見出し画像

よくわかりません

吉川賢治は大手広告代理店で働く自他ともに認めるエリートサラリーマンである。妻の美穂と小学生の息子と娘に囲まれ、郊外の一軒家で穏やかな日々を送っていた。
しかし、賢治には誰にも言えない秘密があった。それは同じ会社で働く桜井愛との禁断の恋だった。

愛もまた夫と幼い娘を持つ既婚者だった。
二人は仕事を通じて知り合い、互いに惹かれ合うようになった。最初は業務上の連絡を装ったLINEのやり取りだけだったが、次第にそれは個人的な内容へと変わっていった。

そして会社帰りのカフェや、人目のつかないホテルで密会を重ねるようになった。
彼らは一切の痕跡を残さないようにと用心深く行動していた。LINEの履歴は頻繁に削除し、写真も決してクラウドに保存せず、スマホのロックも強化した。彼らは自分たちの関係が誰にも見つかることはないと思い込んでいた。

しかし、そんな二人の秘密に思いもよらぬ形で影が忍び寄っていた。

ある夜、賢治が眠りにつく直前、彼のスマートフォンが不気味な光を放った。画面には「データの更新を完了しました」とのメッセージが短く表示される。彼はそれを気にも留めずそのまま寝入ったが、実はその「更新」が彼らの運命を変えることになったのだ。

翌朝、賢治はいつも通り出勤し昼休みになると愛にLINEを送った。
「今日もいつもの場所で会える?」
「もちろん」すぐに返信が来る。
やがて仕事が終わると二人はデートへと向かい楽しい時間を過ごした。

しかし、その夜彼らのスマートフォンには異変が起こり始める。

翌日、賢治が目を覚ますと妻の美穂が彼を睨みつけていた。その目は怒りに燃え、彼女の手にはスマートフォンが握られていた。
彼は美穂に「何があったんだ?」と尋ねるが、美穂は無言でスマホの画面を見せつけた。そこには賢治と愛が密かに交わしていたLINEのメッセージやデートの写真が全て保存されていたのだ。

「これは、何?」怒りに震える美穂の声が響く。

賢治は驚愕して言葉を失った。なぜスマホにそんなデータが残っているのか、彼にはまったく理解できなかった。
焦りと混乱の中、スマートフォンを確認するとなぜかそのデータが彼のSNSアカウントにも公開されていた。
SNSを開くと賢治と愛の関係を暴露する写真やメッセージが次々と投稿されている。

「な、なんで…?」と呆然とつぶやく彼の脳裏に「データ更新」というメッセージが蘇る。
もしかするとあの更新によってスマホかクラウドデータに異常をきたしたのかもしれない。

一方、同じ頃、愛の家でも悲劇が進行していた。
彼女の夫も突然彼女のスマホに残された賢治との不倫の痕跡を目にしていた。彼は衝撃と絶望の表情を浮かべ言葉を失っていた。怒りと悲しみの入り混じった視線を向けられる中、愛もまたなぜかSNSで二人の関係が拡散されていることを知り震え上がった。


二人の不倫は瞬く間に拡散され、彼らの関係は職場の人間関係にも悪影響を及ぼし始めた。会社の上司や同僚たちも彼らのSNSを見て不倫の噂は瞬く間に広がった。

ついに上司から呼び出され二人は面談を受けることになった。
「吉川、桜井、君たちがやっていることは会社の信頼を揺るがしかねない。ここまで公然と不倫関係が広まっている以上処分は避けられない」

賢治と愛はまさに自らの破滅を目の当たりにし、互いに絶望の表情を浮かべるしかなかった。

その後も暴走は止まらなかった。
彼らが何をしてもSNSには自動的に二人の過去のやり取りや写真が次々と投稿されていくのだった。なぜそんな更新がされるのか彼らには理解できなかったが、彼らのSNSは日ごとに新たな証拠で埋め尽くされ、彼らの秘密は全て明るみに出されていった。

賢治の家族も、愛の家族も、世間の目とSNSの非難に晒され平穏な日常は音を立てて崩壊していった。子供たちは学校で「裏切り者の子供」としていじめを受け、家族の生活は地獄そのものと化した。
やがて二人は仕事も家庭も失い、何もかもを失ってしまったのだ。



最後に賢治と愛が会ったのは全てが崩れ去った後の薄暗いカフェの片隅だった。
互いに苦しみと絶望を抱えた二人は目を合わせることもできず、ただ黙り込んでいた。
二人の間にはかつての情熱も愛情も何一つ残っていなかった。

「なぜ、こんなことになったんだろうな…」賢治が小さくつぶやいた。

「ただスリルを味わってただけなのに...」生気のない愛もつぶやく。

おもむろに賢治はスマホを取り出し、騒動の原因をAIアシスタントに問いかけた。


AIは答える。


『すみません、よくわかりません。フフッ』


終わり


Xで呟いています フォローやいいねを待っています👍

Instagramは神奈川、横浜の風景がメイン

調査のご相談、お見積りはLINE公式アカウントから

公式HPはこちら

リンクまとめ


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集