Seaspiracy を観て、 ゆるくヴィーガン(菜食)生活をはじめてみることにした話。
先日、Netflix で Seaspiracy (シースパイラシー)というドキュメンタリー映画を観て久々に脳天をぶち抜かれるような衝撃を受けた。
「海がこんな悲惨な状況だなんて、ほとんど誰も知らないだろうな・・・」
それが僕がこの映画を観た最初の感想で、一人でも多くの人にこのドキュメンタリーを観てもらいたいと思った。
というわけで、今回はすぐに観る暇がとれない方のために映画で扱われた重要な情報を要約し、個人的な考えも折り込みながら誰でも日常の中で取れる行動について書きたいと思う。
▼ちょっと長いけど目次だけ読んでもらえたら概要がわかります。
Seaspiracy ってどんな映画?
この映画は現代漁業の産業構造がいかに持続不可能かを訴えている映画で、端的にいうと「このままだと2048年頃に海から魚がいなくなりますよ。(もう漁業は成り立たなくなる)このまま海を破壊すると地球に住めなくなりますよ。(海がいかに生命の母であるか。)菜食や肉や魚の代替食品を増やそうね。(人類に残された、誰もが参加できる解決策)」というメッセージを伝えている。
また「持続可能性」という言葉が使われるようになって久しいけど、この映画はその言葉の本当の意味について、他の動物のいのちを頂くことについて、深く考えさせてくれる映画だと思う。
乱獲によって、絶滅に追い込まれる魚たち
海から魚がいなくなるなんてにわかに信じられないけど、すでにマグロや鮫などは9割も減っているという。
また食物連鎖の頂点にいる鮫が激減したことで、生態系のバランスが崩れ他の魚も同様に激減してしまっているらしい。
ドキュメンタリー冒頭から30分ぐらい経つと、「あ、まじでやばいんだ」と背中に嫌な汗が流れ出してくる。
巨大な漁船が海の生態系を根こそぎ破壊している
個人的に最も衝撃的だったのは、熱帯雨林をなぎ倒すブルドーザーのごとく、毎日450万ほどの漁船が巨大な網で世界中の海を根こそぎさらっている映像だ。
中でもトロール漁は最も破壊的で、その網は大型旅客機を13台飲み込める大きさらしい。
世界中で毎年2.7兆の魚を水揚げされているという・・・2.7兆??
海の底のことで見えないことだからか、人間は毎年35億エーカーの海を破壊している。
それがどれぐらいの広さなのかもはや想像もつかないけど、1分あたりサッカーコート4316面分、1年だと大陸がいくつか消えてなくなるぐらいの大きさだという。
混獲によって無残に捨てられ続ける、 いのち
また捕鯨の問題など日本はやり玉にあがりやすけど、事実としては鯨やいるかなどは混獲(目的でない種が大きな網に一緒にかかってしまうこと)で捉えられて死んでしまっているのがほとんどらしい。
フカヒレ目的で大量に漁獲される鮫ですらも、年間漁獲される鮫の約半数、毎年5000万匹以上は混獲、つまり網にかかって捨てられているという。
また混獲をしていないことを示すサスティナブル漁業の認証マーク制度もあるにはあるけど、自己申告制で認証料を払えば承諾される仕組みになっていて、海の上で監視の目は行き届かないので、実際の効果は疑わしいらしい。
例えば認証マークのある漁船がマグロ8匹捕るのにいるか45匹が網にかけて殺されたという報告もある。
プラスチック漁具が太平洋ゴミベルトの46%を占める
プラスチックごみの問題では、よくプラスチックストローが問題になる。
だけど実際に海のプラスチックごみの中でストローの占める割合は0.03%でしかなく、廃棄されたプラスチック漁具が全体の46%を占めている。
僕もプラスチックごみは常々気にしていて、マイボトルやエコバッグを使ったり、紙のストローを使ったりしていたから、この数字は衝撃的だった。
漁具は陸で廃棄処分しなければならないものだけど、費用がかさむので海に投げ捨てるのが常態化してるらしい。
一日に仕掛けられる漁網の長さはなんと地球500周分で、それが次々捨てられているのだ。
プラゴミ問題の本質は漁業産業の体制そのものにあるにも関わらず、なぜそれが野放しになっているのか?
