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サンフランシスコで合成生物学ベンチャーを起業する

はじめまして。Taxa Technologiesの福永祐一(X/Twitter: @bluemoon_yuichi)と申します。

2023年5月にアメリカ・ウィリアムズ大学を卒業し、同年10月にドイツ・マックスプランク研究所の博士課程を中途退学して、サンフランシスコでバイオベンチャーを共同創業しました。組換え微生物を用いた新たな有効成分の研究開発に取り組んでいます。

先月、アメリカのVCとエンジェル投資家の皆様方から、プレシードラウンドで$2.5M(約3.7億円)の資金調達を行いました。アメリカの合成生物学学会SynBioBetaのEmbriette Hyde博士(Forbes 30 Under 30 - Science)に取材いただきましたので、詳細はぜひこちらをご覧ください。

アメリカの大学寮の一室でアメリカ人とバイオベンチャーを創業して、ドイツの博士課程に進学・中退して、日本とアメリカで資金調達の活動を行い、現在はサンフランシスコで研究開発に取り組んでいます。まだまだ未熟者ですが、これから起業を目指されている方、米国市場に挑戦される方、アカデミアを辞めて起業されようとしている方、日本・アメリカでエクイティ調達を目指されている方など、多方面の皆様に、私の経験を参考にしていただければ幸いです。


マックスプランク研究所での博士課程を辞めるまで

私は幼少期を大阪府・兵庫県で過ごしました。西大和学園高等学校を卒業したタイミングで上京し、慶應義塾大学の経済学部に一学期間ほど在籍した後、一年間ほどのギャップイヤーを経て、アメリカのウィリアムズ大学に進学しました。

ウィリアムズ大学の様子

ギャップイヤー期間と学部前半は、エムスリー株式会社、ユビー株式会社などのヘルスケア企業で長期インターンとしてお世話になりました。その他、各方面で様々な挑戦をさせていただき、将来は、「技術革新を用いたインパクトのある事業を作る」と意気込むようになりました。

その中でも、理化学研究所 脳神経科学研究センターのJohansen研で研究インターンをさせていただいたことがきっかけで、神経科学・ニューロサイエンス研究に興味を持ち始めました。学部後半は、ウィリアムズ大学のCazares研でマウスをモデル生物とした記憶の研究に取り組んでいました。筆頭著者として日米の学会でポスター発表をさせていただいたり、学会で賞をいただいたり、卒業時には神経科学プログラムの最優秀賞をいただくことができ、非常に恵まれた環境の中、研究者の卵としての第一歩を踏み出し始めていました。

2022年Society for Neuroscience (SfN)@サンディエゴでのポスター発表の様子

事業会社でインターンを経験したこともあり、将来は神経科学の研究内容を活かした事業に取り組みたいと考えていました。しかし、バイオ・ヘルスケア領域においては科学的信用が重要であるということ、今後より(特にPhDが重視される地域における高等教育機関での)博士課程が価値を生みそうであるということ、そして何より、博士課程でより挑戦したい研究テーマがあったということから、ドイツのマックスプランク研究所の博士課程への進学を決めました。ドイツは日本と同じように学部→修士→博士と修士課程を経るのが一般的ですが、幸甚なことに修士課程を経ずにStempel研に採用していただきました。

マックスプランク脳科学研究所(Max Planck Institute for Brain Research)@フランクフルトアムマインの様子

この博士課程への進学が決まったタイミングで、現在の共同創業者のXaviに声をかけてもらいました。将来、「技術革新を用いたインパクトのある事業を作る」という目標を掲げていた私は、その日から半年間ほどプロボノで研究開発や事業開発に携わることにして、最終的には共同創業者としてTaxaにジョインしました。

