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映画「こんにちは、母さん」を観て
1月3日「こんにちは、母さん」という映画を観た。2023年の日本映画で、山田 洋次監督の作品だ。
キャストは、神崎福江役の吉永 小百合、神崎昭夫役の大泉 洋、神崎舞役のの永野 芽郁、木部富幸役の宮藤 官九郎などである。
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あらすじは、
神崎昭夫は同期の出世頭で大手企業の人事部長を務めているが、お人好しな彼にとって社員のリストラは大きな負担だった。その上、妻の知美とは半年も別居中で、大学の勉強に意味を見い出せない一人娘の舞は、サボって何日も外泊する有様だった。
営業販売部の課長の木部は、昭夫とは大学からの同期の友人で、同窓会の幹事として屋形船を企画したからと、下町出身の昭夫に相談を持ちかけた。自身にはコネが無いため、久しぶりに実家の母親を訪ねる昭夫。母の福江は隅田川沿いの向島の足袋屋の女房で、夫の死後は細々と取り寄せ販売を続けているのだ。地元の主婦たちと始めたホームレス支援のボランティア活動が忙しく、話す時間がなさそうな福江。昭夫は自身の仕事や家庭の苦労についても秘密にしたまま、この日は一人住まいの寂しい家に帰って行った。
上司から早期退職(リストラ)を勧告されたと人事部長の昭夫の元に怒鳴り込んで来る木部。いくら友達でも会社の機密事項を事前に話すことは出来なかったとしか答えられない昭夫。その夜、娘の舞が福江の家にいると妻の知美から連絡を受け、訪ねて行くと、別居の件も全て福江にバレていた。
その夜は実家に泊まった昭夫だが、翌日には木部までが実家に押し掛け、ボランティアもいる前で恨み言を言って、絶対に会社は辞めないと言い放った。帰りがけには、母の福江が恋をしていると舞から聞かされる昭夫。福江と、ボランティアのメンバーである教会の牧師・荻生は、清く淡い恋心を抱きつつ互いに隠している間柄だが周囲には見え見えで、息子として許せない昭夫。
退職を拒否した木部は仕事も無いのに会社に通い続け、外された企画会議に無理に参加しようとして、故意ではないが上司に怪我をさせ、懲戒解雇が決まりそうだった。もう人事はウンザリだと福江にグチを言う昭夫。牧師の荻生も昔は大学教授だったが、出世競争に嫌気が差して牧師になったと語り、昭夫はまだやり直せるとアドバイスした。福江から、妻の知美と会ったが彼女には好きな人がいるようだと知らされ、いよいよ身辺が身軽になったと感じる昭夫。
牧師の荻生からピアノ・コンサートに誘われ、嬉しいデートを楽しむ福江。だがそれは、荻生が北海道の教会に転勤することを知らせるための彼の心遣いだった。母親が失恋したと聞いて内心はホッとする昭夫。
人事部長として木部の懲戒解雇を取り消し、希望退職に変えて退職金の割り増しや再就職も世話する昭夫。役員会の決定に逆らった昭夫は、会社をクビになり無職となった。
荻生を信者たちと共に北海道に送り出し、意気消沈する福江。そんな福江に離婚したことと会社をクビになったことを知らせる昭夫。自分の不幸が倍増したと嘆く福江だったが、昭夫から舞と共に実家の世話になりたいと提案された彼女の顔には、新たな活力と笑顔が浮かぶのだった。
と、いった内容。
で、観終わっての感想。
会社組織で歯車になる昭夫
主人公の昭夫は、都内の大手企業に勤める会社員。出世街道にも乗り日々を過ごしている。一見、順調に見える人生も、実のところ妻との間には大きな溝ができ、別居状態である。家庭が順調でないが、会社では着々と任務をこなす。そんな昭夫の姿を見ていて、完全に歯車の一つにしか過ぎないことに気づく。
会社組織なんて、所詮そんなものなのかもしれない。
人生も終盤を迎えている富江
昭夫の母は、亡き父からの店を下町で引き継いでいる。
もう人生も終盤を迎えている年齢。そんな中でも、日々の少しの楽しみを大事に生きている。年齢的にもう人生が大きな変化をしてゆくようなこともない。息子や孫の心配、近所のボランティア活動、牧師さんにちょっとした恋心を持ったり、という中で日々を重ねている。
では、彼女が不幸なのか。ボクにはこの何気ない日常が、彼女の幸せに見えた。
時代の流れについて行けない木部
昭夫の学生時代の同期で、同じ会社に勤める木部。
時代と共に彼の生き方は会社組織に合わなくなってきている。観ていて気の毒になるが、きっとこの姿は今の若者の将来であるかもしれないと思ったりする。時代は変わるのだ。今の時代もいつかは昔になり、新しい人たちからは煙たがられることも起こる。
新時代を歯車で乗り切る昭夫、それに対し不器用で退ききれない木部。
同じ年のけれらの姿が、とても対照的に感じた。
人生、何が幸せなのかを考えた
昭夫、母、木部。
それぞれ、それでも人生を生きてゆく。
幸せな人生とは何なのだろう。
平和でのんびりとした下町が舞台の映画に、そんなことを考えさせられた映画であった。