リーダーブランド失敗の舞台裏
リーダーブランドが市場地位を失う理由には、例えば市場の変化への適応のまずさがあります。顧客のニーズの変化、新たなトレンドや技術革新、競合他社の動きなどに対応できなかった結果、リーダーの地位を失う。これは頑張ったにもかかわらず市場の変化に適応できなかったことが原因のように見えますが、実際には「やってみたが対応がまずかった」が本当の理由ではないかと思います。なかには意図的に「対応しないという決断を下した」などもあります。そんな事例を見てみましょう。
ネットフリックスの台頭とブロックバスターの凋落は好例でしょう。ブロックバスターは、かつて世界最大のビデオレンタルチェーンであり、リーダーブランドの地位を誇っていました。やがて動画配信サービスやオンデマンドの台頭により、市場のニーズは変化しました。しかしブロックバスターはこの変化に当初適応せず、オンラインストリーミングを遅れて行ったため、その市場地位を失い、2010年に破産を宣言しました。何故、対応しなかったのか。「ネットフリックスと自社の経営数値を比較した結果、経営陣は断定した。構うことはない、放っておけ。ネットフリックスが追求した市場は、既存市場に比べればずっと規模が小さかった。今後拡大する可能性はあったものの、どれほどの潜在性を秘めているかは、まだ定かではなかった。だがブロックバスターの経営陣にとって、それよりずっと気になったのは、ネットフリックスの利益率が、同社(ブロックバスター)の水準をはるかに下回っていたことだ。もしブロックバスターが実際にネットフリックスを攻撃する決定を下し、首尾よく勝利を収めれば、ブロックバスターのきわめて収益性の高い既存店舗から売上を奪うことになる。(イノベーション・オブ・ライフ/クレイトン・M・クリステンセン著)」。つまり本格的に乗り出したら自らの首を絞めることになる。それまでの高い収益性がネットフリックス程度の低い収益性に食われてしまう。この痛みが対応しなかった(できるけれどやりたくなかった)理由です。そしてもしネットフリックスが成功するようなら、あとから乗り込んで市場をひっくり返せばよいとタカを括った。
しかしこれがネットフリックスの狙いでした。そもそもリーダーブランドはこのような巧妙な攻撃に弱いのだと思います。そこには長年、リーダーとしてやってきた慣れや驕りもあるでしょう。しかしリーダーブランドであることが将来の成功を保証するわけではありません。時には、リーダーブランドであるがゆえに生じるジレンマ、さらには誤った戦略の選択や予測の誤りが、そのブランドの失敗につながることがある。特にブロックバスターのように自社の利益率などというジレンマに直面した際は、注意深い判断が求められます。このような事例はブロックバスターに限らず、様々な業界で見られます。その打ち手ももちろんあります。つまり、リーダーブランドであるからこそ、他社の失敗から学び、将来の戦略立案に生かすことが重要です。