見出し画像

東大生,“タイミーさん”になるの巻。

Timee(タイミー)をご存じですか?
全国ネットかは知りませんがちょっと前に某女優を起用したTV CMが打たれていたので,使ったことはなくても聞いたことがあるという人はそこそこいるのではないでしょうか。

タイミーは、「働きたい時間」と「働いて欲しい時間」をマッチングするスキマバイト募集サービスです。

タイミー【法人様向け】 ページ

こういうことです。
タイミーの仲介で1日数時間だけの日雇いで企業が個人を直接雇用できます。
労働条件通知書や源泉徴収票もインターネット上で完結するため,雇用側にとっても各自で日雇いをする労力が無くてもタイミーという企業の力を借りられるし,それによって増えた募集を労働者はタイミーのアプリ上でまとめて探せるという,画期的なシステムです。

で,タイミー経由で働いている人を「タイミーさん」と呼ぶことがあります。
確かに同一店舗で数時間ごとにタイミーの募集枠が出ていることもあるので,今日の午前はタイミーから佐藤さん,午後は田中さん,明日は高橋さん……なんてただでさえ日雇いを募集するくらい人手不足の店舗がいちいち確認して呼び分けるのも大変です。
私がタイミーのワーカーを「タイミーさん」と呼ぶことを知ったのは,暇つぶしにTwitterを見ていて,ふと次の記事を開いた時でした。

ちなみに先に断っておくと,この記事ではタイミーワーカーと貧困の問題については詳述しません。
あくまでも私の経験を共有しようと思い立ったもので,自分の経験を超えた想像についてお気持ち表明しても誰の得にもならないからです。

閑話休題,上の記事を読んだ時,真っ先に思ったのは

「『名前を呼ばれることはほとんどない』!?すごい!私も働いてみたい!」

でした。

他にも理由は幾つかありますが,そんなこんなで,東大生がタイミーさんになってみた記録です。


なぜタイミーで働こうと思ったのか

①経済的な理由

単純に,時間があるときにできるだけお金を稼ぎたかったからです。
私の以前のバイト先では基本土日にシフトに入っていて,平日は授業に全振りしていました(noteで前期教養の頃の時間割を公開しています)。
1年前にそのバイト先を辞め,途中から掛け持ちしていた別のバイト先に一本化したのですが,今度は土日祝が休みの職場でした。
そうなると授業を減らして平日に行くことになりますが,授業は土日祝にはずれてくれません。稀に祝日に授業しやがるけど
かといって別のバイトを増やせるだけのキャパシティはないので,土日祝だけ,しかも用事のない日だけ働ければ良いのに…… こういう時のスキマバイトでは!?!?

そもそもなぜ稼ぎたいかというと,今は実家ですが大学院に入ったら学費生活費が自分持ちになるので,今のうちに少しでも貯金を作っておきたいのです。
そもそも博士号取るまで最低でも5年,まだ大学にお金を納めなければいけないシステムが本当に狂ってるんですが。
今のバイト先は,将来につながることを勉強させてもらっているのでお金がもらえるだけありがたい話ではあるのですが,収入源として考えると最低賃金・片道2時間・交通費不支給・サービス残業という他の東大生に言うとドン引きされる感じなので,これでも辞めないけど稼ぎたいとなったら他で働くしかありません。

タイミーの案件って交通費出るところは一律で出るし,時給も最低を上回るものも多いし,募集の時間より長引きそうで双方の合意のもとで残業になった分はちゃんと給与が支払われます。深夜割増もちゃんとされます。バイト先よりホワイトで感動する
恐らく給与計算についてもタイミー側で行っているものと思われるので,労働した時間について雇用側と労働者で認識の相違が出なければトラブルにもならなそうです。


②大学生のうちに色々なバイトがしたい

私の前バイト先は,児童館でした。今は研究室で働いています。
人には珍しいと言われる,いないこともないけどあまりメジャーではない職×2ですが,こうなると飲食店とか,一般的な大学生らしいバイトに憧れが出てきます。
某コーヒーチェーンで働いている友達と遊んで他店舗に行って,レジで社割のために職員証を出して「お疲れ様です,○○店の××です〜」「○○店!素敵ですね〜。うちの店舗も△△が〜」みたいな話をしているのを見ると,1日中パソコンと睨み合っているだけの仕事が大層つまらなく思えてきます。

