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(2)グランドデザイン思考とビジネスモデルー荒井宏之_a.k.a_ピンキー×宮木俊明

(1)グランドデザイン思考とビジネスモデルー荒井宏之_a.k.a_ピンキー×宮木俊明 のつづきです。


ビジョンを潜在意識に刷り込む

ピンキー 日常の活動においても「ビジョン」を設定するといい、と本に書きました。人間が日常的に五感で触れている情報は秒間1200万bitといわれてます。

ピンキー そのうち記憶に残るのは126bitだといわれています。なぜほとんどが残らないかというと、スコトーマ(心理的盲点)が弾いてしまうから。できるだけスコトーマをなくすために、ビジョンを掲げる。ビジョンを潜在意識に刷り込むんです。「これを私は実現するんだ」っていう意志が潜在意識に刷り込まれると、ここにフィルターがかかって、いわゆる引き寄せの法則が起こります。自分にとって必要な情報が入ってくる状態になるんです。

宮木さん、目の前に、赤いものってなにかありますか?

宮木 赤いもの? えぇっと……。

ピンキー 「赤いもの」っていま言われてから探し始めましたよね?

でも、今日ボクに「赤いものって何個ある?」って聞かれるとわかっていたら、最初から探していますよね。そういう状態をつくるってことなんですよ。

宮木 見えてはいるけど意識にはのぼらないものがたくさんあるってことですね。

ピンキー そうです。ビジョンを言語化することで、情報が入ってくるようにしておく。ボクの場合は「大企業をイノベーティブにしたい」っていうビジョンがある。最近、フランス現代哲学にはまって哲学書を読んでるんですけど、「これ、人材育成にこういう観点でめちゃくちゃ使えるな」って気づくんですよ。

一見、哲学は事業づくりに関係ない感じがしますよね。そういう、関係なさそうな、かけ離れた情報に触れたときにも、「これは、自分にとって使える!」って、ビビっとくるような状態。この状態をつくっておくことが重要です。

アイデアの着想やビジネスモデルは、コネクティング・ザ・ドッツでできるんですよ。ザ・ドッツをいかに越境したところから集めるか。そして、ザ・ドッツをコネクトする、シナプスのようにつなげるのが、ビジョンの位置づけです。

宮木 意識してるからこそつながりに気づきますし、それを利用できるようにつなげられますよね。

ストーリーテリングで周りを巻き込め!

ピンキー また、ビジョンをちゃんと言語化して伝えられることも重要です。それを「巻き込み力」と呼んでいます。

ピンキー 当然、チームメンバーも巻き込まなければいけないんですが、社内新規事業の場合は関係部署とか、パートナー企業、同僚、後輩、上司、役員も巻き込まなくてはなりません。

それから、エンドユーザーだけでなく、エンドーサー(たとえばターゲットユーザーを患者さんにした場合は、患者さんのご家族や、医療従事者のこと)といった、周囲の人たちも巻き込まなきゃならない。この「巻き込み力」を発揮するためには、ストーリーテリングが重要です。

新規事業をつくるときは、計画性も出せないし、どうなるかわからない。それに協力してもらうことになりますよね。スタートアップの起業家も、新規事業家も、言ってみれば詐欺師みたいなものです。

宮木 まだこの世にないものが実現した世界を「いままでにない顧客体験=UX」としてイメージしてもらう必要がありますからね。私は、UX=UsanXsai(うさんくさい)などと言ったりもしていますが、新規事業家はこれを乗り越えて行く必要があるんですよね(笑)

ピンキー ないものにその価格をつけて、スタートアップなら資金調達、新規事業なら予算確保をするでしょ。ちょっと言葉は強すぎますけど、最初はいずれにしても詐欺師みたいなもんですよ。実現したら詐欺師じゃなくなる。そういう意味でとにかく、人を信じ込ませる力が必要なんですよね。

ピンキー 象使いと象の話がわかりやすい。ふだんは象使い(理性)によって、象(感情)はコントロールされています。

急に、象が暴れ出したら、象使いでもコントロールできなくなる。感情を理性で制御できなくなりますね。だから、パッショナブルに感情に訴えることによって、人は共感して協力してくれるんです。

たとえば、テレビドラマの13話だけ見ても、泣けない。1話から13話まで見たから泣けるんですよね。だから、ストーリーをちゃんと語る。「なぜ私がこのビジョンを掲げるに至ったのか」「なぜ実現しないといけないと考えているのか」「なぜ私がやるのか」「なぜわが社でやるのか」をしっかりストーリーで語る。新規事業担当者はストーリーテラーなんです。講談師のように、感情的に伝わるようにビジョンを語れるかどうかがすごく重要です。

