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顧客開発モデルのバージョンアップ

PMF。新規事業に関わる人であれば必ず聞いたことのある言葉だろう。Product Market Fitの頭文字を取ったこの言葉は、特に事業立ち上げの初期において、製品が顧客ニーズにフィットしているかということを評価する指標を表すものとして理解されているはずだ。しかし、この言葉はまだアップデートできる余地がある。

たとえばスタートアップ支援コンサルタントの田所雅之は、そこに「未来の」という時間軸を入れて、PFMFという概念を作った。スタートアップはそれまで存在しない市場を作り出すところにその価値がある。だから、現在ある市場に対するフィットを見るのではなく、将来の市場に対するフィットを見るのだということだ。そのことによって、ゼロから市場を生み出し、何十倍もの成長を見込むことができる。

しかし、この未来のPMFは、未来であるがゆえにすぐに実証することが難しい。「今はそうした市場はないですが、10年後にはあります」というプレゼンは、どうしてもそれを信じるか信じないかという話になってしまう。そして、その市場が顕在化したときにはもう遅いということになるだろう。少し前のAIがそうであった。信じた人はバリュエーションの低いタイミングで投資できていただろうが、今ではそうはいかない。宇宙ロケットの分野もそうなった。将来は不確実であり、未来は予見しづらい。

PMFが、製品ニーズを実証するための指標であったのに対して、そこに時間軸を入れた途端、PMFとしての機能である「実証されたことを示す」というものが機能しなくなる。田所のPFMFの概念は素晴らしい問題提起ではあるものの、現場で理解する人たちはまだまだ少数のように思える。もう少し限定すると、大企業の中で新規事業をやるにあたっては、PFMFを正当に評価できる人はいない。

そうしたとき、大企業の中での新規事業開発という私の実務的な観点から言うと、PMFと一旦切り離したかたちで、もうひとつの方程式としてこの未来を織り込むほうが良いのではないかと思っている。結局同じことではあるのだが、現在の実現可能性と未来の発展可能性をひとつの方程式にいれるのではなく、連立方程式として解くのである。

①現在のニーズとフィットし、事業が立ち上がるかどうか(実現可能性)
②事業が将来にわたって大きく成長するのかどうか(発展可能性性)

顧客開発モデル(リーンスタートアップ)は、具体的にはプロトタイプをつくって顧客に使用してもらったり、インタビューしたり、またクラウドファンディングで購入するまでのニーズの存在を確認したりするわけだが、それと同時に、②の発展可能性を探索することが重要だ。

別の言い方をすれば、①が満たされたとしても、②がなければその事業はやらないという判断になるということだ。今、新規事業提案制度や、採択された新規事業の立ち上げ支援を行っているが、現場において、多くの場合①の作業に集中してしまって、②が疎かになっていることが多い。①をやらなかった過去の新規事業開発よりは100万倍よいわけだが、あらためてそのバランスが必要だと感じている。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授

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