ただ,なんか,一度将来に繋がりそうな職場に繋がっちゃったら,今更飲食バイトやりたいので辞めますとか言えない感じになるじゃないですか……。
昔の私がこのことに気づいていれば飲食とか,バイトらしいバイトをちょっとやってから今の職場に応募するなどしたかもしれませんが,前期教養で専門の話に飢えていた私がその考えに至るわけもなく。

だから,タイミーの仕事一覧を見てとてもワクワクしました。
未経験でもOKな仕事,結構あるんですよね。
大人のキッザニアかと思いました。しかももらえるお金は本物。
やるしかねぇ。


③「東大生」であることの窮屈さ

これが,最初に書いた,「タイミーさん」と呼ばれることへの憧れです。
言うまでもなく元記事では,個人の名前ではなくタイミーさんという”枠”で認識されることの絶望に言及したものでした。
ただし私の場合,大学生という身分で,学生団体でも活動していて,面倒を見てくれるバイト先もあるという恵まれた状況を踏まえれば,これはメリットだと感じます。

どういうことなのか。

私は表題の通り東京大学の学生ですが,実名で東大生という肩書きを積極的に使うことはありません。
大学名を聞かれて「一応東大生です」と答える,よくネタにされるあれです。
今のバイト先ではそれほど珍しくはありませんが,以前のバイト先では東大生がかなり珍しかったので,知っている人には言いふらさないようにお願いしていました。

メディアが作った画一的な「東大生」のイメージが,私は嫌いです。
高校生の頃,笑って見ていた某大方程式も,某大王も,某uizKnockも,大学に入ってから一切見られなくなりました。
東大生は全知全能か,もしくはどこかしらで誰よりも尖ったものを持っているものだ,というイメージの植え付けによって,私が周囲の人から「東大生って普通の人もいるんだね」「東大生でもわからないの?」と何度言われたことか。
東大入試が雑学王決定戦でも一芸バトルでもないことは私でも知っています。

あと,私が学費を稼ぎたいと言いつつ,頑なに塾講師・家庭教師をしてこなかった理由もこれです。
私は,きっとみなさんご存知の,推薦入試で東京大学に入りました。
そして,一般入試では別の大学を元から志望していました。
元々そっちの大学志望で,ギリギリまで推薦でその大学に出すか東大に出すか迷って,元の志望は一般で受かる見込みがあったので推薦でリスクの高い方に出した,という次第です。
なので東大の一般入試二次試験の問題も見たことなければ満点が何点かも知りません。

私は大学入ってからも堂々と人に見せられるような学業成績ですし,学部生のうちに大規模学会ではないにしろ筆頭でポスター発表もしているくらいなので,自分が東大にいて悪いとは思っていません。
ただし,一般入試の経験と,きっと能力はない。
受験業界では推薦入試などという異端児は最初からなかったことになっていることが往々にしてあるので,東大生という肩書きだけが先走り,推薦生と言うと(あっ……)みたいな顔をされます。

過去に1度だけ面接に行ったところは東大生限定ではなく,私が一般で合格圏内にいた大学も講師として募集していたところでしたが,和気藹々と話している中で最後の方に推薦で入って……と言うと,担当者は数秒固まって何かを考えた後,「言ってくれて良かったよ」と言いました。
模擬授業もしてその場で採用と言われましたが,一晩考えて,あの空気感の中で働くのは無理だと思い,翌日辞退の電話を入れました。
私が一般で受験しようとしていた大学名であの場にいたら,こうはならなかったと思います。

だから,もう,東大生をメディアでしか知らない人からも,東大生を一般入試で入った人しか知らない人からも,東大生だと思われるのはうんざりしていました。

そしてタイミーでは履歴書が必要ありません。
どこの誰かも分からず,興味も持たれず,大した期待もされず,十中八九見下されるであろう“タイミーさん”という存在に,私は希望を見出しました。


実際に働いてみて

どんな仕事をしたのか

ここから先は

4,175字

¥ 500

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?