宮木 「思いが入ってる」というのは本当に大事ですよね。同じことを言っても伝わり方がぜんぜん違う。「応援してみよう」って思われてないと話になりませんもんね。論理的に話がうまければうまいほど、ちょっと詐欺師感が増してしまうんですよね(笑)。それを乗り越えるのが「想い」であり、これは「実体験」を泥くさく熱く語ることによって「こいつには騙されないだろう」って伝わるんだと思うんですよね。

ピンキー ボクはスタートアップ出身で大企業に一度も所属したことがないのに、「大企業がイノベーティブにならなきゃいけない」って言ってるんですけど、今日のこの機会があるのも、こういう本を書くに至れたのも、熱苦しく語って仲間ができたからなんですよ。今日は、軽めに自己紹介しましたが、語れと言われれば一時間でも自己紹介できます(笑)。

一方で、「怪しい」と思われるケースもありますけどね。「あいつ、信用できん」って言われることもたまにはあります。見た目もこんなですしね。

でも、熱く語ってると、「そうだよね。やっぱり大企業が元気にならないと日本の未来はないよね」って共感してくれる人が集まってくれるんですよね。こういう対談形式のセミナーもよく主催させてもらっているんですけど、基本的にみなさんに無料でご登壇いただいてるんです。ベースで共感してるから協力するよって言っていただけています。

ロジカルじゃなくていい。エモーショナルに伝わるような言葉でちゃんと語れるのが大事です。きれいなキャッチコピーなんてなくてもいいです。

……しかし、この調子で行くと時間内に終わらないですね(笑)大丈夫かな。

ビジョンあってこそのエフェクチュエーション

ピンキー 最近、「エフェクチュエーション」ってよく聞きますよね。書籍もヒットしています。 (『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』 吉田満梨 (著), 中村龍太 (著)、ダイヤモンド社、2023年)

めちゃくちゃいい本なのですが、社内新規事業家はあれだけを真に受けないほうがいいと思っています。あの本は、起業家の行動原理を1冊にまとめた本で、前から一歩ずつつくっていきましょう、という話なんですね。だから、起業家のように、ぶっ飛んだクレイジーな人で、かつクレイジーな人たちが周りにいる環境でやるのはいいんです。でも、サラリーマンがやると、シンプルに想像し得る未来のレッドオーシャンにしかたどり着かない。

大企業でやる場合は、最初にビジョンを掲げて、そこから逆引きするのが重要です。フォードの言葉で、「なにが欲しいかと顧客に聞いたらもっと速く走る馬が欲しいと言っただろう」というのがありますよね。「いま、なにが必要か」という顧客の声に基づいたデザイン思考でのアプローチでは、すでに世の中にあるものにしかたどり着かなくなってしまう。ということに、みなさんも気づきはじめたんではないでしょうか。

ピンキー これまで、大手企業の新規事業担当者のメンタリングをしてると、これに陥ってるな、と思うことが多かったんです。そもそも情報量が少なくて、「競合どこですか?」って聞くと「調べた限りないんです」って言うんです。けど、その場でボクが検索するとすぐに出てきたりするんですよね。「こういうのありますよ」「あ、知りませんでした」みたいな。けっこうそういうことあるんですよ。

「いまは “非常識” なんだけど、これっていずれ当たり前になるよね」っていうところをめざしたい。たとえば、フォードの場合はもちろん自動車がすでに世の中にあったんですけど、“みんなが手に取れる”自動車をどうやってつくるかって考えたから、T型フォードができたし、これだけ自動車が普及する社会がつくられたんです。

フォードの場合は、エジソン電気工場の工場のモーターを板の上に乗せて車輪を四つ付けるというファーストピンをまずつくった。理想の未来像から逆算して、小さく始めて大きく育てるしかないので、エフェクチュエーションだけでなくて、エフェクチュエーションで一歩を踏み出しながら、その先で進んでる道が想像し得る未来よりも上にちゃんとたどり着けるかどうか、軌道修正しながら、(夢物語と現実の行き来を)繰り返していくのが重要です。

宮木 すごくよくわかります。やっぱりビジョンからのバックキャスティングが大事ですよね。ビジョンなきエフェクチュエーションは、ただのフォアキャスティングになりがちで、当たり前や常識の範囲から出られないんですよね。