「海の環境保護団体も漁業関連企業からの寄付で運営されているので、わかっていても口に出せない」というのが監督の主張だ。
今は地球上どこをみても漁具のゴミだらけであり、ウミガメはそれ故に絶滅寸前だというし、座礁した鯨たちも漁具を飲み込んで死んでいるらしい。
この状況を変えるには、ストローを気にかけるまえに、漁業のあり方を見直し、海に投げ捨てられる漁具をリサイクル処理する方法を考えなければいけない。そのためには、まず一人でも多くの人がこの問題の本質に気づくことが必要だろう。
▼映画を観たあとに調べたらナショナルグラフィックでも同様の記事が取り上げたられていたので、リンクをシェアしておきます。
地球を守るには海を守らなければいけない
海が破壊され、魚がいなくなるなんて考えたことはなかったけれど、それは地球全体の生態系の崩壊であり、リアルに人類の終焉を意味する。
木が二酸化炭素を吸収するというのは周知の事実だけど、実は海の生態系を守ることは遥かに重要だという。
なんと海洋植物が1エーカーあたり蓄えられる炭素の量は、地上の木の20倍、地球の炭素の93%は海洋植物が吸収しているという。
さらに魚たち海洋生物も炭素を体内に取り入れ空気中に放出するのを防いでくれているのだ。
このまま海が破壊され、分岐点を越えて炭素を留めることができなくなると、地上の炭素濃度が上がり、気温は上昇、計り知れない悪影響を生命に及ぼしてしまう。
つまり、この漁業産業の問題は「このまま乱獲続けたらあと数十年で魚が食べられなくなるから困ったな」という話ではなくて「このままだと人類絶滅しちゃうよ」という人類存続の話なのだ。
僕もそうだったけど、ほとんどの人が海を守ることの重大性をわかっていない。
それってめちゃめちゃ怖いことだと思う。
解決策1 : 海の30%を保護区に。
こんな現実を目の当たりにすると絶望しちゃいそうになるけど、海の再生能力は非常に高いという希望がある。
人間がこれだけ破壊し尽くしても、まだなんとか耐えているのは、海に再生する力があるからだ。
海の保護区を30%にすれば生態系は大幅に回復するという科学的な根拠がある。もし人間が海に全く手をつけずに放置すれば、海は自然に回復し魚も増えてくれるのだ。
ただ現在、地球上に保護区は5%あるが、漁業や石油の発掘は禁止されておらず、完全に漁業を禁止している保護区というのは1%にも満たない。
この保護区を増やしていくためには国際的な協力体制が必要だし、魚の消費量が世界でも多い中国や日本が率先して取り組めることだと思う。
解決策2: 食べることの意識をアップデートする
人類に残された時間はほんの数十年しかなく、その間に意識をアップデートし、地球全体で行動を変えるべきなのは明らかなんだけど、個人レベルでできることはなんだろうか?
それはずばり "食べること" に対する意識を高めることだと思う。
なぜなら生態系の破壊、気候変動(魚が減ると海水の温度は上昇し、牛などの家畜が増えたら温室効果ガスは増える)やプラスチックごみの問題も実はすべて"食"と密接に関わっているからだ。
ちなみに食肉に関しては Cowspiracyも観て欲しい。
Cowspiracy: The Sustainability Secret
具体的な解決策は普段の食事を菜食を中心にしていくことだ。
1週間の献立を考えるとき、魚や肉を食べる量を半分にして、野菜を増やすことができれば、それだけで大きく変わるだろう。
菜食は健康にもいいし、人類が何万年と続けてきた本来の食生活でもある。最近ではパフォーマンス向上のためにアスリートたちの中でも菜食主義者が増えているらしいし、人間が植物から摂取できない栄養素はビタミンB12だけらしいのでそれに気をつけていれば健康上問題もない。
僕もビタミン12はビタミン剤で補うことにした。
詳しく知りたい人こちらをどうぞ。
ゲームチェンジャー : スポーツ栄養学の真実
ちなみに家庭菜園を始められる人は、始めてみるのもいいかもしれない。僕も昨年始めたんだけど、やってみて野菜の本当の美味しさに気づけたと思う。
そう、これからのいくつもの複雑な問題の解決策は実はシンプルで、しかも誰もが取り組むことができるものなのだ。
これは今回の記事の数少ないグッドニュースだと思う。
"いのち"をいただく感謝を思いだそう
問題の根っこには、人間が他の動物たちの"いのち"を頂いていることへの感謝を忘れていることにあるんじゃないか、というのが僕の考えだ。
地球環境がここまで破壊されるまで、人間が気づけなかった一番の理由は自分で狩猟するわけでも漁獲するわけでもなく、手を汚すことなくスーパーで買ってきたら食べられるようになったからだ。
それによって僕らはいのちを頂いていること、すべては繋がっているという感覚を忘れてしまっているのだろう。
恥ずかしながら僕は魚には痛覚がないと思っていたんだけど、実は魚にも痛覚があり、恐怖を感じる心があるらしい。
魚一匹にも同じように一つの命があることを意識できれば、人間の行動も変わっていくんじゃないだろうか。
日本には手を合わせて「いただきます」という文化があるけれど、僕らはその本来の意味をどれほど意識できているだろう?
