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”引き寄せる力”は自分の中にある。~姉の作るお菓子がプロすぎる件

子どもの頃、お菓子作りが好きだった。
母が会社の人たちとベターホームのパンとお菓子教室に通っていたから、オーブンやケーキの型など必要な器具は家に揃っていた。それで始めやすかったということもある。
今でこそ100均で何でも揃うが、1980年代前半はまだケーキ型を何種類も持っている家庭など、そんなになかった。

私と姉は、見よう見まねでお菓子作りを始めた。
最初はクッキーから。
型抜きや絞り、アイスボックスなど、いろんなタイプのクッキーを作った。

それから簡単なスポンジケーキ(いわゆるいちごショート)やキャロットケーキ、パウンドケーキ、チーズケーキ(スフレタイプ)、タルトなどいろいろなものを作って楽しんだ。

一番得意だったのはシュークリームだ。小学生が作るにはやや高度だったが、何回も練習して美味しく作れるようになった。
大学時代には「この世でいちばん美味しいシュークリームを作るんだ」と、材料から徹底してこだわり、自分の理想のシュークリームにたどり着いた。

それくらい好きだったお菓子作りだが、社会人になってからは忙しすぎて、パタっと作るのをやめてしまった。
それでも26歳で家を出て一人暮らしを始めたとき、お菓子の道具はすべて持っていった。
9年の一人暮らしの後、夫と結婚するのだが、その時も捨てなかったので、今もキッチンの棚のかなりの部分をお菓子道具が占めている。
たまには活躍させてあげたいと思うのだが、今は情熱がない。道具たちは出番のないままだ。

私がお菓子作りから離れていったのに対して、姉は結婚してからどんどんお菓子作りにのめり込んでいった。
彼女の味覚はとても正確で、昔から美味しいものを見つけるのが上手だった。
まだ「紅茶」といえば、「レモンティー」か「ミルクティー」しかなく、砂糖を入れて甘くして飲むのが定番だった時代から、茶葉にこだわりストレートで飲むことを好んでいた。
私がその後、紅茶マニアになったのは、間違いなく姉の影響だ。

姉も私もかなりの甘党で、一時期流行った「甘さ控えめ」のスイーツには嫌悪感を抱いていた。
「甘すぎる」「後味がベタつく」というのは、単に美味しくないからだ。甘さを追求しても美味しいお菓子はあると信じていた。

姉は、自分が「この人のお菓子は美味しい」と思った先生を選び、いろんな教室にも通っていた。
今はわからないが、当時は確かにその先生たちのお店は流行っていたし、美味しかった。
ただ、ダンナさん(私の義兄)の仕事の都合で、娘も連れて3年間シンガポールで暮らすようになったことをきっかけに、教室に行かずに自分で研究するようになった。

日本に帰ってきてからもお菓子は作り続けていて、実家に集まる時はいつも何か持ってきてくれた。これがひいき目なしにうまいのだ。私の夫など、「姉ちゃんのお菓子が世の中で一番うまい」と言うほどだ。

彼女は私と違ってお酒を飲まない。アルコールがほぼ無理な体質で、ビールひと口でも真っ赤になる。父もそうだから、遺伝なのだろう。(じゃあ、なぜ私はこんな酒呑みになったのか、という話は置いておこう)
だから、彼女の嗜好品はスイーツ。3日に一度は何か作って食べている。
去年、「記録のためにお菓子のインスタ始めるわ」と言い出して、おっかなびっくりインスタに自分のお菓子を上げ始めた。
「身内だけ見てくれたらいいねん」と言っていたが、見てみると、身内だけで見ておくには惜しいほど美しかった。
そう思ってくれた人が世の中に何人かいたようで、少しずつフォロワーも増えている。
(この流れだと、今はすごいインフルエンサーとして活躍している、みたいなオチがありそうだが、そんなことはない。ひっそり活動している)

最近のものを少しご紹介。

父の誕生日に
母の誕生日に
お月見の日
可愛すぎやろー!
夏の涼しげな桃ゼリー
オンライン教室だけど、
マカロンを本格的に習い始めたらしい
美しい😍
どうやって作るの?笑

先月、お盆休みに実家に集まったときは、私のリクエストで、フルーツを使った夏らしいスイーツを作ってくれた。

ジャンケンで取り合った。笑


それから、私がスノーボールが大好きなので、お土産に欲しいと言っていたら、それも作ってきてくれた。

プレーン、抹茶、いちご


こんなに腕があり、お菓子が好きなのだから、お菓子に関係する仕事をすれば?と何度も勧めたのだが、「住んでいる滋賀には店がない」とか、「フルタイムは無理」とか、うだうだ理由をつけて、近所のよくわからない事務所の電話番(?)みたいなバイトをしている。

このお盆休みに会った時も、「今の仕事いやだ」と文句ばかり言うので、ちょっと喝を入れた。

「そんな文句ばっかり言うなら、ほんまに好きな仕事を探したら?」

「自分でできる範囲でお店をやったらどう?滋賀なら土地も安いし、物件探して、趣味の店程度でもいいから始めたら?」

夫も一緒にいろいろアドバイスしたら、ついに重い腰を上げた。
「わかった。お菓子のことやりたいから、出店の仕方とか勉強してみる」

56歳の挑戦だ。
姉は努力家なので、大きなことはできなくても何かしらお菓子に関する仕事ができるのではないかと期待した。大学のときに栄養士の資格も取得しているし、「食」にこだわる人なのだから、少しでも夢に近づいてほしいと思った。
少なくとも、楽で家から近いという理由だけで「誰でもできる仕事」を選び、「仕事が暇だ」「職場の人が嫌だ」「一生懸命やっても報われない」と文句ばかり言う生活から脱出してほしかった。

この後、どうやら出店や経営に関する本を読んで勉強したらしい。
「私は何もないから、ここを逃したらもう働く場所がない」と言って、いやいや勤めていた事務所も辞めた。
さて、「そして実際に店を出しました!」という結果なら物語として面白いのだが、現実はそんなに甘くはなかった。
彼女が出した結論は、「やっぱり自分でお店をやるのは無理。難しすぎる」だった。

それは残念だったが、文句をたれるしかない職場を辞めて、お菓子のことをやろうと真剣に向き合っただけでもよかったと思った。
そうしたら、姉からこんな知らせが来た。
「老舗のチーズケーキ屋さんで求人があって、無理とは思いながらも応募したら受かった。今そこで働いている」

単なる販売スタッフのようだが、それでも事務所の電話番よりはるかに姉がやりたい仕事に近いじゃないか。
意外な展開にびっくりしたが、よかった~と思った。
やはり、いわゆる「引き寄せの法則」というのはあるのだ。
もういいやとあきらめて、不平不満ばかり言っていたら、運気は下がる。
でも、姉は勇気を持って「ラク」を手放して、やりたいことに真摯に向き合った。そこから運命は変わったのだ。ぐいーんと好きなお菓子の仕事が引き寄せられたのだと、私は思う。

なぜなら、私もいつもそうだったから。
日本酒のことを書きたいと毎日思って、目の前にあることを懸命にやっていたら、本当にあり得ないところから、日本酒の業界誌を書く仕事が舞い込んだ。
そんなことが他にもたくさんある。仕事以外のことでも。

姉がこれからも大好きなお菓子に関わりながら生きていけたらいいなと思う。彼女も「お菓子作り」に出会えただけで、人生勝ち組だ。
私も負けないように、自分の力(思い)でしっかりと好きなものを引き寄せよう。

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