第2日程の方が簡単だった!?共通テスト国語 第2日程 第1問 評論を高校教師が解いてみた
共通テスト 第2日程 国語 第1問 評論「『もの』の詩学」多木浩二
1椅子の「座」と「背」の二つの問題
椅子の面に接触ー体重による圧迫、血行阻害
上体を支える筋肉の緊張ー苦痛
椅子は身体に生理的苦痛
2一七世紀ー椅子の背の後傾ー筋肉の緊張の緩和のため
リクライニング・チェア、車椅子の発明
3一七世紀ースペイン王フェリーペ二世の車椅子ー後脚を斜め後ろに、キルティングで覆った背は傾き調整でき、横臥に近い姿勢
4椅子からの圧迫を和らげる努力ークッション
ステータスを表示する室内装飾の一つー政治的特権、階層性と結びつく
5椅子とクッションの結びつけの技術ー一七世紀に発達
硬かった椅子のイメージを軟らかくしたー椅子の概念の変化=近代化ー身体への配慮から
6椅子を成立させた思考、技術ー限られた身分の人間の身体への配慮で形成された
社会的な関係、身分に結びつく政治学をもつ
身体という概念ー文化の産物、文化的価値
7着物をまとった身体ー椅子の形態に影響
衣装ー宮廷社会という政治的な記号
8ブルジョワジーー宮廷社会の文化を吸収する
支配階級の身体を引き継ぎ、働く身体に結びつけ、固有の身体技法を生み出すー身体は政治過程を含む
読解のポイントは、一七世紀、政治的な記号です。論旨は単純でつかみやすいが、具体例が多いので細かい部分の読み取りが煩雑です。
問1漢字
(ア)イダかせ 「抱く」なので2「抱負」が正解
(イ)センイ 「繊維」1「維持」が正解
(ウ)コジ 「誇示」3「誇張」が正解
(エ)ミオトり 「見劣り」4「卑劣」が正解
(オ)ケイフ 「系譜」2「譜面」が正解
問2「もうひとつの生理的配慮も、背の後傾とどちらが早いともいえない時期に生じている」どういうことか。
傍線部「もうひとつの生理的配慮」とは座面の圧迫のこと。「どちらが早いともいえない時期」とは一七世紀を指します
根拠は2段落「一七世紀の椅子の背が後ろに傾きはじめたのは」、4段落「椅子から受ける圧迫を和らげる努力は古くから行われてきた」「古代からクッションが使われてきた」、5段落「椅子とクッションが一六世紀から一七世紀にかけてひとつになりはじめた」
散らばっているので、見落とさないように注意。
2が正解。4が紛らわしいが、「エジプトやギリシャにおいて~」は古代からあるので×
1は車椅子のことだけをいっているので×
3は椅子の背のクッションのみなので×
5は「それ自体が可動式の家具のようにさえなったクッション」が×
これは間違いやすい問題なので、注意です。
問3「実際に椅子に掛けるのは『裸の身体』ではなく『着物をまとった身体』なのである」どういうことか。
根拠は、7段落「衣装は一面では仮面と同じく社会的な記号としてパフォーマンスの一部である」「文化としての『身体』は、さまざまな意味において単純な自然的肉体ではないのである」「衣装も本質的には宮廷社会という構図のなかに形成されるし、宮廷社会への帰属という、政治的な記号なのである」
1は「身体に配慮する政治学の普遍性」が×
2は文化的な記号としての側面もあったとあるので、これが正解
3は「解剖学的な記号として」が×
4は「仮面のように覆い隠そうとする政治的な記号」が×
5は「生理的な快適さを手放してでも、社会的な記号としての華美な椅子が重視」が×
問4「『身体』のしくみはそれ自体、すでにひとつの、しかし複雑な政治過程を含んでいるのである」どういうことか。
根拠はこれまでの主張に8段落のブルジョアジーについての言及を踏まえて考える。
ブルジョアジーは「宮廷社会がうみだし、使用していた『もの』の文化を吸収するのである」、支配階級の所作のうちに形成された『身体』を引き継いで、はたらく『身体』に結びつけ、充分に貴族的な色彩を持つブルジョワジー固有の『身体技法』をうみだしていた」
1は「実用的な機能ではなく、貴族的な装飾や快楽を求めるようになった」が×
2は「宮廷社会への帰属の印として」が×
3は「宮廷文化を解消していくという側面」が×
4は「働く『身体』には『もの』の機能を追求し、それに応じて『もの』の形態を多様化させる潜在的な力があるということ」が×
5は「社会的要素がからみ合い、新旧の文化が積み重なっている」が根拠の内容と合っているのでこれが正解。
問5 文章の構成と内容に関する説明
選択肢を順に吟味します。
1は「本文での議論が最終的に生理学的問題として解決できるという見通しを示し」が×。
2は「6段落以降でもこの変化が社会にもたらした意義についての議論を継続」が×
3は「社会的あるいは政治的な記号という側面に目を向ける必要性」が論旨に合っているのでこれが正解。
4は「5段落までの『もの』の議論と6段落からの『身体』の議論の接続を行っている」が×
問6 六人の生徒が、具体的な例にあてはめた意見を発表し、本文の趣旨に合致しないものを二つ選ぶ。
1は「それぞれの環境に抵抗して心地よく暮らしていくための工夫がいろいろ試みられ」が×なので、これが合致しないもの。
2は「一体感を生み出す記号としての役割も」は○
3は「その扱い方には様々な『身体』的決まり事があって、それは文化によって規定されている」は○
4は「西洋の貴族やブルジョアジーの『身体』にまつわる文化的な価値を日本が取り入れようとしたこと」は○
5は「スマートフォンの登場によって」「新しい『もの』がそれを用いる世代の感覚やふるまいを変え、さらには社会の仕組みも刷新していく」が×。これが合致しないもの。
6は「帽子には日射しを避けるという機能とは別の『身体』のふるまいに関わる記号としての側面もあるのではないでしょうか」が○
選択肢の分量があるので、限られた時間内であら探しをするのが大変です。内容は簡単でした。
まとめ
出典は多木浩二『「もの」の詩学』です。抽象度は高くないですが、論理の展開に感心するほどでもなく、文章の内容はやや読み取りにくかったです。
選択肢の細かいあら探しをするという解法は、従来のセンター試験と同じものです。問6の話し合いの導入も目新しいものではありません。
共通テストに変わって、ここが新しいといえるものが見当たらない、残念な印象を受けました。
次は多少変えてくるでしょうが、この路線のままなら、対策はセンター試験の過去問をやることが効果的だと思います。