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鬼と探偵と福は内

古い型の白い軽バンの中。
車内には缶コーヒーの空き缶と、コンビニ袋が雑然と転がっている。
時刻は23時過ぎ。二人の探偵は浮気調査の張り込み中だが対象者の動きがなく、ただ時間が過ぎるのを待っているだけだった。

探偵A:「なあ、節分ってあるじゃん?」後部座席で体をだらんと伸ばし突然話を振った。

探偵B:「なんだ、またくだらない話か?」ハンドルを握ったまま、目線を窓の外に向けている探偵Bが淡々と返す。

探偵A:「いや、ちょっと考えてみたんだけどさ。豆まきって『鬼は外!福は内!』って叫びながらやるだろ?」

探偵B:「そうだな」

探偵A:「鬼がかわいそうじゃね?」妙に真剣な顔をしている。

探偵B:「……かわいそう?」一瞬目を細め、探偵Aの顔を見たがまたすぐに窓の外へ視線を戻した。

探偵A:「だってさ、鬼ってただの象徴だろ?悪いものを追い払うために作られた存在で、本当に悪いことしてるわけじゃないじゃん。むしろ人間の都合で悪者にされてるわけでさ」

探偵B:「だから何だよ?」

探偵A:「いや、例えばさ。俺たちみたいな探偵だって人から見たら時々『うっとうしいな』とか思われてるかもしれないだろ?でも、こっちは正義のために動いてるわけだ。鬼もそんな感じなんじゃないかなって」

探偵B:「お前、本当に暇だな」短く息をつき、時計をちらりと確認した。

探偵A:「いやいや、聞けって!じゃあさ、鬼の立場から見たらどう思う?『おいおい、俺たちも生活があるんだぞ!』とか言って泣きながら逃げてるとかさ」身振り手振りで鬼の動きを再現し始めた。

探偵B:「……やめろ、狭い車内で暴れるな。こぼしたら片付けるのはお前だぞ」冷静に注意するが探偵Aは止まらない。

探偵A:「でさ、俺考えたんだ。『鬼は内!』って言いながら豆をまいたら、どうなると思う?」

探偵B:「福は逃げていくな」

探偵A:「あ、確かに……」しばし考え込むように沈黙した。

探偵B:「でも『鬼は外』って言い続けたら、お前みたいな奴まで追い出されそうだな」張り詰めた空気が流れる中、突然口を開いた。

探偵A:「なんでだよ!俺、鬼じゃないし!」

探偵B:「似たようなもんだろ。感情的に突っ走るし、周りを混乱させるし、体力のバケモンだし」

探偵A:「いや、それは……」言葉に詰まり、頭をかきむしる。

探偵B:「……でもな」珍しく少し笑みを浮かべて続けた。
探偵B:「お前みたいな奴が内にいるから、俺たちの仕事もなんとかなってるのかもしれない」

探偵A:「おお、それって褒めてる?」

探偵B:「どうだろうな」

その瞬間、目の前の建物から対象者の車が動き出した。

探偵B:「行くぞ」エンジンをかける。
探偵Aは急いで機材をまとめ始める。

探偵A:「なあ、俺たちの仕事って鬼か福、どっちなんだろうな?」

探偵B:「どっちもだろ」冷静にそう答えながら車を静かに発進させた。

白い軽バンは深夜の街へと溶け込んでいった。


終わり


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