vol.49 ブルースタジオの“パートナー” 株式会社グランドレベル・田中元子さんと、編む〈インタビュー編〉
「編む、ブルースタジオ」vol.48-49では、「ブルースタジオの“パートナー”」として、株式会社グランドレベル(以下、グランドレベル)の田中元子さんとブルースタジオの関係を特集します。
クライアントとして、チームメイトとして、プレイヤーとして、
さまざまな物語を編んできた長いお付き合いの“パートナー”である田中元子さん。
後編では、一緒に手がけた最新のPJである『オラ!ネウボーノ』で田中元子さんにお話をお伺いしました。
ブルースタジオとの今・出会い
ブルースタジオ太田(以下、太田):ここ『オラ!ネウボーノ』はブルースタジオとグランドレベルさんがご一緒した最新のお仕事ですが、弊社側は不動産チームの杉山・吉永とブランディングプロモーションチームの大木が担当した、設計チームの入らない座組なんですよね。
グランドレベル田中元子さん(以下敬称略、田中):実は今の自宅も不動産チームにお願いしていて、かなりプライベートなことも相談していたからこそ頼みやすかったんですよね。自宅探しの時も、同じ不動産というスキルを持っている方が他にいても、ブルースタジオの考え方が分かっている方がいいと思った。同じように『オラ!ネウボーノ』でも、ブルースタジオの考え方や経験から仕組みが現実的かどうか一緒に見てもらいたくて、お声がけしました。
でもほんと、楽しい仕事です!
太田:我々にとっても楽しいです!先日も仕事終わりにここに夕食食べに来て、ほんとうに楽しい場所だと思って。元子さんは普段からよくブルースタジオの築地オフィスにいらっしゃってますけれども、ここもオフィスから30分くらいなので、仕事終わりにおいしく楽しくごはんが食べられる場所ができたよ!て皆にも話しています。
田中:ブルースタジオとグランドレベルの結晶なので、ぜひぜひブルースタジオの皆さんにもたくさん使ってほしいです。
太田:元子さんとブルースタジオは10年近い、かなり長いお付き合いになるのですが、そもそもどうやってブルースタジオにアクセスしたのか、そのきっかけを教えていただけますか?
田中:大島さんの見た目ですね!ゲストで呼ばれた会で偶然お見かけして、見た目もタイプだったけれども、立ち振る舞いとかが偉そうにしていない、「遊んでいるひと」という印象でした。へんな意味じゃなくて、ほとんどの大人は「遊び」というと、お金を払って飲んだり食べたりどこかへ行ったり、わかりやすい娯楽を指すことが多いけれども、大島さんは何もかも全部を楽しんでいる、そういう意味での「遊び」の雰囲気があって。
それからブルースタジオのことを勉強というか、オープニングやお披露目会に皆勤賞レベルで参加するようになったんです。
人にどういう“生き方”を提供するのか
生きている時間をよりすこやかにする
田中:ブルースタジオの創業当初の特徴って、まずリノベーション、あとブランディングとか企画とか設計をワンストップでできるというビジネスモデルにあったと思うんですが、今は似たことをする会社も増えていて、ブルースタジオも新築をたくさんしていて。でも私から見たらブルースタジオが取り組んでいることは、かつても今も「人にどういう生き方を提供するのか」ということだと思っています。
太田:たしかに最近ブルースタジオのPJでは「なりわい」がテーマの物件が続けて竣工していて、“生き方”にかなりフォーカスしているように自分も思っています。でもそれには元子さんとお仕事をご一緒してきて、言語化してもらっていることも影響している気がしています。
田中:グランドレベルで興味のあること、建築という手段を通してやりたいことはおそらく「いい時間になるための空間をつくる」ことで、人が生きている時間は限りがあるけれども、その時間をよりすこやかにすることだと思います。
そういう点では、ブルースタジオとグランドレベルの考えることって遠くないと思うんですよね。
太田:だからこそ、『THE TALES』でインタビューをお願いする際にも「元子さんならばきっと引き出してくれるはず!」という信頼があるのだと思います。
田中:これは建築の専門家だけではなく、いわゆる“普通の人”にとっても大事なことだと思うんですよね。
建築と“普通の人”をつなぐ翻訳
太田:先日『オラ!ネウボーノ』の説明会に参加したときも、いろんなバックグラウンドの人がきているなかで、参加者全員に何をやりたいかきいていたのがすごいと思ったんです。しかも元子さんが聞き出すなかで、どんどんみなさんテンションあがって、場が盛り上がっていったのも、とても印象的でした。
田中:あれって翻訳だと思うんですよね。
建築が好きな方って、建築とちょっとおしゃべりできるでしょ。「こっちの角度から見てほしいんだな」とか。で、私は特にブルースタジオの建築とは、お喋りしやすいんです。ブルースタジオの建築はどれも、建築側が人にどうして欲しいかというより、人々に「もっと自由にしていいよ」と存分に言ってくれているように思います。