大企業での時間的制約

ピンキー 大企業の方が勘違いしやすいんですが、「3年で黒字化、5年で累黒」みたいなキャッチフレーズをどの会社でも言ってますよね。でも、そもそもそんな短期スパンで上場しているスタートアップはあくまでレアケースなんです。上場した企業の創業からの平均年数は16〜17年です。それだけ時間がかかるんですよね。スタートアップは、16年でも17年でも自己資金でやってる限りはだれにもなにも言われずにやり続けられます。資金が続く限り。だからエフェクチュエーションでずっと突き進んでようやくここにたどり着いた、みたいな人が上場できるんです。

なので、スタートアップはエフェクチュエーションだけで取り組んでもいい。でも、大手企業はスタートアップと違って時間が有限なんですよね。

半年に1回の予算策定のタイミングで、カットするかしないかという議論がされています。担当者の耳には入ってこなかったとしても。だから、そのタイミングで実績を出していないとならない。「未来からの逆引きでちゃんと軌道修正してます。まだ規模は出てないけど、ちゃんと未来に近づいてます。わが社はこれを続けるべきです」と自発的に証明しなければならない。

よく、上が評価してくれないという話も聞きますが、評価されるためには「私は評価に値する行動をしています。結果を出しています」と説明する責任があります。キャリア面談も一緒だと思うんです。ボクは上司はえこひいきをすべきものだと思ってます。成果を出す人に集中的に上司のリソースを投下したほうが成果が出るんだから、上司はえこひいきするのが当然。だから、えこひいきされるような存在になればいいんです。

宮木 ただただ悶絶して成果が出てないだけの人と、目指すところがはっきりしてるけど、いまはまだ悶絶している人がいたときに、当然、後者のほうに期待するし、評価も高くなりますよね。

ピンキー そうですね。同じように結果が出なかったとしても、上司、役員と「未来の理想像」を合意していると、目先が多少うまくいかなくても、「いいよ、いいよ、もっとどんどんやれ」って言ってもらえるんですよね。なので、「実現したい未来の理想像」「どういう社会をつくるのか」から合意することが重要なんです。


宮木 と、ここで開始30分が経ちました。お申し込みいただいた方はこのまま継続して見ていただけますが、YouTubeとFacebookでの無料配信はここまでとなります。続きをご覧になるには、お申込みいただくか(今日23:59まで申し込み受け付けています)、BMIA会員登録をお願いします。


最初は小さくてもどんどん大きくなっていくしくみ

ピンキー 先ほど申し上げたとおり、基本的にちゃんと実現可能性のあるストーリーが描けているかが重要です。新規事業の一歩目はどんなアイデアでも必ずファーストピンのはずです。

ずっと、ビジョンが大事だと言っていますが、「こんなことやりたいな」とか、「この人にはこんなのが求められてるはずだ」というファーストピンからでもいいと思うんです。ただ、ファーストピンが倒れたらセカンドピン、セカンドピンが倒れたらサードピンというように、ドミノのようにどんどん倒れていって、事業が大きくなっていくことが大事なんですよね。

ドミノって始まりは小さいピースでも徐々に倒れていくと力が大きくなって、大きいピースでも倒れますよね。そういう戦略(ドミノ戦略と言ったりしますね)が描けているかどうか。

そこに「確信」がもてるか?

ピンキー そして、ビジョンがあっても、それを受け入れる人がいなかったらどうにもならないので、ビジョンコンセプトの需要性があるかどうか、それがプロダクトに落ちたときに需要があるのかどうか、それを買って使って満足していただけるかも重要です。デザイン思考のアプローチですね。

最近、よく、N=1といわれますけど、いちばん最初に強く共感するN=1がいるのか、その人たちはどういうターゲット層なのか、その人は世の中にどれぐらいいるのか。ボトムと戦略がマッチするようなコンセプト、コンセプトストーリーに落とし込んでいけるか。

ピンキー ここに、「実現可能性のあるストーリーが描け、確信が持てるか?」と書きましたが、そもそも新規事業というのは、いつまでたってもエビデンスが揃いません。確実にそこにたどり着くという証拠はないんですよね。でも、「確実にそこにたどり着けると、自らが信じることができる」ことはできると思います。この状態を「確信」と呼んでいます。これも、グランドデザインを描くための重要なポイントです。

