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夜しかない世界

世界は静寂に包まれていた。

太陽が沈んだまま戻らなくなってから、何十年が経ったのか誰も正確には覚えていない。
昼と夜の概念は崩れ去り、闇がすべてを覆っている。
人々は「闇世(やみよ)」と呼び、その中で細々と生き延びていた。

闇の中での光は、空に散らばる星々と時折現れる不思議な青白い光の植物だった。人々はその植物を「月夜花」と呼び大切にしていた。
月夜花のかすかな輝きが村々を灯し、闇に飲み込まれることを防いでいた。

ステラは17歳の少女。
彼女は村から少し離れた小屋に一人で住んでいた。両親はステラが幼い頃に闇世の奥で行方不明になってしまった。それ以来ステラはたった一人で生きている。

彼女は夜空を眺めるのが好きだった。

星々は冷たいが美しく輝き、その光に触れるたびに彼女の胸には何とも言えない切なさが押し寄せてきた。
「もしもこの世界に朝が戻るのなら、どんなに美しいのだろう」彼女はいつも想像していた。

ある冷たい夜、ステラが森で月夜花を摘んでいると闇の中から一人の少年が現れた。少年は月のような白い服をまとい、銀色の瞳を持っていた。

「君、こんなところで何をしているんだい?」

ステラは警戒しながらも「月夜花を摘みに」と答えた。

少年は少し微笑み「僕の名前はソル。君に頼みたいことがあるんだ」と言った。

ソルは「この闇世に光を取り戻す方法を探している」と話し始めた。その鍵は「闇世の中心」にあるという。
しかし、その場所は極度の深闇と冷気に覆われており、普通の人間が近づけば命を落としてしまうという。

ステラはソルとともに旅に出ることを決意した。理由は自分でもよく分からなかった。
ただ、この世界の永遠の夜に答えを見つけたかったのかもしれない。

道中、二人は幾つもの困難に遭遇した。
闇に棲む奇妙な生物や、闇世のせいで狂気に囚われた人々。それでもソルの銀色の瞳と優しい言葉がステラを支えていた。


長い旅路の末、二人はついに闇世の中心へとたどり着いた。
そこには巨大な黒い湖が広がり、漆黒の空はどこまでも暗かった。

ソルは湖のほとりで立ち止まりステラに告げた。

「この湖の底に眠る太陽を解放すれば闇世は終わりを迎える。でも、それには僕が湖に還らなければならない」

ソルの正体は「太陽の欠片」だった。
永遠の夜が始まったとき、彼は世界の冷たい夜空に取り残された太陽のほんの小さな欠片だったのだ。

「僕はもう存在しなくなるけれど、君たちは新しい朝を迎えることができる」いつもの微笑みをたたえそう告げる。

ステラは涙を堪えながらソルを見つめた。

「一緒に行く方法はないの?」

ソルは静かに首を振り「これは僕だけができることだ」と答えた。
「ステラ、ありがとう。君がいなければここまで辿り着けなかったよ」ソルの頬には太陽のような熱い涙が流れている。

ソルが湖に飛び込むと東の空から徐々に世界が明るくなった。
冷たい夜空が朱色に染まり、長い長い夜が終わりを告げた。

彼女はただ、初めて見る朝日をじっと見つめていた。
その光は暖かく、切なく、美しかった。


それ以来、人々は再び朝と夜のある生活を取り戻した。
だがステラは誰にも言っていない。
初めての朝を迎えたその瞬間、なぜ自分がこんなにも悲しかったのかを。


永遠の夜は終わりを告げた。

人々は太陽が昇ったその日を「ソル(※太陽)の日」と名付けた。


終わり


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