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ひさびさに、ひとり愉しく読書の時間。本の読める店「フヅクエ」にて

ひとりで、ゆっくり本を読む。物語に没頭する。

そんな時間をひさびさに満喫するために、“本の読める店”「fuzkue(フヅクエ)」の店主・阿久津隆さんのもとを訪ねた。

ひっそりと読書好きたちを待つ開店前の初台店で、フヅクエという場所が生まれるまでのストーリーや、自宅でフヅクエ的読書環境を楽しむ方法を聞いた。

唯一無二の「本の読める店」フヅクエ

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さまざまなコンセプトのカフェが街には存在するが、フヅクエは“時間を気にせず読書に没頭できる空間”というコンセプトのもと2014年に東京・初台に誕生。料理・軽食・お酒も豊富に取り揃えながらも、店内では私語厳禁。さらにはPCを使った作業、ペンを使った勉強、動画視聴、ゲームそのいずれも禁止と、まさに「読書」のための細かいルールが数多く設けられている。

「きっかけは岡山でカフェを運営していたころでした。仕事終わりや休日にゆっくり本を読みたいと思ったとき、理想的な読書環境を提供してくれる場所になかなか出会えなかったんです。とくに参考にしたお店があったわけでもなく、自分がほしいと思う場所を作り上げていった感じです。たとえば、本を読みやすい小洒落た喫茶店も、フードメニューが少なくて『小腹すいたな』って思うことがある。それはそれで長居しづらくなるから、ここではトーストだったり定食だったり、幅広く提供できるようにしています」

フヅクエの特徴は、料金システムにも垣間見える。いわゆる「オーダーするごとに小さくなっていく席料制」で、700円のコーヒー1杯を頼むと、通常の席料900円が加算。ただ、コーヒー2杯を頼むと席料300円と、追加するごとに席料が安くなっていく。

「飲み物1杯だけ、または食事を注文しても、だいたい2,000円前後にはおさまるようになっています。この仕組になっていることで、『もう帰ったほうがいいかな』『もう少し頼んだほうがいいかな』という遠慮を感じずに過ごしてもらうことができる。平均の滞在時間が2時間30分だったことから、2時間30分過ごす人にとって一番いい仕組みはどんなものだろう、と考えた結果、こんな形になりました。画期的な取り決めだったなと」

誰からも攻撃されない「優しい空間」

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開店7年目を迎え、昨年からは短時間集中して本を読みたい人のために、短時間での利用がしやすくなった“1時間プラン”を導入するなど「本の読める店」としての試みは増えている。だがスタートした当初は「看板がない」「2階にある」といったハードルの高さからも、客足が鈍かったという。

「『Webで情報が広まったらある程度は来るはずだろう』とタカをくくっていたんですが、甘かったですね(笑)。それに、支払いの仕組みが決まる前は、メニューに値段もつけず『お好きな金額をお支払いください』という、目新しいものだったので、“イロモノっぽいお店”という認識だったんじゃないかな。アップデートを重ねていくことによって、だんだんと良いリアクションがもらえてきて、それが続けていく励みにもなりました」

このお店を「誰からも攻撃されない『優しい空間』」と形容する阿久津さん。長い時間過ごしたお客さんからは意外な反応をされることが多い。

「だいたい、飲食店って帰るとき『ごちそうさま』と言われると思うんですが、うちは結構な頻度で『ありがとうございました』と言われるんです。僕自身、飲食店で言う機会はあまりない言葉で、だからただの飲食店じゃない、プラスアルファの価値が提供できているのかなって」

読書の愉しさは「繭」のようなもの

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「フヅクエ店内には阿久津さん所蔵の古今東西幅広いジャンルの本が並ぶ」