ウィリアムズ大学を卒業後、一度ドイツのマックスプランク研究所の博士課程に進学しました。フランクフルト・アム・マイン郊外にある研究所で、ラボメンバーにも恵まれた非常に充実した研究生活を送っていました。一方、時差がある中、事業と研究を両立させることは非常に難しいと感じたことや、資金調達の目処が立ってきていたこと、何よりも、今後より合成生物学・マイクロバイオーム研究が盛り上がる中で、Taxaで取り組んでいる研究・事業内容でマーケットを取れるチャンスは今しかないことから、PIとラボメンバーとコミュニケーションを取って理解を得てから、博士課程を中途退学しました。

日米での資金調達

起業初期には、多くの課題が立ちはだかりますが、中でも資金調達は大きなハードルの一つです。

私たちは、まずネットワークを広げるところから始めました。アメリカでは、ウィリアムズ大学のOB/OGに連絡するところから始めて、そこからVCやエンジェル投資家をご紹介いただきました。日本では、以前イベントなどでお世話になった先輩起業家やエンジェル投資家、VCの皆様に多方面にお引き合わせいただきました。また、コールドメールを送ったところ興味を持っていただき、投資検討にお時間をいただき惜しみないフィードバックをいただけた投資家も数多くいらっしゃいました。この場を借りて、改めて感謝申し上げます。

結果として、非常にありがたいことに、プレ・シードラウンドのクローズ時には、調達予定額を超える投資家からのコミットメントをいただくことができたのですが、道のりは非常に険しいものでした。振り返ってみると、その険しさにはいくつかの要因があったように感じられます。

一つ目に、マクロ要因です。我々が資金調達のために動き始めたのは2023年秋になりますが、「スタートアップ冬の時代」真っ只中でした。つまり、アメリカでは資金調達が非常に難しい状況にありました。

当時、サンフランシスコ・ベイエリアでは生成AI以外での資金調達は非常に厳しいという声をよく耳にしました。もちろん、私たちの事業に可能性を感じてもらうことができなかっただけかもしれませんが、「コロナ禍のスタートアップ・バブルの時であれば、もっと高いバリュエーションで、もっと早く調達できただろうね」と言われることも少なくありませんでした。

余談ですが、スタートアップ冬の時代にも良いことはあって、優秀な人材が採用しやすい買い手市場になる、オフィス・ラボスペースに待ち時間なく比較的安価に入居できる、中古品が出回るためコストを抑えられるなどでしょうか。つまり、スタートアップ冬の時代には、資金調達が非常に難しくなるものの、事業を進める上で重要な人材やリソースの確保は進めやすくなるというメリットがあります。

結果、弊社の事業に可能性を見出してくださった投資家の皆様から資金調達を行うことができましたが、コロナ禍であれば、もしかするとより早く資金調達を終えることができたかもしれません。

二つ目に、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などの投資家との繋がりの少なさです。

将来起業することを目指しているのであれば、スタートアップ創業者や投資家とゆるいつながりを作ったり、きっかけづくりをすることが非常に大切だと改めて感じました。現時点で資金調達を行う予定がなかったり、起業予定がなくても、ネットワークを広げる機会があるのであれば、ぜひ参加して、ゆるく繋がっておくことをおすすめしたいです。

アメリカがコネ社会であることは有名な話かと思いますが、資金調達においても、「誰から紹介されたのか」「どこ大の卒業生なのか」が当初想定してたよりも重要でした。なかなか投資家からコミットメントをいただけない中、とある著名なエンジェル投資家が投資を決めてくださったことで、ドミノ倒しのように各方面からコミットメントをいただき、身をもって「誰が投資しているのか」の重要性を感じました。

