもいいのですが、その商品全て、主にパッケージやネーム、ラベルなどですが、当館のロゴがつくことになります。それは、当館が監修してOKしたもの、インスピレーションのソースになったものは当館に所蔵されているものだということを示す証となります。

商品は全世界で販売されていて、いろいろなものがありますが、私たちはそれらすべてに当館らしさ、統一感がある一貫性がある、ということをとても重要だと考えているので、そういったことをチェックするための商品の承認プロセスがあります。

作り手をリスペクトし、原図の背景を大事にする

「承認」という言葉を聞くと、書籍に事例などを掲載する際に、著作権者に伺う「掲載許諾」が思い浮かびますが、「らしさ」を大切にするという同館の承認プロセスは、アレンジ案から使いたい素材など、多岐にわたるそう。

最終的に商品が販売されるまで、同館側と開発者側とで何度もやり取りが行われます。

やはり最終的には、誰かが作ったものが当館には所蔵されているので、その作った人に敬意を示す形で販売するということも、とても重要だと考えています。

例えばデザインの変え方であったり、その素材であったり、作り方であったり、いろいろな要素があると思いますが、すべてにおいてその作り手、元の作品の作り手をリスペクトするような形にしたいと考えています。

丁寧な承認プロセスには、作り手を大切にする、という意図もあるのですね。そして、統一感や一貫性をもたせるため以外にも大切にしていることがあるそうです。

また、商品開発をして販売する上で、私たちはその原図の背景をとても大切にしていて、誰が何のために、いつ作ったというような情報を常に一緒に提供するようにしています。例えば、今は寝具として売られているものがあったとして、実はそれに使われている柄は、18世紀のフランスで作られたドレス生地のものかもしれない、本当はそういう背景があるものですよということを必ず伝えてコミュニケーションするようにしています。

もしかしたらそれがきっかけで、受け取った人の世界が広がるかもしれないですし。また、実在の名称が出てくると、本当に存在した誰かが作り上げたデザインだということを実感してもらえるきっかけにもなるので、本物であるということと歴史があるということ、ストーリーがあるということも、私たちはとても大事にして共有していきたいと思っています。

この本では、作品に対してキャプションがひとつひとつとても細かく書かれていることが印象的でした。印刷所の名前まで書かれているものもあります。それは、こうした原図の背景を大切に考えているからこそ。商品開発の際にこうした背景まで教えていただけると、また違ったひらめきがありそうです。ぜひこの本を手にしたみなさんには、図柄を眺めるだけでなく、ストーリーもひとつひとつ読んでもらいたいと思います。

各々の作品に対して制作背景が細かく記載されている

膨大な所蔵品の中から作品を選ぶには

同館は建物自体がとても大きくて、フロアひとつひとつも広く、所蔵品の数量も、調べると300万点とも400万点とも。それは、作品のカウントの仕方によって数字が変わってくるためだそうですが、そんな大量の所蔵品の中から、どの作品のライセンスを商品に利用するか、どうやって決めているのでしょうか。インタビュー冒頭では、トレンド、というワードも伺いました。

おっしゃる通り、所蔵品の数は膨大にあるので、ライセンシーの方も何があるか把握できないため、毎年トレンドの予測会社と一緒に仕事して、翌シーズン2025年のトレンドについてこういうものが世の中で流行るというような世界観だったり、テーマだったりを紹介させていただいています。

たくさんあるトレンドと、それに対して当館としては何を提供できるかということをマッチさせ、セットとしてプレゼンテーションさせていただいています。

ただ、そのプレゼンテーションの中では、本当一部しかお見せすることができないので、その中で希望の方向性などの情報をもらい、新たにリサーチャーがリサーチをして、具体的な柄などのご提案を差し上げて、そこから商品化に向けてやり取りが始まるというようなやり方をしています。

トレンド予測とリサーチによる、とのことですが、コレクションを的確に把握していないと、それもなかなか骨が折れそうな作業です。本書の著者、アメリア・カルヴァーさんは、20年以上同館に勤務しているライセンス研究開発マネージャー。こうした日常業務もこなしながら、本書の制作にも携わられたそうです。
 
書籍の中に掲載した作品は、なんと1146点!
テーマのセレクトも大変だったかと思いますが、掲載作品のセレクトはもっと大変そうです。選び出すのには、どのくらい時間がかかったのでしょうか。

まず、その本のアイディアが出てきた段階から、テーマの選択にも時間がかかって、その後レイアウトをどうするか、じゃあ実際にはガラス作品は何個入れられるのかとか、色々ありました。

私たちにとってはビジュアルで見せるだけではなくて、やはり先ほど説明した通り、ストーリーの部分がすごく重要なので、文章もこれだけ入れたいとか、そういったレイアウトの調整も必要でした。

