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真夜中の家路

都会の喧騒を背に今日もまた達也は終電間際に会社を出た。薄暗い夜道を足早に歩く。
家路を急ぐ彼の横を時折タクシーが追い抜いていく。

「今日も遅くなってしまったな…」
独り言のように呟く達也。
彼は証券会社で働く32歳のサラリーマンだ。仕事熱心で責任感が強いのは良いのだが、それが裏目に出て残業ばかりの日々。終電で帰るのも日常茶飯事になっていた。
駅から家までの道のりは住宅街の静かな道だ。街灯の明かりが乏しく人気もまばらなこの道を達也は毎晩のように歩いていた。

ある日、いつものように家路を急いでいると、前方にゆっくりと歩く人影が見えた。老婆だろうか、小柄で猫背気味に歩いている。達也は軽く会釈をしてその人物を追い抜いた。

次の日も、また次の日も達也はその人物を追い越すようになった。毎日同じ時間帯に、同じ道で会うのは奇妙な偶然だと達也は少しだけ気にかけていた。

だが、ある異変に気付く。
日に日にその人物を追い越す場所が自分の家に近づいてきているのだ。最初は数百メートル先だったのが、数十メートルになり、ついには家のすぐ近くで追い抜くようになった。

「まさか、ストーカー…?」

不吉な考えが頭をよぎり、達也は不安と恐怖を感じ始めた。しかし、相手は老婆だ。まさか自分に危害を加えるとは思えない。
そう言い聞かせ気にしないようにしていた。

次の日の夜、達也の不安は現実のものとなる。
いつものように終電で帰宅した達也は自宅の玄関前に人影が立っているのを見つけた。薄暗い中でよく見えなかったが、あの老婆の小柄な体型だ。

「まさか…」

恐怖で足がすくむ。
心臓がバクバクと高鳴る。
しかしこのままではいけない、家の中には愛する妻や子供が寝ているのだ。ついに意を決して達也は人影に向かって駆け出した。

「おい!誰だ!」

叫びながら近づこうとしたその時、けたたましいクラクションの音が響き渡った。
眩しいヘッドライト。
達也は目の前に迫るトラックに気付くことができなかった。
激しい衝撃と共に達也の意識は途切れた。

どれくらい時間が経っただろうか。
うっすらと意識が戻ると路上に倒れている自分がいた。目の前には血のにじむ暗闇が広がっており、身体中が痛み動かすこともできない。
ぼんやりとした視界の中で、あの老婆らしき人影が近づいてくるのが見えた。

その人影はフードをゆっくりと取り去った。
そこに立っていたのはかつて愛人関係にあった元同僚の涼子だった。


彼女は冷笑を浮かべながら言い放った。


「大好きな家の前で逝けるなんて、あなた幸せね」


半年前、彼女との関係を煩わしく思い、達也は一方的に関係を断ち切り彼女に対する悪意ある情報を流布した。
それが原因なのかどうかはわからないが彼女はいつの間にか退職していた。

涼子の瞳に映るのは冷たい怒りだった。


彼女の言葉が途切れると同時に
達也の意識は深い闇の中に沈んでいった。



終わり


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