いのちを頂いていて、すべてのいのちは繋がっているという感覚を思い出すことが、僕らの意識をアップデートしてくれると思うし、逆に言えばそれを忘れた人類に未来はないのかもしれないと思う。
ヴィーガン生活を始めてみたら、想像以上に快適だった。
実はこの映画を観てから僕も3週間ほど続けてヴィーガン(乳製品も控えた完全菜食)を体験してみた。
それまで魚と野菜中心、ときどき肉の生活をしていた僕にできるのかな、と不安になったけどやってみると、案外いけるし快適だな、というのが正直な感想だ。
肉と魚は摂らず、牛乳は豆乳に変えて、大豆系を中心にタンパク質をとった。納豆や高野豆腐、大豆ミートは大活躍した。
ちょうど札幌に滞在してたこともあり、いくつかヴィーガンのお店を回ったりもしたんだけど、野菜や穀物で作れる料理のバラエティに驚いたし、栄養価も高いし、身体の調子も軽く、すこぶる良かった。
ヴィーガンランチプレート(シンプルで美味しい)
ヴィーガンラーメン(胡麻、最強だなと思った)
完全ベジのインドカレー(インド人、改めてすごいなと)
日本の和食は野菜中心だというのも、馴染みやすかった理由だと思う。魚と肉を食べないという制限がある分、煮物だったり漬物だったりの味の深さをしっかりと味わえるようになり、より美味しいと感じるようになった。
そして先日、GWに親戚で集まることになり、そこで一度、肉と魚を解禁することにしたんだけどそれまで、そんなに食べたいとも思わなかった。
むしろ久しぶりに肉と魚を食べた翌日はちょっと胃が重たいなという感じがした。
もちろんこれからもたまには魚も肉も食べたくなるかもしれないし、いろんな付き合いもあるから、いきなり完全にゼロにすることは難しいかもしれない。
でもそれでいいと思っていて、こういうことは無理をしないことが肝心だし、楽しくやったほうがいい。
だから僕はこれからは週5ぐらいでヴィーガンになろうと思う。家族でパートタイムヴィーガンになって、一緒に献立を考えたい。
完全菜食は無理でも、菜食中心の献立を増やすことは誰だってできると思うし、人類が足並み揃えて本気で取り組めば地球環境に対して十分な効果を発揮すると思う。
いのちがけの問題提起とネットフリックス時代の可能性
このドキュメンタリー映画は途中で観ることを投げ出したくなるかもしれないし、何度か休憩を挟まないと最後まで観ることもできないかもしれない。
それぐらい差し迫ったものがあるし映像も衝撃的だ。「知らぬ間にじぶんも加害者になっているんだ」という罪悪感と無力感に苛まれ憂鬱になってしまう可能性も十分にあると思う。
実際このドキュメンタリー映画は強く訴えるために煽るような効果音を使い、インタビュー形式のメッセージも少し偏っている感じもあった。
こういう問題提起のドキュメンタリーは、怒りのバイブスが伝わってきて嫌だという人もいるだろう。
だけど最後まで観て欲しい。最後まで観れば、「いのち」とはなにかを感じ取れると思うし、絶望的な状況の中から希望を見出すこともできなくはないかもしれないからだ。
最後に僕はこのドキュメンタリーを作った制作チームを心からリスペクトしたい。なぜなら本質的な問題を提起することは怖いことだし、実際にこのドキュメンタリーの制作は命懸けだったと思うからだ。
実際ドキュメンタリーの後半で扱っているけど、この問題にはとんでもなく巨大な利権が絡んでいて、彼らは多くの環境団体が触れられない問題の本質に迫ろうとしている。
おそらく一昔前のテレビ放送なら関連団体や広告主側からNGが確実にでていただろうと思う。だけど、Netflixのおかげで手軽に観れるようになり、すごいスピードで世界中で伝わっていくことにも希望を感じている。実際、公開されてから世界各国でTop10入りしているらしい。
残された時間は少ないけれど、課題が大きい分だけ、人類はすごいスピードで進化しているとも言えるし、そういう時代を生きていける喜びは大きいと思う。
人間には自然を再生する力もあるという希望
さいごに僕の好きなドキュメンタリー映画をもう一本紹介させてもらって終わろうと思う。
僕はこのデヴィッド・アッテンボローのシリーズが地球をめぐるシリーズが大好きなんだけど、彼は人生をかけて、地球の美しさを伝え、そしてその美しさが急速に損なわれていくことへの警笛を鳴らし続けてきた。
そんなデヴィッドが「人間は自然を破壊することもできるが、再生することもできる」と言っていることは大きな希望だと思う。
彼はもう95歳。僕らの世代に残されている仕事は、彼のような人の意志を受け継ぎ、地球の生命を再生していくことなんだと思う。
文・宇野豪佑