花奈

日本にうまれて良かったなと思う。香りと本、神社と美味しいものが好きです。いつか本屋を開…

花奈

日本にうまれて良かったなと思う。香りと本、神社と美味しいものが好きです。いつか本屋を開きたい。

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【ショートショート】残り物には懺悔がある

目の前に残った、ひとつのクッキー。何度見ても、ひとつしかない。さっきまでは、10個あったんだ、たしかに。10個あった。 でも今は、一つしか残っていない。それは僕が食べてしまったからなんだけれど……。 「このクッキー、職場の先輩にもらったんだけど、すごくおいしいのよね〜。明日帰ってきたら、美味しい紅茶と一緒に食べよう〜」 彼女はそう言っていた。だから、一つだけ、お裾分けしてもらうつもりで食べたのが、まずかった。 いや、美味しすぎたんだ、クッキーが。まずいのは僕。 ポケ

    • 【ショートショート】おはぎと黒猫

      いつの頃だったか、夜の散歩の途中で、この家に立ち寄るようになったのは。ふと垣根の隙間から見えた縁側に、おばあちゃんが寂しそうに一人座っていた。月を眺めて物思いに耽るその様子から、なぜだか目を離せなくなったオレは、垣根の隙間から庭へと入っていった。 「あら、どこからきたの?どこかのお宅のネコかしら。でも、この辺りでネコを飼っているおうちはないはずね……」 そう言いながら、おばあちゃんはオレをなでてくれた。人を見ても逃げないから、どこかの飼い猫だと思われたのかもしれないが、オ

      • モンブラン失言/毎週ショートショートお題

        今年最大のミスだった。いや、今世紀最大のミスといってもいい。よりによって、こんな時に僕はなんてことを……。 これを、モンブラン失言と呼ばずして、なんと呼ぶべきか。「ほんと、ごめんね。こんなこと言うつもりじゃ……」 この時期、1日たった10個しか売り出されないというモンブランを手に入れるために、朝の5時から並んだケーキ屋。彼女はケーキの中でも、モンブランが一番好きなのだ。しかしもうすぐ11時の開店というとき、僕はつい、ぽろっと本音が出てしまった。 「たかが、モンブランで6

        • 【ショートショート】図書館の妖精

           放課後、図書館で本を探していた聡子は、ようやく目当ての本を見つけたと思って手を伸ばした。すると、横から違う手が伸びてきた。そう思った瞬間、触れ合う手。振り向いて、触れ合う視線。あ、高橋くん…。 話しかけたいと思っていても、どうせ私なんて相手にされるはずないから、「おはよう」と挨拶することすらできなかった。高校生の時のようにずっと同じ教室にいるわけではないし、そもそもクラスなんてあまり関係ないから、接点がほとんどない。同じ講義を取ってはいても、大きな教室では人がたくさんいて

        【ショートショート】残り物には懺悔がある

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          【ショートショート】毛生え薬

          強力な毛生え薬を手に入れた。誰でも一晩で毛がふさふさになるという。実はまだ承認されていない薬だから不安はあったけれど、背に腹はかえられぬ。 彼女が初めて家に泊まりに来た時、うっかりカツラだったのがバレて、振られた。そんなことで?と思う。隠してはいたけれど、嘘をついて騙したわけじゃない。だいたい、つきあってから「実はカツラなんだ」ってどこでカミングアウトするんだよ。見返してやりたいし、できるならよりを戻したい。そんな思いからこの薬を手に入れた。 頭に薬を塗って、翌朝。ほんと

          【ショートショート】毛生え薬

          【ショートショート】貝殻に耳を当てると

          「ねえ、貝殻を耳に当てると、潮騒が聞こえるっていうよね。」 「ああ、聞いたことあるなあ。ほんとかな?」 「この貝はどう?」 「聞こえるかな。」 彼は、手頃な大きさの巻貝を拾い上げて、耳に当てた。 「ああ、ほんとだ、なんとなく聞こえるよ。」 「へえ、やっぱり聞こえるんだ。どんな感じ?」 「うん、聞こえるっていっても、微かにだよ。」 「じゃあ、もっと大きな貝だったら、大きな音がするのかな。」 「ねえ、この貝なんかどうかな?大きいから、すごく聞こえそうだけど。」 彼女は一回り

          【ショートショート】貝殻に耳を当てると

          【今日の短歌#5】

          いつの間に こんなに大きくなったのか 頼もしきかな 息子の背中

          【今日の短歌#5】

          【今日の短歌#4】

          泣けぬなら 玉ねぎ切って涙出す 涙は心の 浄化剤なり

          【今日の短歌#4】

          【今日の短歌#3】

          目覚ましを かけずに眠る しあわせよ 惰眠むさぼる 日曜の朝

          【今日の短歌#3】

          【今日の短歌#2】

          音姫は ほんとに音が消えてるの? やはり無人の トイレを探す

          【今日の短歌#2】

          【今日の短歌#1】

          そのさきに 何があるかはわからない それでも一歩 踏み出す明日

          【今日の短歌#1】