見出し画像

フィールド授業 Day2 山のホームセンター 木の岐編

初日の様子
https://note.com/bmia/n/n84e98e616076

二日目は、山から枝を切り出して道具を作るワークショップ「山のホームセンター」だ。今回は特に、木の岐と呼ばれる道具を作ることになった。ファシリターは、身体ゼロベース運用法など、ものと身体との関係を長年探求されている安藤隆一郎さん。

説明をする安藤さん

会場は長尾山。この山はもともと、亀岡市によって新しい火葬場として整備される予定だったのだが、住民の反対により実現されず、今は地元のボランティアスタッフによって市民の森として活用されている。この日もボランティアの軽野さん、田畑さんらの案内により、森の中に入っていった。

長尾山を説明する軽野さん

木の岐とは、木が枝分かれした部分を活用した道具だ。豆殻から豆を取り出す豆打ちに使ったり、ものをひっかけたり、さまざまな使われ方をしていた。民具の中でも低い扱いを受けており、使わなくなってしまうと薪にされて捨てられてしまうことが多い。いい道具を買えない人が使うというイメージもあって、昔から木の岐は保存されてこなかった。

さまざまな木の岐

しかし、多種多様に枝分かれする木の岐を道具にするには、普通の道具以上に想像力が求められる。枝分かれした木を注意深く観察し、そこに可能性を見出し、実現化する。作る道具が先に決まっていて、その道具のために適した枝を探すのではなく、枝の中から未知なる可能性を発見する創造的プロセスがここにはある。

ブリコラージュ的思考

レヴィ・ストロースが提唱した有名なブリコラージュがここにある。ブリコラージュとは、ブリコラージュとは、手元にある限られた材料や道具を用いて、臨機応変に問題を解決する方法だ。それは、計画的に設計され、特定の目的のために最適化された道具を作り出すエンジニアリングとは対照的な概念である。

ビジネススクールでは、戦略を立案し、それを戦術に落とし込んでいくエンジニアリング的思考が訓練される。まず戦略があって、そのために適したリソースが集められていくのである。しかし地域活性化においては、こうした営利企業とは違って、リソースは地元にあるものをうまく活用していかなければならない。あるものを創造的に使うブリコラージュ的な思考が欠かせない。

いい枝を見つけて切り出していく
手際よく木を切る田畑さん

そしてこれは、ものだけでなく人にも言える。「組織は戦略に従う(Structure follows strategy)」とは、アルフレッド・チャンドラーの言葉である。戦略が決定されたあとに、それにあわせて組織が構築されるという考え方である。これは、採用計画から組織構築まで意図的に行える営利企業では当てはまるが、地域においてはむしろ、そこにいる住民や組織が先にあって、そこから戦略が導き出されていくことが多々ある。実際には営利企業であっても、そう簡単に解雇することのできない日本の環境では、今いるメンバーでうまくやらなければならないことは多いだろう。ものだけでなく人の活用にも、このブリコラージュ的な思考が重要となるのだ。

こうして山の中で木の枝を見続けていくと、「自然への解像度」(安藤さん)が高まっていく。そしてその解像度の高い具体的な事象を通じて世界を理解していく。レヴィ・ストロースのいう「野生の思考」の一端がここにある。

身体と「もの」との関係

こうして切り出してきた木の枝は、そのままでは枝である。その皮を剥いで道具に仕立てていく必要がある。この作業がことのほか面白い。手を加えていくプロセスの中で、枝と身体の関係が生まれて、道具の活用イメージが見えてくるのである。

というのも、さまざまな形をしている枝の皮を剥ぎ取っていくには、その枝の形にあわせて身体を調整する必要があるからだ。しっかり固定するために腕や脇、足などを使っていくのだが、あくまで「もの」に対して身体が合わせていくことになる。今までにない身体の使い方が求められる場面もでてくるのである。

足でおさえながら削っていく

そしてもちろん、道具に対しても身体を合わせていく必要がある。この日、安藤さんが持ってきたさまざまな道具は、そのひとつひとつがかたちが異なり、使い方も異なっている。枝と道具というふたつの「もの」に対して、身体を合わせていく必要があるのだ。

安藤さんが用意したさまざまな道具

こうした「もの」(オブジェクト)に対して、その文脈に合わせて主体(サブジェクト)を変えていくというのは、プログラミング関連の言葉を使えば、オブジェクト指向プログラミングということになろう。ファイルを右クリックすれば、そのファイルの種類に合わせて「開く」「削除する」「複製する」などの動詞が適切にでてくるのは、誰もが知っているだろう。これはコンテキストメニューと呼ばれるもので、オブジェクト指向とは、データと、そのデータを操作するメソッドをセットにして取り扱うのだ。

オブジェクトに合わせて動作が誘発される。これをデザインの領域で活用したのが、ドナルド・ノーマンによるアフォーダンスの考え方だろう。たとえば森にある切り株は、つい座りたくなってしまう。座るという動作をアフォードしているのである。私たちは時計の竜頭を見るとつい回してしまうが、これは竜頭のデザインが回すという動作をアフォードするよう設計されているからなのだ。

アフォーダンスという用語自体は、もともとアメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンが1970年代に提唱した概念で、ギブソンは環境が動物に提供する行動の可能性としてアフォーダンスを定義した。ノーマンはそれをデザインの文脈に適用した。動物たちが環境に適応するように、オブジェクトに向き合うことで、そのオブジェクトから機能を引き出していく。身体で使う道具だからこそ、身体性を通じてしか発見できないのである。

木の岐の活用

提案の新しいアプローチを学ぶ

このフィールド授業は、翌週に地域の社団法人に対する提案を行うプログラムになっている。この提案も、エンジニアリング的なアプローチではなく、地域のオブジェクトをから着想したブリコラージュ的な提案が求められる。「ブリコラージュによる提案とはどうあるべきか」。これもまた、学生たちへの課題である。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授

ここから先は

0字
月に3本以上読む方であれば、購読がお得です。

ビジネスモデルに関連する記事を中心に、毎日の考察を投稿しています。

よろしければサポートお願いいたします。いただいたサポートは協会の活動に使わせていただきます。