クラフトビール醸造家たちの物語を書きたい。
そろそろ何か新しいことを学んでみたいと思っていた。
ただ、新しい分野の知識なのか、ライティングの技術なのか、それすらはっきりと定まらないまま、日々だけが過ぎていた。
ある時、友人が「ビール醸造家になりたいんです」と言い出した。彼女は私よりひと回り若い。仕事で出会い、時々飲みに行く仲だ。
一緒に京都のクラフトビールを飲みに行き、話を聞かせてもらった。
地頭が良く、周りがよく見え、バイタリティがあり、器用で能力の高い彼女。その上、優しさと社交性まで兼ね揃えている。年下だけど、私の憧れのような、そんな存在だ。
彼女ならその夢も叶えられるんじゃないかと、自然に思えた。
いろいろ話を聞いていると、「ビール醸造講習会」に参加するという。5日間の講習で、なんと無料!
私が興味津々なのを見て、彼女は「かおり先輩も一緒にどうですか?」と誘ってくれた。
「ほんまやね、私も行こうかなー」そんな軽いノリだったが、講習会の内容を見ていると、どんどん興味がわいてきた。
もともと日本酒に限らず、ビールもワインもウイスキーも好きな私。それは「飲む」ことはもちろんだが、「造る」工程や「アルコール発酵」に興味があるわけで、ビールの醸造を学んでみるのもいいかもしれないな、と思った。
それに、彼女が「かおり先輩、いろいろ相談にのってくださいね」と言ってくれるので、少しでもビール醸造の知識があれば、今後何か力になれることがあるかもしれないとも思った。
それは、単純に相談事のアドバイスもそうだし、たとえばホームページやパンフレットを作るときでも、知識があるのとないのとでは大違いだ。
また、新しい知識や人との出会いによって、ライターとしての仕事にもプラスになることがあるかもしれないとも思った。
そこで早速、彼女と同じ期間に申し込んだ。本当は2月だったが、感染予防対策で延期になり、結局4月中旬に。2か月待って、ようやく講習を受けることができた。
講習会は、大阪府摂津市にある大阪サニタリー株式会社が開催している。
飲料・食品工場向けプラント設備を多数手掛けてきた会社で、クラフトビール醸造設備 アメリカNo.1のABE(American Beer Equipment)と提携し、醸造システムの設計から設備の導入までトータルサポートしている。
つまり、マイクロブルワリー(クラフトビール醸造所)を開設したいという人たちを募って育て、自社の醸造設備や機器を導入してもらうことを目的とし、無料で講習会を開いているのだ。
営業の一環と言ってしまえばそれまでだが、私はこういう「業界の裾野」を広げるような活動を積極的にされている企業というのは、本当に素晴らしいと思う。
▼詳しく知りたい方はこちらから▼
さて、実際に5日間(10時~17時)、講習会に通ってみた感想だが、とにかく楽しかった。
私は新しい知識を仕入れるのが好きなので、久しぶりに真面目に“勉強”して、自分の脳が活性化するのがわかって嬉しかった。若返った気持ちだ。
講習会の内容は、
●ビールの原料、仕込み・発酵工程、微生物管理、充填作業などを、講義だけでなく実際に工場に設置された設備を使って説明を受ける
●ビール醸造所を開業するために必要な免許取得、酒税法について学ぶ
●設備、原材料の手配先等の紹介
●ビールの種類概論、レシピ概論
●鍋仕込み実習
●ビール試飲による官能評価
と、とても充実したものだった。
ビールの醸造を学ぶと、いかに日本酒の醸造工程が繊細で難しいものかということに改めて気づいた。
ビール醸造は簡単だ。だが、日本酒と違った面白さがある。それは「自由度」というところかもしれない。
ビール(発泡酒)は原料の幅が広く、その配合割合によっても無限にいろいろな種類のビール(発泡酒)ができる。
「地方創生」「町おこし」のツールとしてクラフトビールが使われるのは、この「自由度」があるからだろう。
たとえば、その町の名産品(フルーツなど)をビールに配合することで、その土地をアピールすることができる。オリジナリティを出せるという意味で、無限に可能性がある。そういう楽しさを感じた。
また、同じクラスで学んだのは10人だったのだが、なんとなく仲良くなった6人で5日間の講習期間に2回も飲みに行った。
講義が終わった“放課後”に、皆で集まってワイワイと飲みに行く。あの感じが学生時代を思い起こさせてくれて、高揚した。
年齢は20代~50代までいろいろ。すでにビール醸造所を開業している人もいれば、来年開業予定の人もいたし、まだ具体的な予定はない人や学生さんもいた。
ビールを飲みながらいろんな話をしていて、気がついたら私は「ビール醸造」よりも「ビールを造る人たち」に惹かれていた。
クラフトビールの醸造所はすでに日本全国に500以上あるが、これからもっと増えていくと思う。
日本酒は数百年続く歴史も含めて魅力なのだが、クラフトビールはそれとは真逆の「これから始める」起業家たちのものだ。ライターとしての私は、そこに魅力を感じた。
私はもともと酒造メーカーに限らず、いろいろな業界の“はたらく人”を取材して書くということを生業としてきた。“はたらく人”のおもいを聞いて書くのが一番好きなのだ。
ビール醸造家の卵たちの話を聞いていると、ライター魂がむくむくと顔を出し、彼らのことを追って書きたくなってしまった。
なぜビール醸造なのか。
どうやって開業(起業)したのか。
どんなビールを造り、そのビールで何をしたいのか。
彼ら、ビール醸造家たちを取材して書いたらきっと面白いものができる。
そしてそれは、ビールという業種以外で「これから起業したい人」たちにとっても、何かしら起業のヒントになるものになるのではないかとも思った。
私にも新しい夢ができた。
それは、全国のクラフトビール醸造家たちの“起業ストーリー”を取材して記事にしていくということ。紙媒体は難しいので、まずはWEBでスタートして、いずれはクラフトビールのポータルサイトみたいなものに発展させられたら面白いかもしれない。クラフトビールのイベントを開催したり、企画商品を作ったり、というところまでできれば最高。
久しぶりにワクワクが止まらなかった。
やっぱり自分のひらめきを信じて、講習会に参加してよかったと思った。
一歩前に出てみれば、必ず新しい出会いと道があるのだ。