犬と探偵
灰色の雲が低く垂れ込めた、どんよりとした午後。
横浜の寂れた港町の一角に、一台の白い軽バンが停まっている。
車内には二人の探偵が所在なさげに座っていた。
彼らはとある人物の素行調査のため、この場所に張り込んでいるのだが対象者は一向に姿を現さない。
二人はこの街で名の知れた探偵事務所に所属する、いわば「相棒」同士だった。しかし性格は正反対。探偵Aは熱血漢で猪突猛進型、探偵Bは冷静沈着で頭脳派。普段は絶妙なコンビネーションを発揮する二人だがさすがにこの退屈な張り込みには参っているようだ。
探偵A:「なぁ、犬ってさ、なんであんなに散歩が好きなんだろうな?」ぽつりと呟いた。
探偵B:「そりゃ犬の楽しみってそれくらいしかないからじゃないか?」窓の外を見ながら答える。
探偵A:「いや、でもさ、毎日同じ道を歩くだけだぜ?普通飽きないか?」
探偵B:「そう言われりゃそうだけど…案外、毎日が新鮮なんじゃね?道端の匂いとかさ、昨日と今日で違うだろ」
探偵A「匂いねぇ…そんなことで楽しいって思えるなら、人生ちょろいな」
探偵B:「お前もやってみればいいじゃん、毎朝散歩しながら道端の匂い嗅いでさ、たまに電柱とかに鼻くっつけて」
探偵A:「俺がそんなことやってたら間違いなく通報されるだろ。『怪しい男が朝から電柱の匂い嗅いでます』ってよ」吹き出した。
探偵B:「まぁ、それは確かに」笑いながら頷く。
探偵A:「でもさ、犬って他の犬に会ったときの挨拶も独特だよな。あれ、尻の匂い嗅ぎ合うっていう…」
探偵B:「あぁ、あれ見るたびにさ、もし俺たち人間も同じ挨拶だったらどうなるんだろって考えちゃうよ」
探偵A:「朝の通勤電車とか想像してみろよ。皆が入口で並んで、すれ違う度に尻の匂い嗅ぎ合ってたら地獄絵図だろ」
探偵B:「そりゃ確かにやばいな。やっぱ人間でよかったのかもな」
二人はまた笑い出し静まり返った車内に笑い声が響いた。
その時、突然スマートフォンが鳴り所長の声が響く。
所長:「おい、そこ何してる?現場の報告まだか?」
探偵A:「す、すみません!今すぐ確認します!」慌てて答える。
探偵B:「俺らも犬と大差ないな。いつも同じ車で同じ景色眺めて、上に吠えられたら尻尾巻いて応えるだけか」ぽつりと呟いた。
探偵A:「そりゃそうかもな。でも、少なくとも俺たちは尻の匂いは嗅ぎ合わなくていいからな」苦笑しながらスマホを置いた。
その一言で二人はまた笑い出し
張り込みの退屈さを忘れることができた。
彼らはいつここから離れられるのだろうか...。
終わり
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