笑うマエストロ
2月に、演奏会用の黒いロングドレスを買いました。
これからの人生でもオーケストラを続けよう、と小さな覚悟と期待を込めて買った黒ドレスは、袋からも出されず、私の部屋の片隅に置かれたままです。
世の中の音楽家たち(プロもアマチュアも学生も)は今、演奏機会をほぼ全てと言っていいほど奪われています。
かくいう私も、出演予定だった演奏会が全て中止になり(3つくらいあった)、深く落ち込んでいるところです。
SNS上では、個人で録音した動画を集めて編集し1つの演奏を作り上げる、という企画が、いくつも目に飛び込んできます。
私も、参加してみました。
マンションに住んでいるため、周りへ配慮して控えめにしか音を出せません。数回練習して、「それなり」としか言えないクオリティで演奏動画を提出しました。
他の参加者の上手な演奏と編集者の腕によって、完成した演奏動画は素晴らしいものになっていましたが、あまり満たされた気持ちにはなれませんでした。
結局、私は、みんなと「合奏する」あの感覚が好きなのです。ひとりで演奏しても、楽しくない。
残念ながら、合奏するという空間は「密」でしかないので、いつまで自粛すればいいのか全く検討がつきません。
演奏会やコンクールの中止、という決断は、誰にとっても酷なことです。
同じメンバーで同じ曲目で演奏をすることは、もう二度とできない。全ての演奏会が、コンクールが、そのメンバーで一緒に演奏できる最後のチャンスなのに、私達は、ある日突然、それを奪われてしまう。一体誰がそんな世界を想像できたでしょうか。
そんなことを考えても、今の私にできることは、家にいることくらいしかありません。
おうち時間で何をしようかと考えた結果、学生時代の演奏会のDVDを見て想い出にどっぷり浸ることにしました。
その演奏会も奇跡のかたまりだったのだと、今なら痛いほどよく分かります。