学生時代から読書を愉しみ、いっときは小説家への道も考えていた阿久津さん。サラリーマンになっても、車で営業先を回る間、こっそりと“読書休憩”をしていたことも。

「文章、言葉は小学校からずっと好きで、とくに忘れがたいのが高校の時、村上春樹を貪るようにして読んでいたことですね。一番没頭して読書していた時期だったと思います。ここのところまとまった読書時間を過ごせていないんだけど…最近だと、中南米のラテン文学を立て続けに読んで、面白かったですね。お店にも置いてある『アルテミオ・クルスの死』(岩波文庫/カルロス・フエンテス作・木村 榮一 訳)とか」

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巷では、読書によって「記憶力や集中力が向上する」「ストレスレベルを低下させる」など、さまざまなメリットが語られ出しているが、阿久津さんが読書をどのように捉えているのだろうか。

「外界を遮蔽する『繭』みたいなものですかね。音楽や映画でも同じだと思うけど、そこに書かれている物語を読んでいるときは、自分だけ別の世界で過ごせているというか。それがずっと自分を助けてくれてきたと思うし、フヅクエもお客さんにとっての『繭』みたいな存在でありたい」

阿久津さんに聞く「ひとりの読書時間」のはじめ方

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昨年は、コロナによってもれなくフヅクエも煽りを受けた。時短営業、完全予約制への一時移行が余儀なくされ、“いつもと違う光景”が続く日々。それでも、Twitterのハッシュタグ上で読書の報告をする「#フヅクエ時間」や、「いつか行くフヅクエ券」の販売と、できることは実行し続けてきた。

「あくまでここは『フヅクエが提案する読書空間のひとつのあり方』であって、『これ以上の読書空間はない』という考えは最初から持っていません。どんな場所での読書が気持ちいいかは人それぞれだと思うので。それもあって、営業がままならない時期は、自宅や通勤電車の中で本を読む人をエンパワーメントするようなことができないかな、と思って活動していました。本を読みたい人の“読書スイッチ”を押すことも、フヅクエが担える役割なんじゃないかと思って」

さきほどの取り組みの他にも、岡山県在住の音楽家・nensowによる、“読書に合うアンビエントミュージック”のCD発売・配信も行うなど意欲的だが、実際のお店でやっていきたいこととは。

「具体的なアイデアはないですが、読書の時間の『枠』をもっとつくってあげるみたいなことはできるような気がします。読書って、“制限されること”がプラスになることがあって、昨年できた『1時間プラン』も、帰る時間が決まっているからこそギュッと集中して読めるし、お客さんからも満足の声が多かったですね。」

「映画館と同じぐらいに」これからのフヅクエが考えること

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フヅクエのホームページで阿久津さん自身が執筆している日記には、年始めに「目標」が掲げられているが、長期的な展望はあるのだろうか。

「シンプルに、フヅクエを増やしていきたいですね。いま、初台のほかに下北沢にもお店があるんですが、今年春には西荻窪にフランチャイズ店ができる予定なんです。下北にできるときよりも大きなリアクションがあったから楽しみ。『うちの街にも作ってほしい』という要望なんかもいただいていて、最終的には映画館と同じぐらいの数が作れたらなあと」

ただ店舗を増やすとはいえども、そこには「会社を大きくする」「利益を追う」とはまた異なる背景が存在する。

「僕自身がそういう人間の一人である、『本を読んで過ごすのが好きだ』という人たちにとって愉快な世界をつくることに与したいですね。本の読める店が各地にあったら、ない世界と比べたら絶対に豊かじゃないですか。そこに映画館があることによって『映画文化』が、スキー場があることによって『スキー文化』が広がっていったように、本の読める店がたくさんあることによって、本の文化の何かを支えることもできるかもしれない。また店舗に限らず、本を読むことを言祝ぐような取り組みをたくさんしていきたいですね。この先、フヅクエはより開かれたものになっていくと思っています」


SHOP DATA

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本の読める店 フヅクエ

初台店
渋谷区初台1-38-10 二名ビル2F
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下北沢店
世田谷区代田2-36-14(BONUS TRACK内)
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営業時間:12時開店 閉店時間および店休日はこちらから

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初めて訪れる方は、来店前に公式サイトの「本の読める店フヅクエ」とは を一読しておくのがおすすめ。


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