説明会で見て頂いた、参加者の皆さんそれぞれのお話しからもわかる通り、普通の人なんて本当にいないんです。それは人々が萎縮していない、安心して自由でいられる状態でやっと見えることだと思います。たぶん私がブルースタジオの物件にいたら、「自由にしていいよ」という建物の声をみんなに届けられるから、結果的にひとりひとりの個性がそこでより具体的に見える、掛け合わせの風景になると思う。
人がこの場所を好きでいるために
「むしろこっちのほうが、よりすてきよね」を目指す
田中:私って、こうじゃないとだめだというものがすごい少ないので、参加者のみなさんから「想定していない」話がでてくると本当に面白くて。ああいう場(説明会)で思ってもいないことを話してもらえることは、成功の一つだって実感はあるんですよね。
でもいろんなお話しが実現する、具現化するには、建物が想定外を受け容れるつもりで設計されている、人にひらかれているという前提があると思うんです。
イベントとかコミュニケーションの中で想定外のことが起きたときに、困るのではなく「むしろこっちのほうが、よりすてきよね」と言えるような状況を目指して作っているかどうかは、その後その場所でどう過ごせるか、どう使えるかという人のあり方に影響すると思うんで。
田中:竣工時が一番美しいとか、そういうのじゃなくて、誰かがガチャガチャやって崩れていくことが「育つ」ことだと思うんですよね。
太田:物件は時間が経つにつれて価値があがっていく、ということはブルースタジオもよく話しています。
田中:まちの価値とか物件の価値があがっていくためには、人がこの場所を好きでいることが大前提だと思っているんです。好きでいられるには、自分との間にいい関係があると感じられることが必要で、特別なことがなくてもここが好きだという気持ちが育まれれば、出ていく理由がなくなるんですよね。
目的にふさわしい器をつくる
田中:hoccoもそうだと思うんですけれども、互いがいきいき暮らしているさまを垣間見あえる、それがいいなって思える状況へと導く設計って、プライバシーをしっかりつくって予定調和にするよりも、繊細で大変なことなんですよね。許容度をあげるということとだらしないこととは違っていて、ブルースタジオの建築でそれができるのって設計が良いからだと思うんですよね。
どんどん人によって使い込まれていても、受け止められる質があるから、だらしなく崩壊しないという安心感があって。使うのは建築設計の素人だけれども、器が素人じゃないじゃないですか。
グランドレベルでも、どんな使われ方、どんな風景やひとの生き方のために設計するのかという目的にふさわしい設計、かつ人々が思い切り活動できる許容量のためにもデザインの質を担保することにはこだわっています。ブルースタジオのあり方って、そういう意味でかなり共感しています。
人間が人間のためにやる仕事
田中:『オラ!ネウボーノ』では、誰でも提供者にもお客さんにもなれるモデルをつくっています。それがいろんな人に出会ったりできるきっかけになって、このまちに住んでいて楽しいということにつながると思うんですよね。
安いとか駅に近いとか、そういう「便利」ではなくて、人間にしかない、理屈抜きの「これが好きだ」という感覚。友達と同じだよね。
友達である理由って、はやく走れるとかお金持ってるとか、そういうスキルやスペック、利便性じゃなくて、なんか一緒にいて楽しい、なんとなく話が合う、みたいな理屈抜きの感覚ですよね。そういう感覚になれる可能性を高めることが、たぶんまちとか物件の価値を維持存続させることだと思うんです。
田中:『オラ!ネウボーノ』もそうだったんですけど、私は全然仕事の指示をしないんですよ。プロジェクトに関わるメンバーどなたも、私に遠慮なく「自分はこう思う」ってぶつけてきてくれることが楽しいんで。
ブルースタジオの一番の武器になることは、人間がやってるって思ってもらえることだと思う。
そういう、人間にしかできないことを価値として育てていくことが、たぶん会社としては面白いことだと思うし、ブルースタジオのみなさんはそういうのを楽しめるような気がするんですよね。そういうところに私もジョインしたいなって思います。
これからの展望
太田:最後に、これからの展望をお伺いできますか?『オラ!ネウボーノ』でも、元子さん自身でも、これからということがあれば。
田中:私、会社つくって8年くらい経つんですけれども、予定とか計画とか目標とかないんですよね。子供の頃から。だから、なんだろう?
ほとんどの社会では、より点数の高い人が勝ちってなってるけれど、私はそうとは思っていなくて。
『オラ!ネウボーノ』が、そういう、点数じゃないことをもっと楽しみたいと思っています。それができる場所にしたいんですよね。
ほとんどのシェアキッチンが、飲食のビジネスをしようとしている人のチャレンジとか、そういう人のアトリエといった側面が強いけれど、
私はここで、立派な料理を追求しているとか、飲食のスモールビジネス、トライアルということだけじゃなくて、そうじゃないことも大歓迎。キッチンだけどフードじゃなくても全然いいし、キッチンを
使ったり自分の場所としてスペースを持てることで、自分ならこんなことしちゃう!ていう、いかに私が想像もしていなかった「遊び」をしてくれる人がたくさん現れるかが、目標だと思っています。