夕暮れ時。
茜色の光が商店街を包み込んでいる。商店街には夕飯の買い出しに来た人々で賑わっており、行き交う人々の楽しげな話し声や子供たちの無邪気な笑い声、店先から聞こえてくる威勢の良い呼び込みの声。それらの音が混ざり合い活気のあるシンフォニーを奏でている。
大学生の沙羅はそんな商店街を足早に歩いていた。アルバイトへ向かう途中だ。つい先程までクラスメイトのカヤの恋愛相談に乗っていた、カヤにはどうしても付き合いたい男性がいるらしく沙羅に真剣な面持ちでアドバイスを求めてきたのだ。女同士の恋バナは盛り上がったものの、沙羅はアルバイトの時間が迫っていたので早めに切り上げてこの商店街の奥にあるアルバイト先に急いでいた。
人の波をすり抜けていたが、ふと誰かと肩がぶつかった。
「すみません」と軽く頭を下げたが、その瞬間いつものように相手の未来が一瞬視界に広がった。
沙羅には触れた相手の95分後の未来をその人の視点で見る能力があった。
だが、今回のビジョンは彼女の背筋を凍らせた。
「これは…殺人?」沙羅は思わず立ち尽くした。見えた未来の光景があまりに衝撃的で言葉を失った。
考える暇もなく、沙羅はビジョンの中で見たビルを探し始めた。
殺人を未然に防がなければならない。
焦燥感に駆られながら商店街を駆け抜け路地裏をくまなく探す。
そして、ついに見つけた。
あの映像と同じビルだ。
急いで階段を駆け上がり屋上へと続く扉を開けた。
屋上に出ると冷たい風が吹き抜けた。
下を見ると人々が小さく見える。まだ殺人は起こっていない。
時計を見るとぶつかってから既に90分以上が経過していた。
未来の映像と現実の時間とのずれはわずか5分。
「間に合った…」
沙羅は安堵のため息をついたのも束の間、背後に気配を感じた。
振り返るとそこには恋人のたかしが立っていた。
「たかし…どうして、ここに?」と問いかけた。
「沙羅がすごい顔してこのビルに入っていくのを見かけたからさ」と彼は静かに言った。
彼は沙羅に歩み寄りながら「見て、流星群だ」と宙を指さした。
思わずたかしの指さす方向に目を向けたと同時に沙羅の身体は宙に舞っていた。
その瞬間、再びビジョンが視界に広がる。
ドスンという大きな衝撃音と共に沙羅の視界は闇に包まれた。
終わり
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