最後に、です。

「ファンドの償還期限が迫っているので、投資回収に数年以上かかるスタートアップには投資ができない」

「過去、同じようなスタートアップに投資して失敗しているので、積極的に同分野への投資を決定できない」

「数ヶ月前にベンチャーキャピタルのパートナーになったので、個人でエンジェル投資をすることができない」

資金調達を進めるにあたって、想定以上に多かったのが不運(=外部環境)による投資見送りでした。ある意味、マクロ要因によって資金調達を行う創業者の運がよくなるかどうかが決まるのかもしれません。一方、不運によって投資見送りになるケースがいくつかあったことで、資金調達においてはシナリオプランニングが非常に重要であることを理解できました。つまり、上記した資金調達がうまくいかない要因が影響することによる、プランA、B、Cといくつかの資金調達シナリオを事前に議論・想定しておくことで、不運などの要因によってプランAが潰れてしまった時に、プランBやプランCなどの選択肢を事前に用意しておくことで、より論理的・着実に資金調達活動を続けられます。このシナリオの数ですが、プランE、Fくらいまでは最低でも用意したほうがいいなというのが経験則からの個人的な意見です。

Taxaで取り組んでいること

弊社では、合成生物学・マイクロバイオーム研究を通した、新たな有効成分の研究開発に取り組んでいます。そして、消費者の方のニーズに沿った、カスタマー・セントリックなパーソナルケア商品の開発に取り組んでいます。

弊社HP

昨今のゲノム編集技術や解析技術の高度化に伴って、微生物の代謝経路を改変することで、目的物質の生産量を増やしたり、新規の目的物質を生産することが可能になってきました。例えば、植物由来の原料を用いた蜘蛛の糸と同じタンパク質を産出する微生物(Spiber社)や、組換え微生物が産出した大豆由来ヘモグロビンを配合した人工合成肉(Impossible Foods社)などが生まれています。

細胞内分子や細胞、臓器を活用して物質を生成するバイオエコノミーの世界市場は、2030年~2040年に数百兆円に達すると予測されており(マッキンゼー調べ)、今後市場規模の大幅拡大が見込まれています。

2009年-2020年までの合成生物学分野に投下された民間・公的・グラント資金の総額(SynBioBeta調べ)。

同様に、マイクロバイオーム(微生物叢)研究も昨今注目を浴びています。解析機器の開発や検体処理技術の改良によって、細菌種レベルから細菌株レベルの解析へと、より膨大かつ詳細な解析データを基盤とした常在菌叢の研究が進んでおり、ヒトの常在菌叢(常在菌の集合)がヒトの健康状態に大きな影響を与えていることが明らかになってきました。例えば、ディスバイオーシス(多様性の喪失)や構成細菌組成の乱れによって、体調不良や疾患発症のリスクが高まることが示唆されています。

Nodake and Sugaya (2023) Japan Oil Chemist’s Society

Taxaでは、合成生物学・マイクロバイオーム研究を通した、既存成分と比較して、より効果的で、より安全な有効成分の開発に取り組んでいます。タイミングが来たら、具体的に取り組んでいる有効成分について開示していきますので、ぜひご期待ください。

最後に

大学一年次に共同創業者に出会い、四年次に共同創業者として大学寮の一室で夜な夜な作業をしていたところから、現在ではメンバー・パートナー・投資家にも恵まれ、サンフランシスコに研究拠点を構え、日々研究開発や商品開発に取り組んでいます。

為せば成る 為さねば成らぬ成る業(わざ)を 成らぬと捨つる人のはかなき

武田信玄

私の好きな言葉に、武田信玄の「なせばなる」という名言があります。有名な言葉なので、座右の銘にされている方も多いのではないでしょうか。この言葉の好きなところは、「なせばなる」の後に続いている後半部分で、「挑戦してみなければ成功しないようなことを、挑戦していないにも関わらず成功しないと諦めるのは無常だ」と言い伝えられています。今後、様々なハードシングスに打ち当たっても、諦めずに挑戦して、「技術革新を用いたインパクトのある事業を作る」という目標達成に向かって、日々研究や事業に取り組んで参ります。

Taxaでの研究内容・事業内容に興味のある方、カジュアルに話をしてみたい方など、何か私がお手伝いできることがあれば、ぜひお気軽にX/Twitterまでご連絡ください!また、今後Taxaで取り組んでいる研究開発や商品開発などについても呟いていくので、X/Twitterやnoteをぜひフォローしてください!


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