宮木 想像力が豊かな人や、ふだんからビジョナリーな人は、ビジョンだけで動けるし、共感もしてくれやすい。だけど、会社のなかにはいろんなタイプの人がいて、ビジョンだけではちょっと怪しい、と思う人もいる。でも「実際にいる顧客のなかに、こんな困りごとを抱えてる人がいたんですよ」って言うと、顧客に寄り添う気持ちやそういう感受性がある人は「だったらやるべきだよね」となります。

しかし、それでもまだ無理な人はやっぱりいて、そういう人には戦略とセットで伝える必要があるのだろうなと思いました。最初はこんなに小さいけど、でもこれがこういう道筋でこんな大きなビジョンに到達できるんですって語れるといい。いろんな人を巻き込んでいくためにはこの三つのセット(ビジョン、顧客の困りごと、ドミノ戦略)は強力だと思います。

決裁者はどのポイントでイエスと言うのか

ピンキー いまおっしゃったのはすごく良いポイントです。この本にはあまり書いてないんですが、グランドデザインを描いて決裁を取りに行くときには、決裁者がどういうポイントでイエスを言うかをちゃんと想定したうえで、言わなくてもいいことは黙っているというのも大事なんです。

とくに大手企業には真面目でいい人が多いので、自分の活動を全部説明してしまうんですよね。それで、「よくわからん」と言われてしまう。さきほど、詐欺師と言いましたが、嘘をつくのはダメです。言うべきことは言うが、言わなくていいことは黙ってたほうがいい。

スタートアップがVCからお金を調達するときには、当然、1社から全額調達できるわけではないので、何社も、100社とか回らなきゃいけなかったりするんですけど、ちゃんと調達できる起業家は、相手によって語るストーリーが全部違うんですよ。VCによって、投資領域や投資のフェーズが違ったりします。VC自体が「こんな社会がつくりたい」というビジョンを持っているんです。

それを実現するためのピースとして、スタートアップに投資をしている。VCはホームページにも書いてないようなことを、いろんなところで語ってたりする。それを調べて、「この人はこういうふうに言うと刺さりそうだ」というポイントを押さえて考えて語るんです。「あなたと一緒に未来をつくりたいんです」って。

サラリーマンの場合は、ピンポイントに上司をねらっていくんです。「この人にはこういうふうに言ったら承認が取れる」って、相手の目的や課題感を意識して語るのも事業をつくるための戦略といえますね。

宮木 すごくよくわかります……。

ピンキー 上司を説得するための戦略を意識していない人が多いと思います。全部正直に経過報告をしてしまう。経過報告だと、重箱の隅がつつきやすくなっちゃうんですよ。抽象度を上げた議論をしたほうがいいんです。そうしないと、たとえば「(スライドの三角の角をさして)ここはもうちょっとRを丸くしたほうがいいんじゃないか」とか「ここはピンクじゃなくて緑色がいいんじゃないか」とか言われちゃうんですよね(笑)。

もちろん、重箱の隅をつつかせたほうがいい場面もあるんですが、ビジョンや戦略の話をするときは、言い方を変えたり、これは合意が取れないだろうなみたいなことは敢えて言わない選択を取るとか。けっこう重要です。

宮木 これは僕のなかでも反省しかないですね。いま聞きながらどんどん内省が進みました。たとえば、デザイン思考で共感が大事だとか、人間中心とかっていわれますけど、社内になるとどうしても「上司だからわかってほしい」とか「同じ会社の仲間なんだからわかってほしい」って思ってしまうんですよね。

でも、やっぱりここでも相手の立場に立って、こちらも上司に対して共感力を発揮していくことが本当に大事なんですよね。相手の興味関心の範囲で話を始めるとか、話す順番や抽象度を相手に合わせていく。

いま、聞いてるみなさんにも、めちゃくちゃ参考になるんじゃないかと思います。

数十億の予算を確保できたのは……

ピンキー ボクは、いまやメガベンチャーになった某企業で働いたときに、数十億のお金を使って新規事業を立ち上げたときに、数十億の予算を確保したことがあるんです。

キーになる役員と、自分の上長の役員がタバコを吸う人だったんですよ。役員とのミーティングの時間ってなかなか確保できないので、このタバコを吸うときをねらいました。喫煙所までのエレベーターのなかでめちゃくちゃ話したんです。このときに、どういうふうに語れば刺さるのかを探りました。

それから別の役員には、秘書に連絡して「飲みに行きたいです」って伝えてもらったんです。ボクは何度か役員会でプレゼンしたりしていたので、ボクのことをなんとなくは知っていてくれているけれど、直接話したこともないという間柄だったんですけど。だけど、その「飲みに行きたい」を承諾してもらえて、その飲みの席でどういうことを求めてるのかリサーチしました。