あとは、リサーチに関しては常に行っているので、新たにリサーチもしましたが、過去のリサーチ結果がすでにあるので、その時間を入れないとしたら、この本のためにはだいたい12ヶ月ぐらいです。

本書の目次。大きく4つのパートがあり、各々小さなテーマを持つ

通常業務も並行してされている中での作業であれば、膨大な量の中から選ばれたと思うと、12ヶ月は早いほうなのでは?と思ってしまいます。やはり掲載作品を選択することは一番大変そうに思いますが、実際はどうだったのでしょうか。

やはり、一番難しかったのは何を選んで収録するかということだったのですが、そのひとつ前段階の、どのテーマにするかということも結構難しかったです。柄の選択に対しては、すでにライセンシーが喜んでくださるようなものは本当にたくさんあるので、その中からいくつどれを選ぶのということも難しかったです。

確かに、各テーマにどのくらいのボリュームを割り当てるかという部分もあって、決めきれないとページがどんどん増えていってしまいそうです。あれもこれも載せたくなってしまいますね。今回は400ページという大ボリュームに収められましたが、掲載しきれなかったものもあるのではないでしょうか。もしかしたら今後、第二弾、第三弾と続編が見られることもあるかもしれませんね。

本の厚み(束)は、およそ3cm

日本での広まりについて

では具体的に日本では、家具だったり、布ものだったり、どんなところにテキスタイルパターンが広まっているのでしょうか。注意して見てみると気づかなかっただけで、私たちの身近にもあるかもしれません。

インテリアだと、カーテンやブラインド、寝具、ラグなどです。アパレルだと、女性向けのお洋服だとかナイトウェア、スカーフやエプロン、小物のポーチやバッグ、傘などです。あとは、ジュエリーと生地の切り売り販売に、着物もあります。すごく幅広く、全世界的にそういったあらゆる商品を作っています。

着物は意外でしたが、生地の切り売り販売であれば、同館のコピーライトが入った生地を見かけることも。洋裁をされる方であれば、ご覧になったことがあるかもしれません。では、そんな中でも人気の柄はあるのでしょうか。

永続的に、時代、トレンド、国、商品に関係なく人気があるのが、ウィリアム・モリスです。お名前は皆さんご存知だと思いますけど。その中でも「いちご泥棒(Strawberry Thief)」です。刺繍やプリント、ジャカード(織物)など、使われ方は本当にさまざまですが、これだけは別格です。

「いちご泥棒」は、「自信をもって、迷わず言えます」とおっしゃるほど、一番の人気の柄だそうです。私たちの中でも「やっぱり!」という声も上がるほど。本書では、99ページ(5)に掲載されていますので、ぜひ見てみてください。 基本的には布や紙が多いそうですが、意外な事例もあるそうです。

ジュエリーもあります。日本の会社さんのものですが、主に中国や香港で販売されているものがあります。あとは、実際にいま所蔵されている指輪に書かれている詩だったり、ラブメッセージのようなものを、ペアリングに刻印しているものもあります。

その他の例では、アルバート侯がヴィクトリア女王にプレゼントした冠があるのですが、そのデザインを指輪にしたものもあります。その冠は、当館のジュエリーギャラリーに展示されています。

他には、昔の鍵をペンダントにしたものや、柄からモチーフだけを抜き出したものなどさまざまです。

言葉も所蔵品の一部として、新しい商品となっていくと知ったときは驚きましたが、とても素敵ですね。また、冠を指輪にするという使われ方は、まさに同館のストーリーを大切にする姿勢が表れているようです。最後に博物館のブランドライセンシングについてお話いただきました。

当館は国立の博物館なので、作品は国の所有物になります。ですので、国の所有物として、より多くの人に見ていただいて楽しんでいただくということを可能にすることが、私たちのミッションでもあります。

当館の建物はすごく大きいのですが、それでも展示しきれないものもあります。そのため、しまわれていたり、生地がとても小さいものだったりすることもあるのですが、そういうものをより多くの人に見てもらうためには、こういったブランドライセンシングを通して、隠れてしまっているものをより多くの人に見ていただけるようにすることは、ひとつの方法だと考えています。

2025年には、新たにV&A East館のオープンも予定されているヴィクトリア・アンド・アルバート博物館。今回は豊富な所蔵品を、その作り手をリスペクトしながらブランドライセンシングを通じてみせていくというお話しを伺うことができました。そうした商品を手にして、作品背景や作り手について気になった際は、ぜひ本書を開いてみてください。


★日本のライセンシー企業と商品ジャンル

荒川:ナイトウエア
オーロラ:スカーフ
サロンジェ:エプロン
ロマンス小杉:寝具
テクセット:カーテン、ラグ
桑山:ジュエリー
ピープルツリー:アパレル、雑貨
ルック:婦人服
京都丸紅:和装
双日ファッション:クラフト用生地
Tuiss Decor:カーテン
海援隊アスティ:傘


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