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夏の探偵とアーティスト

夏の夜の帳が静かに住宅街を包み込む。
街灯のオレンジ色の光がアスファルトに伸び、ひっそりと停まる一台の軽バンを照らし出す。
車内には二人の探偵が、怠惰と焦燥を孕んだ空気を共有していた。冷房の効かない車内は、夏の夜の熱気と彼らの吐息でむせ返るようだ。

フロントガラス越しに見えるのは、規則正しく並ぶ家々。窓からは暖かな光が漏れ、時折聞こえる笑い声は、彼らのいる世界とはかけ離れた穏やかな日常を映し出している。

男たちは、そんな光景を前に、じっとその時を待っていた。
彼らの視線の先にあるのは、一軒の家の玄関。それは、これから起こるであろう出来事への不安と期待が入り混じった、長い夜の始まりを告げていた。

3時間後。
お決まりの退屈な時間が流れる中、二人は他愛もない会話を交わしていた。

探偵A:「探偵になってどれくらいだっけ?」

探偵B:「もうすぐ13年かな」

探偵A:「そういえば、今までで不思議な体験って何かある?」

探偵B:「不思議な体験か...。そうだな、あれは5年前の夏だった...」

探偵B「依頼人は、有名な画家の奥さんだ。旦那の浮気を疑っているとのことだった。
俺は、旦那のアトリエの近くに張り込み場所を確保し、数日間観察を続けた。しかし、旦那は毎日アトリエに籠りっきりで、浮気の兆候は全く見られなかった」

探偵A:「画家って、動きなさそうな職種だな」

探偵B:「ある日の夕方、俺はアトリエの窓から、旦那が絵を描いている姿を目にした。旦那がトイレ立った隙を見計らい近づいてみた。すると突然、絵の中の女性が動き出し、こちらを見て微笑んだんだ。
俺は目を疑ったが、確かに絵の中の女性は生きているように見えた」

探偵A:「まじで?」

探偵B:「次の瞬間、絵の中の女性は絵から抜け出し、アトリエの中を歩き始めた。そして、こちらに近づいてきて、こう言ったんだ。『あなたは誰?どうして私を見ているの?』と」

探偵A:「!?」

探偵B:「俺は驚きと恐怖で声も出なかった。すると、女性は悲しそうな表情を浮かべ、『私はもう絵の中に帰りたくない。この世界で生きてみたい』と言った。
俺は、どうすることもできず、ただ立ち尽くしていた。すると、アトリエのドアが開き、旦那が戻ってきた。旦那は女性を見て驚き、『君は...絵の中の女性?』と呟いた」

探偵A:「......」

探偵B:「女性は旦那を見て微笑み、『そうよ、私はあなたの絵から出てきたの』と言った。旦那は信じられないといった表情だったが、すぐに優しく女性を抱きしめ、『やっと会えたね』と言った。
俺は二人の様子を見ていた。そして、この依頼は解決済みとして、事務所に戻った。

後日、依頼人の奥さんから連絡があり、旦那が突然浮気をやめ絵に没頭するようになったと聞いた。
俺はあの絵の中の女性が、旦那の心を満たしたのだと確信したよ」

探偵Bは話を終え、探偵Aの方を見た。
探偵Aは目を丸くして、信じられないといった表情をしていた。

探偵A:「...で、それ本当の話なのか?」

探偵B:「さあ、どうだろうな。探偵の仕事は真実を見つけることだが、時には真実よりも大切なことがある。
それは、依頼人の心を救うことだ」ニヤリと笑う。

二人はしばらく沈黙し、それぞれの想いを胸に夜空を見上げた。


そして、意識が張り込みに戻った二人の目に飛び込んできたのは、対象者の男が別の女性と腕を組んで歩く姿だった。

探偵A:「...やっぱり、浮気してたんだな」

探偵B:「まあ、そういうこともあるさ。これが現実ってもんだろ」苦笑する。

二人の探偵は腕を組んで歩く男女の真実を確かめるため
そして何より、依頼人の心を救うため
夜の街へと足を踏み出した。


終わり

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