もともとその会社は、新しい提案はロジカルに、やるべき理由や妥当な投資額の検討をゴリゴリに詰める会社だったので、それに敢えて逆手にとって、「この会社をディズニーにします」とだけ書いて、コンセプトしか語らずに何十億使わせてくれっていう提案をしました。結果、めちゃくちゃ褒められて、その後もその提案書は「こういう提案をしてこい」っていろんなところで巻かれたらしいです(笑)。

ふだん、重箱の隅をつつくような経営会議をしていて、この先会社がどういう道に進むべきなのかっていう議論は、あんまりされてなかったようなので、敢えて、「わが社をこういう会社にしたい」ってぶち上げました。

宮木 へぇー。

ピンキー ちょっと博打だったんですけどね。イラストレーターにボクの未来の理想像、イメージを絵に描いてもらって、「これを私は実現したいんです」って絵で攻めたんです。

宮木 役員との飲み会で、「稟議の場では割と細かい話が多くて辟易してる」みたいな情報をとってたわけですね?

ピンキー そうです。取締役会を担当している同僚からも飲みながら情報収集しました。

実は、これには、ロジックを整えるのが間に合わなかったという裏話もあります。どう考えても間に合わない。だから、重箱の隅がつつけるどころか、隅しかないようなペーパーにまとめるしかない、と。期日の一週間ぐらい前に、それまでにメンバーがつくったロジックを組み上げた資料300枚ぐらいを全部捨てました。部長にも相談せず(笑)。それで、エモーショナル一辺倒なプレゼンを一週間でつくりあげたんです。

なので、超かっこよく戦略的にやったっていうわけでもなくて、本当に超博打だったんですけど、ひとつの例としてご紹介しました。ポイントは、「この人たちがどういう課題を持っているか」に焦点を当てた、というところです。もちろん全員が賛成ではなくて、一部かなり批判した役員もいたらしいんですが。でも、このぶち上げをした結果、応援してくれる役員が何人かいて、やろうって決定してくれた。

宮木 エレベーターピッチをまさに実践し、そして役員と飲む。
その飲みってマンツーマンですか?

ピンキー そうです(笑)。

正しく行動すると間違える

ピンキー なんというか……、ちょっと狡猾なやつじゃないと新規事業を通すのはむずかしいんだろうなと思います。真っ当なラインからいってるわけでもないし、まぁ、卑怯な手段ではあるじゃないですか。

宮木 いや、いいですよね。狡猾な手法は本当に必要だと思うんですよ。『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン著、2001年)でも、「大企業にとって正しく行動をすると間違える」って言ってますよね。そしてこれって、経営戦略レベルの話だけでなく、日常の組織慣行にも当てはまると思ってるんですよね。たとえば、新規事業開発に必要なインタビューのためにお客さんに会いに行くべく、社内の営業部門に打診したら無碍に断られた、みたいな話をよく聞きますが、「正しく間違えている」事例だなと思うんですよね。親戚でも友だちでもなんでもいいから、まずは勝手に怒られずに会える範囲でさっさと会いに行こうぜと思います(笑)

ピンキー 「正しくやるな」もそうだし、「泥臭いことから始めろ」みたいな発言をされてる方もシリコンバレー界隈にはいますよね。儲からないことをやらずに、儲けることだけをやるって、不可能ですよね。地道で泥臭くて、意味があるのかどうか現段階ではわからないことでもやっておく。それを積み重ねるのが大事。

宮木 そうですね。一見、お金にならなさそうなことや、無駄に思えることがのちにうまくいくことにつながる。たとえばキーエンスなんかも、ほかのメーカーが絶対やらないことを泥臭くやり遂げて、それをシステム化してあそこまで大きくなった例ですよね。

ピンキー ボクは、会社で営業はやってないんですけど、大企業新規事業の担当者や部長とよく飲みに行くんですよ。

宮木 はい。Facebookでよく見てます(笑)

ピンキー 競合への牽制です(笑)。仲良くなって飲みに行くと、NDA文化があるとはいえ、ある程度喋れることは喋ってくれるんですよね。もちろん、株価に影響するような情報などは避けますが、「いま、こんなことに困ってんだよね」とか。真正面からふつうに商談したらそんなに喋ってくれないけど、飲みながら話すっていいですよ。こっちも飲んでるので、正しく提案しなきゃいけないという気構えもないし。すごく気軽に「だったら、こんなことしちゃえばいいんじゃないですか」って適当に思いついたことが言えて、それがけっこうありがたがられるんです。

