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【ショートショート】毛生え薬

強力な毛生え薬を手に入れた。誰でも一晩で毛がふさふさになるという。実はまだ承認されていない薬だから不安はあったけれど、背に腹はかえられぬ。

彼女が初めて家に泊まりに来た時、うっかりカツラだったのがバレて、振られた。そんなことで?と思う。隠してはいたけれど、嘘をついて騙したわけじゃない。だいたい、つきあってから「実はカツラなんだ」ってどこでカミングアウトするんだよ。見返してやりたいし、できるならよりを戻したい。そんな思いからこの薬を手に入れた。

頭に薬を塗って、翌朝。ほんとだ、元どおりだ!鏡の中には、かつての俺がいた。すごいなこの薬。大金を払った価値はあった。

俺は喜び勇んで、元カノに電話した。

「俺、もうカツラじゃなくなったんだよ。」

自信を持って電話した。だって俺は、髪さえあれば結構イケてる方だと思ってたし、彼女だって気持ちが戻るに違いないと。なあ、髪さえあればいいんだろう?しかし、返ってきた答えは違った。

「そういうとこよ。」
「なに?」
「だから、そういうとこよ。わかんないの?」
「俺を振ったのは、カツラだったからだろ?」
「まったく…。カツラとか毛じゃなくて、もっと大事なもの、あるでしょ。考えてごらん。外見にばっかりこだわるのは、自信のなさの表われよ。」

俺が振られたのは、カツラのせいじゃなかったのか…。

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