サンタクロースと探偵
吐く息が白く染まる聖夜。
街は煌びやかなイルミネーションに彩られクリスマスキャロルが楽しげに響き渡る。
だが、そんな喧騒とは無縁の場所で二人の探偵は凍えるような寒さの中、白い軽バンの車内に潜んでいた。
対象者はこの近くに建つ高級マンションに住む男。
クリスマスイブだというのに彼は家族ではなく、愛人と密会するらしい。依頼人は彼の妻。夫の不貞の証拠を掴むため二人の探偵に調査を依頼したのだ。
探偵A:「なあ、サンタクロースって実在すると思う?」缶コーヒーのプルタブを指でいじりながら尋ねた。
探偵B:「なんだよ急に」退屈そうにタバコの火をもみ消しながら笑った。
探偵A:「いや、ほら、いろんな国に子どもたちがいるわけだろ?一晩で全員にプレゼント配るって、どう考えても無理じゃないか?」真顔で聞いている。
探偵B:「だからあれだろ?時間を止める魔法とか、分身の術とか使うんじゃないのか?」適当に返す、特に興味はなさそうだ。
探偵A:「でもさ、プレゼントを運ぶのもおかしいよな、煙突から入るって設定だけど最近の家に煙突なんかないしさ」
探偵B:「じゃあ玄関から入るんじゃね?鍵とかピッキングして」
探偵A:「それってただの不法侵入じゃん!」真面目なツッコミに探偵Bは吹き出した。
探偵B:「まあ、サンタなんて最初からいないんだから、そんな真剣に考えるだけ無駄だろ」軽くあしらう。
探偵A:「でもな、子どもたちがあんなにサンタを信じて楽しみにしてるのにいないって決めつけるのはどうなんだよ。サンタは心の中にいるとか、そういうことじゃないのか?」さらに語気を強める。
探偵B:「お前、真面目かよ」あきれた顔をして笑った。
探偵B:「だいたいさ、もし本当にいるならこの張り込み手伝ってくれりゃいいんだよ。空飛ぶソリで対象者を見張ってくれたらこんなに寒い中待たなくて済むのにな」
その瞬間、遠くから微かな音が聞こえた。
二人の探偵は同時に窓の外に目をやる。
軽快な鈴の音。
探偵A:「……え、今の音何だ?」
探偵B:「わかんないけど、ただの風の音じゃね?」
次の瞬間、通りの角に見慣れない影が現れた。赤い服に白い縁取り、ブーツを履いた老人。大きな袋を肩に担いでいる。
二人の探偵は顔を見合わせた。
探偵A:「……おい、もしかして本物のサンタ?」
探偵B:「いや、まさか。でも……」
そう言いながらも二人の探偵は慣れた動きで軽バンを降り、影に向かって駆け寄った。
探偵A:「そこのサンタさん!!」声をかけると振り返った老人は驚いた顔を見せたかと思うと、一目散に逃げ出した。
探偵A:「ちょっ、待って!」
探偵B:「ただのコスプレした泥棒だろ?」
追いかける二人の探偵の後ろで、夜空にひときわ大きな鈴の音が響いた。
ふと見上げると満月の光の中を何かが飛び去っていく。
トナカイを連れたソリのようなシルエットが一瞬だけ見えたような気がしたが、それが本物だったのかは結局わからなかった。
探偵A:「あのサンタが本物なら、プレゼントくらい置いていってくれてもいいのにな」息を切らしながら呟く。
探偵B:「俺らに渡すプレゼントなんて、せいぜい防寒具くらいだろ」肩をすくめて笑った。
二人の探偵は結局また寒い車内に戻った。
そしてどこか現実味のない夜に少しだけ温かい気持ちを抱いたのだった。
終わり
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