そうやって、懐に入ると合見積を取られにくくなるんです。「ちょっとさ、一回一緒にやろうよ」って言ってもらえたりしますよ。ふつうにアポとって商談するより、飲みまくったほうが営業になる(笑)。

宮木 わかります。飲み会めっちゃいいですよね。僕も新規事業開発をやるうえで、とくにパートナー候補を見つけたいときとかは、まずできるだけさっさと飲みに行くことを心がけています(笑)。

ピンキー そうそう。いま、IT全盛期でテクニカルに、ローコストで、パフォーマンスが出る方法が巷にはたくさんありますけど、最初は、地道にやらないと。それをやった後に効率化や仕組み化ができる。事業としてスケールさせるためにそれを仕組み化する、という順番ですよね。

(3)につづく


登壇者プロフィール

荒井 宏之 a.k.a ピンキー

キュレーションズ株式会社 取締役CSMO / エグゼクティブ・ストラテジー・デザイナー
1982年神奈川県横浜市生まれ。明治大学理工学部を卒業。在学中からエンジニアとしてWebサイト制作、SEOエンジニアリング、アクセス解析アナリストを経験。アーキタイプ株式会社にてIT領域の技術/潮流をベースとした中堅〜大手企業向けの新規事業コンサルタントにジョブチェンジし、グリー株式会社など複数のメガベンチャーにおいて新規事業立ち上げに注力。その後、複数のシードフェーズ・スタートアップにてCEO、CSO、アドバイザーなどを歴任し、経営戦略・マーケティング・事業開発・人事などを担当し、スタートアップ及び大手企業新規事業の事業戦略立案を外部からサポートするチガサキベンチャーズ合同会社を創業。2019年8月にキュレーションズに参画し、現職に至る。

宮木俊明(BMIA代表理事)

コニカミノルタ株式会社 ビジネス開発グループリーダー
Growth Works Inc. CEO
Trained facilitator of LEGO® SERIOUS PLAY® method anddmaterial
6seconds Certified SEI EQ Assessor & Brain Profiler
親子の休日革命 代表
ミッション:社会に挑戦者を増やすために、挑戦者を支援するとともに、自らもイノベーションに挑戦し続ける
大学卒業後、葬儀会社勤務、音楽活動を経て、商社の法人営業として2011年から3年連続トップ営業を達成しつつ、社内業務変革(今で言うDX)でも成果を挙げた。
2014年に創薬研究支援スタートアップとしてディスカヴァリソース株式会社を設立し、代表取締役に就任。大手製薬企業に採用された国内初の研究支援サービスは現在も活用されている。
2019年に教育ITベンチャーにジョインし、No.2として法人事業部門を統括するとともに、自らコンサルタント・講師として、全国の人と組織と事業の成長支援に奔走。
2021年からはコニカミノルタ株式会社のビジネス開発グループリーダーに就任。新規事業開発・人材開発・組織開発の「三位一体開発」による既存事業部発のイノベーションとして、印刷業界全体のDXに挑戦中。
BMIAには2015年から所属し、ビジネスモデル・キャンバスやバリュープロポジション・キャンバスを活用した新規事業開発コンサルタントとして活動開始。
2016年に経済産業省が主催するグローバルイノベーター育成プログラム「始動2016」に採択。イノベーターとしてのスキルセットとマインドセットを磨き、最終選考を経てイスラエル派遣メンバーに選出された。
2017年よりライフワークとして誰一人として親子の時間を犠牲にせず親子の学びと成長を支援するワークショップ・プログラム「親子の休日革命」を推進中。
2019年、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏のソーシャルビジネス・デザイン・コンテスト「YYコンテスト2019」のグランドチャンピオン大会に出場し優勝。日本代表として世界大会への出場決定 (新型コロナの影響で延期中)
2020年にソーシャル・ビジネス・カンパニーGrowth Worksを創業。イノベーションを志向した教育・新規事業開発・人材開発・組織開発の講師・コンサルタント・ファシリテーターとして、研修やワークショップの提供を通じて人・組織・事業・地域社会の成長を支援中。
著書:
『ひらめきとアイデアがあふれ出す ビジネスフレームワーク実践ブック』エムディエヌコーポレーション (2020/7/28)
『仕事はかどり図鑑 今日からはじめる小さなDX』エムディエヌコーポレーション (2021/10/22)



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