成功事例を当事者から学ぶ
早稲田大学日本橋キャンパスで社会人向けに「ブランド戦略実践講座~成功事例を当事者から学ぶ~」という特別講座が9月から3ヵ月間、6回に渡り開講されます。中央大学名誉教授の田中洋先生の呼びかけで開催されるもので、僕も9月25日に講師としてお話をします。ブランドを実践的に学ぶためには、理論もさることながら、実際にブランドを成功に結び付けた経験者の体験から学ぶことも必要になります。この講座のメリットはトヨタや味の素、花王やリクルートといった大手ブランド企業で実際にブランド実務に当たった担当者が登壇し、リアルなノウハウを学べることです。なかなかこれだけの講師陣を交えて短期間で体系的にブランド戦略を学ぶ機会はないので、おすすめです。同時に受講者のレベルを問わないのもこの講座の良さでしょう。マーケティングやブランドの知識や経験値にかかわらず、どなたが参加されても大きな学びが得られる構成になっています。3ヵ月に渡る講座で受講料も少々張りますがそれだけの価値があると思います。
今年のお盆休み、僕はこの講座の資料作りをしていました。僕のテーマは「グローバル食品ブランドを日本でどう展開するか」です。欧米企業でのブランドマネージャー経験をベースに、あらためてグローバルブランドが直面する日本市場での問題や課題を見つめなおす良い機会になりました。ざっと書き出すだけでもグローバルブランドには次のような問題や課題が挙げられます。「すでに市場参入のタイミングを逃していることがある」「グローバルのブランドポジショニングが日本で合わないことがある」「適切なポジショニングを見つけられないことがある」「マーケティングバジェットが少なく十分な展開ができないことがある」「保健所関係、イングリーディエントなどを日本仕様にしなければならないことがある」「本社のレギュレーションが強すぎて手足を縛られることがある」「流通チャネルの限界に直面することがある」「価格が高くなることがある」「賞味期限と過剰在庫の問題を抱えることがある。」「本社の意向で他の輸入代理店、販売会社にブランドを移管されることがある」「日本法人社長やブランドマネージャーが速いスパンで変わることがある」など。これらのいくつかは食品に限ったことではありません。これらの条件のなかでいかにして成果を出すかが外資系ブランドマネージャーの手腕といえます。思い出してみれば、僕もいくつかの痛い失敗もしてきました。正直、その時の誤りにあらためて向き合うのは辛いことでもありました。同時に「成功体験ばかりが価値ある体験ではない。失敗のなかから学んだことが今のコンサルティングの仕事にどれほど大きく貢献していることか」という内省があったのもの事実です。
そして講義の最後には「外資系企業に学ぶブランドマネージャーの仕事とキャリア」というテーマも加えました。外資でキャリアを積むブランドマネージャー(マーケター)にもいくつか直面する課題があります。「競争とプレッシャー。短期間で成果を出さなければならない」「ミニ社長としての業務範囲に加えて、デジタルを中心とした新たな領域の拡大」「言語や文化の壁を乗り越えて、ミッションを果たさなければならない」「ブランドマネージャー以降の上位キャリア開発とステップを歩めるか」「ワークライフバランスの危機。時差を超えた仕事環境」。特に最後のものはキャリアというよりは足元の話ですが、ビジネスチャットツールの浸透によって海外とのコミュニケーションが際限なくなっている現実もあります。キャリアを積むうえでボディブローにように疲れが蓄積するもので、事実、僕の昔の部下はこれが原因で休職しました。些末な問題と切り捨てられないものを感じます。
僕の話はこんな感じですが、他の講師はまた別の興味深い学びをくれると思います。それにこの早稲田の講座ではいろいろな業界の受講者がいると思いますので、是非、参加を検討してみてください。